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    ヨコカワ

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    ヨコカワ

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    バスタード・ミュンヘン ミヒャエル・カイザー選手、チームアナリストと熱愛!?

    その記事は、端的にまとめれば「あのイケメンサッカー選手のカイザー選手が、青い監獄プロジェクト参加時から交流があり、今もチームアナリストを務める女性スタッフと熱愛発覚」というものだった。
    ネットのニュースサイトにデカデカと書かれた文字に、潔は目を疑った。
    震える手でその忌まわしき文字列をタップすると、数ヶ月前の自分の誕生日に、チームメイトがお祝いをしてくれた日の写真が映し出される。青いパーティドレスに身を包んで笑う自分と、その肩を抱いて花束を持つフォーマルな姿のカイザー。確かに、それはかなり熱の入ったデート帰りに見えないこともない1枚だった。

    「で、このふざけた記事は何?」
    「何って、見たままだ。明日リリースされる、俺と世一の熱愛報道」
    「言っている意味がわからない……これ、4月にチームで誕生日パーティ開いてもらった時の切り抜きじゃん」

    練習帰り、チームスタッフに手狭な会議室へと呼び出されたカイザーは、自分の数倍は飄々としており腹が立つ。
    そう、このゴシップニュースはもちろん真実なんかではない。4月の半ばに、チームメイトやスタッフが少し豪華なレストランで開いてくれた誕生日パーティの帰り道に撮られただけの写真。本当に根も葉もないフェイクニュースだ。
    チームの広報スタッフが、せめてイサギの顔にはモザイクがかかるようにって話をつけたんだけど、と眉を下げている。彼が悪い訳では無いので、どこか申し訳なくなる。問題はほぼ個人を指す情報がデカデカと書かれている事だった。

    「そんなもの放っておけ。いつも通り、3日すれば飽きられる」

    カイザーはこの見た目なので、よくパパラッチに追われてはある事ないことをマスコミに書かれている。熱愛報道とまではいかずとも、スポンサーの接待に来た偉いところのお嬢さんとの一場面を切り抜かれ、お忍びデートなんて書かれることは日常茶飯事だった。

    「でもこれ、このニュースが出た後にまたお忍びデート記事が書かれたら、お前悪者じゃね?」
    「世一が俺の心配してくれるなんて珍しいなぁ。いっそ真実だって会見でも開くか?」
    「寝言は寝て……」

    馴れ馴れしく肩を抱いてニヤニヤと嫌な笑みを浮かべるカイザーの頬を強めに押しながら、何がチームにとって最善か考える。いっそ、仮面の恋人を演じるのが最も不利益を被らない選択肢な気もしてきた。本当に、本当に癪だけど。
    うんうん、と頭を悩ませ始めた最中、パンツのポケットの中で何度か電子音が鳴る。仕事柄、私用社用問わず連絡は直ぐに見るようにしているので、無意識のうちにそれを取りだし、画面を見て、目を見開く。

    「そのニュースって、フランスとか日本にも出ますよね」
    「明日、同じタイミングで出ると思うよ。で、明日からオフだっていうのに悪いけど、カイザーとイサギは何日かホテルを手配するからーー」

    当たり前のスタッフの回答に、顔面から血の気が引いていく。カイザーがどうした世一、と顎を持ち上げて顔色を確認してくるくらいには、多分顔面蒼白なんだろう。

    「あの、ホテルはいいです。もう今日のうちにスペインに向かいます」
    「え?」
    「ごめん、カイザー。この件の対応は一旦保留で!」

    突拍子もない言動にスタッフは目を白黒させており、申し訳ないが時間が無い。このニュースがフランスにーー正しくは一人の男に届く前に、迅速に自分の家を出なければならない。これは死活問題。悪いことをしていないカイザーにも迷惑がかかっている状況は、善人の日本人として些か忍びないが、日頃の腹立たしい言動を免罪符に今はとりあえず己の安全の確保が優先だ。

    ――
    スペイン、マドリード。
    恐ろしく慌ただしい準備を終え、最低限の荷物を片手に片道2時間半かけてたどり着いた頃にはすっかり夜が更けていた。
    ゴールデンタイムも過ぎたマドリードの小さなバーでは、日本の至宝と名高い糸師冴がグラスを傾けながら、横の女を見ていた。

    「で、なんで俺なんだ」
    「ごめん、助けを求めることで二次災害にならない人間が、冴しか思いつかなくて……」

    ヨーロッパリーグに参加する各国チームは、現在オフシーズンに入り始めている。冴の所属チームも例外ではなく、オフの彼に鬼のように電話をかけて呼び出した。

    「どうしよう、今度こそ物理的に殺されるかもしれない」
    「愚弟と言えど、人殺しはしないだろ」
    「本当にそう思う?」
    「…………ああ」

    間が長い、嘘つきの目だ。
    例のゴシップニュースが世界中にリリースされるまであと十数時間。どうして夜逃げのように国境を飛び出してドイツを出たかと言えば、理由はある男にある。

    「凛のチームも明日からオフなんだって。タイミング悪すぎる」

    そう、青い監獄プロジェクトから交流のある男、そして目の前で無感情な瞳の色をしている男の弟、自分にとっては酷く横暴で破天荒なその人間が悩みの種である。

    「というか、お前らまだ付き合ってないのか」
    「まだって何で。勿論付き合ってないけど」

    スマホの通知欄には、数時間前から放置されている凛からのメッセージが表示されている。内容はいつドイツに向かえばいい、という感嘆符すら付いていない簡潔なものだ。このメッセージが来た時は、凛がオフを控えているタイミングに違いない。長めのオフがあると、当たり前にドイツに来るようになったことは、もう突っ込むのはやめた。凛と過ごすのは好きだし、自分から会おうと送る時もある。
    ただ、凛と自分は恋人では無い。
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