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    ヨコカワ

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    ヨコカワ

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    rnis プロ
    これの加筆修正前 途中まで
    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21478763



    糸師凛は酒にめっぽう弱い上に、悪酔いする。
    そんな、界隈でまことしやかに囁かれる噂があった。
    事実かどうかは分からない。凛は、公の場でアルコールを口にすることがほとんど無いからだ。自身のチームの所属する祝勝会だろうと、スポンサーの接待だろうと、空気を読むなんて概念は元より存在しないかのように、絶対に口にしなかった。


    その日は、2日前に日本で行われた国際親善試合の打ち上げが行われていた。日本代表が集まり、滞在していたホテルのレストランで開かれたそれは、チーム内部の人間しかおらずこじんまりとしたものだった。さらにいえば、ほぼ青い監獄の同窓会。そう言っていいくらい同郷の人間が多かった。
    普段、仰々しい祝勝会みたいな場が苦手な俺も、今日ばかりはこの場を楽しみにしていた。
    自分が(だけじゃないけど)ゴールを決めて勝った試合後であったり、ここが体に馴染む母国であったり、見渡せば仲のいい顔見知りばかりだったり、関係者しかいないため何の気を使う必要もなかったり。そういった様々な要素が少しずつテンションが上げているのは確かだが、それよりも己の気持ちを上擦るものにさせていたのはホテルの部屋割りだった。

    今回は部屋が2人1組で割り振られていた。完全にスタッフの采配で決められたそれによって、俺は凛と二人でしばらく過ごすことになった。気難しい凛と、世間ではバディ扱いされている俺が、代表戦の際に試合以外の部分でもセットにされるのは、まあよくあることだった。
    そんなこんなで凛との2人部屋も別に初めてじゃなかった。それに、試合までの日々はお互いいい感じに緊張感を持って過ごせていたと思う。

    だけど、今までとちょっと違うことがある。試合が終わるなり思い出したように意識してしまっているが、俺は凛のことが好きだし、凛も多分俺のことを好きだということだ。今考えていることを本人に読まれたら、殺すの一言で首を絞められてしまうかもしれないが、実際多分そうなのだから仕方ない。

    お互い監獄を出てからフランスとドイツでプレーしているが、オフには定期的に2人で会っている。監獄時代の自分が聞いても信じて貰えないかもしれないが、それは紛うことなき事実で、それがどちらからだったとか、そういうきっかけももう思い出せない。確かなのは、凛の方はよく分からないけど、俺の方は会っているうちに凛を好きになっていたということだけだ。

    「え?仲良すぎじゃね?」

    この話を、凛への気持ちは伏せつつ、久しぶりに会った旧友ーー蜂楽と千切に話した際には大層驚かれたものだ。凛も俺もSNSはあまりやらない方で、定期的に会っていることは自分たち以外知らない。そして数年前の関係で記憶が留まっている旧友たちからしたら当然の反応だろう。

    「いや〜仲良いと思うよな」
    「カップルの話かと思ったわ」
    「でもまあ、凛ちゃんは潔のこと好きだもんね」

    酒のグラスを傾けながら本気で訝しげな表情を浮かべる千切の横で、豪快に料理を自分の取り皿に運ぶ蜂楽がそう言った。

    「口を開けば黙れ、殺すなのにな〜。こんなに会ってるってことは、気は合うと思ってくれてんのかな」
    「や、Love的な意味で好きでしょって話!」
    「え?」

    その邪気も突拍子もない言葉に、自分の気持ちが見抜かれたみたいで心臓が飛び上がった。酔った勢いで、自分の凛への思いをどこかで吐露してしまったのかと思ったが、そうではないらしい。

    「俺はずっと前から勘づいててさ、プロジェクト終わるくらいから気づいてたよ」
    「まじか」

    フォークで大きすぎるくらいグルグルに巻かれたパスタが蜂楽の口に運ばれる様を見ながら、空いた口が塞がらなくなる。千切が、まあ、あいつ潔にだけ執着してたしなあ、と加担するような言葉を重ねた。
    いたずらっ子みたいな笑みを浮かべた蜂楽は、俺の気持ちを知ってか知らずか、女子高生みたいなアドバイスを軽く投じた。

    「潔も好きなら、ちょっとけしかけてみれば?」

    ――
    これは経験が皆無といっていいほど恋愛というものをサボってきた代償なのかもしれないが、人とは単純なもので、その日以来俺は凛のことをさらに意識するようになった。当たり前のように来るオフの日の誘いも、あれ、よく考えたらあの糸師凛が貴重なオフに2人で会おうと誘ってくるのって、やばいことじゃないか?と数年越しに気がついた。凛は平気な顔でドイツまで来るし、俺がフランスに行けば質の良さそうなレストランが予約されている。お互い寮にいるから一緒に泊まったことは無いけど、それでも朝から日が暮れるまで共に過ごすことも多かった。

    ……カップルじゃん。カップルかもしれない。
    凛が俺のことを好きなはずがないという強い先入観と、自分が凛のことを好きだという罪悪感で、もしかしたら自分たちは良い感じなのかもしれないという発想に数年間至らなかった。目からウロコ。思わず膝を打つ。
    そう思うとテンションが上がって、直近ドイツで会った時は良い感じのバーに凛を連れ込んでしまった。凛は一滴も酒を飲まなかったけど。

    ここで話が回帰するが、凛は本当に酒を飲まない。これだけ心を許しているっぽい俺と2人でも飲まない。導き出される答えは、酒を飲むとマジで不都合があるということだ。体質的にNGという言い訳もしないから、飲めるけど飲めないが正解。噂に違わず、下戸の可能性がある。
    そういうことで凛との関係について思う所のあった俺は、長い戦闘モードを抜けて浮かれたこの日に、とあるイタズラを目論んでいた。


    「凛、飲み直そうぜ!」

    打ち上げは穏やかなもので、誰1人潰れずにきっかり3時間で幕を閉じた。最近の日本サッカー界はクリーンなもので、こういう終わり方も予想していた。
    だから、事前にホテルに頼んで用意していたシャンパンを、シャワーから出てきた凛の顔の前に突きつけることに成功した。

    「1人でやれ」

    バスローブ姿の凛は、げっそりした顔で俺を見下ろす。あれ、こいつ、本当に俺のこと好きなんだろうか。少し不安になるくらい嫌悪に溢れた顔だった。

    「俺、凛と飲みたいんだって!この前バー行った時も飲まなかったし、体質的に飲めないのか?吐いちゃうとか?」
    「飲めないんじゃなくて飲まないんだよ」
    「飲めるならこれだけ付き合ってくれよ。今夜だけは無礼講だろ」

    このままだとガチギレで耳栓されて寝られてしまいそうで、ぽん!と情緒もへったくれもないタイミングでシャンパンを開けた。ベッドサイドに一緒に用意してもらっていたシャンパングラスを持ってきて、一口二口程度注いで再び顔の前に突き出す。

    「これだけ!な!」

    実際、これくらいなら飲んでもどうにもならないんじゃないかという量だった。でももしこの量で凛が酔っ払って、挙句に上手いこと本心が聞き出せたりしたらーー。些細な好奇心とイタズラ心に交じって、そんな下心が見え隠れする。
    凛はしばらく不機嫌にこちらを睨みつけていたが、俺の必死すぎる視線に珍しく折れたのか、乱暴にグラスを取って素早く飲み干した。

    「あ!乾杯もなしに!」
    「うるせえ。満足したなら寝ろ」

    凛は空いたグラスだけこっちに押し付けて、ツインのベッドの自分の方に潜り込んで行った。さすがに飲んだばかりでは、なんの変化も無さそうだ。表情も変わらない。
    実際体質的に問題がなくて良かったという安堵と(凛のことだから、本気でやばいなら飲まないだろうけど)、特に何のイベントも起きなそうな展開に自分の気持ちが萎んでいくのを感じた。
    そもそもタチの悪いイタズラだったし、酔わせて本音を引きずり出そうなんて発想も良くなかったかもしれない。突然浮かれ気分に水を浴びせられたように冷静になった俺は、いそいそとシャワーを浴びに向かった。
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