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    ヨコカワ

    @wanwaninushizu

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    ヨコカワ

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    「あー!マジで疲れた!」

    珍しく粗暴な動作でロッカールームを開けたイサギは、中に入るなり大きな声で日本語を発した。それがどういう意味かは全く分からなかったが、先程まで行われていたハードな練習内容に対する感想だということは、何となく感じ取れた。

    「イサギ、お疲れ様」
    「お疲れ様です!キツかったですね」

    室内は2人だったため声をかけると、ドイツ語で愛想のいい返事が返ってきた。日本人は歴や年齢が上の人間を敬う文化があるらしく、イサギはチームのエースでありながら、自分よりも弱いものの、在籍の長い俺に礼儀正しい。
    彼はこのチームに来た時、既にドイツで言う成人年齢に達していたが、容姿はチームで1番幼く、それは現在進行形で記録更新されている。むしろ、周りが歳をとればとるほど顔立ちの幼さが際立っていくようだった。
    そんな、周りのチームメイトより丸みを帯びた頬のラインを眺めていると、妙にハリがあることに気がつく。

    「イサギ、肌の調子がいいな。女でもできたか?」
    「え?そんな時間ないですって」

    自分の言葉を即座に拒否したイサギは、でも確かに調子いい……とロッカーの扉の鏡でまじまじと自分の頬を眺めていた。先日ゲスナーに、お前狙いの女がいるから飲み会に来い!と誘われた際も強く断っていたため、てっきり恋人ができたのかと思ったが違うらしい。

    「赤ん坊みたいな顔を熱心に眺めて、どうしたんだ世一」

    先程より柔らかく扉が開く。チームではイサギと並んでエースを務める男が、上裸のままロッカールームに現れた。派手な刺青の上には雫が落ちている。シャワーを浴びてきたらしい。

    「赤ん坊じゃねえ!」

    声を聞き、イサギの大きい瞳が瞬く間に釣り上がる。
    ピッチの外では基本的に温厚な彼に、プライベートでもこんな顔をさせるのはカイザー(とたまにネス)くらいのものだ。

    ーーバスタードミュンヘンのツートップは不仲。
    この業界の人間であれば誰しも知っているその"常識"は、今日も変わりなく存在しているようだ。

    「そういやカイザー、さっきのミニゲームで……」
    「やめろやめろ。練習は終わった、今はオフタイムだ」

    カイザーのことが大嫌いと公言するイサギも、ことサッカーにおいては彼のことを認めているらしく、隙あればサッカー談義を始めようとする。それを察したカイザーは、うんざりと言った様子でシッシッとイサギを門前払いした。諦めてベンチに転がったイサギを気に留めることも無く、カイザーは自身のカバンの中からスプレーを取り出し、顔に中身を吹きかけた。少しだけ時間を置いて、ロッカールームの中に上品なバラの香りが広がる。思わず言葉が漏れた。

    「化粧水?」
    「そうだ、この間CMの仕事に行った時にもらった」

    カイザーの手元には、シンプルなボディに有名なロゴがプリントされたスプレー型のボトルがある。

    「流石、高いブランドだな」
    「使い心地も悪くない」

    俺はカイザーよりも在籍が長いが、流石は皇帝様なもので。機嫌が悪ければ、平気で俺のことも無視する。そして律儀に質問に答えたということは、今はかなり機嫌がいいと見た。

    「え?それ高いの?じゃあ俺の肌の調子いいのってそれのおかげだわ」

    カイザーにサッカートークNGを受け、ベンチで仰向けにだれていたイサギが、ぼうっと気の抜けた声でそう割り入った。

    「イサギもこれ、もらったのか?」
    「いや、こいつの家でよく使ってーー」

    ぐったりと天井とにらめっこしていたイサギは、そこまで言うと、絵に書いたようなリアクションで自分の口を両手で覆った。大きな瞳は見開かれ、しまった!と顔に大きく書いてある。

    「……い、いや〜今日の練習はハードだったわ〜〜!俺、早く帰らないと!」

    何とも不自然で苦しい言動。先程まで散歩の後の犬のように倒れていた体が、素早い動きで立ち上がって、着替えて、乱暴にカバンに荷物を突っ込んでいく。
    こいつの家でよく使ってる?イサギが、カイザーの家で、よく化粧水を使うーー?あの、犬猿の仲と名高い2人が?
    言葉を咀嚼しても、決して頭のキレる方でない自分の頭に浮かぶ推測と言えば、安直なものがただ1つ。2人は本当はお泊まりするくらい仲がいい、だ。

    「匂いでバレないようにわざわざ別のシャンプーまで置いてたのに、自分で墓穴掘っちゃうなんて。世一くんはマヌケねぇ」

    間違いなく本日1番の混乱の渦に呑まれていると、カイザーがマウント癖が出た時の嫌味たらしい笑顔を咲かせ、わざと部屋中に響くような声音で話し始めた。
    そんな大きな声を出さずとも、この部屋には俺とイサギとカイザーしかいない。俺は頭はキレる方では無いが、空気を察するのは上手い方だと思う。そう、つまりは事情を何となく察したので勘弁して欲しい。今すぐここを逃げたいのは、イサギより自分だと思う。
    その発言を聞き、ロッカーの前でせわしなく手を動かしていたイサギの顔が赤だか青だか、色んなものに変わる。やがてたまらないと言うように、歯茎をむき出しにしてカイザーの方まで歩いていき、袖が通されたばかりの彼のジャージの襟首を引っ掴んだ。怒りに満ちた日本語の、おそらく罵倒が聞こえてくる。

    もう分かった、分かったから。謎に心拍が上がる。何が悲しくてチームメイトの秘密の交際を知らなくてはいけないんだ。

    「じゃ、じゃあ、俺は、行くわ……」

    取っ組み合いみたいになっている2人には、もう俺の声は聞こえていないらしい。知られざる事実を飲み込んでしまった今、それはもう恋人同士の痴話喧嘩にしか見えない。
    その場に馴染んできたバラの香りで、酷く甘い胸焼けがした。
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