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    ヨコカワ

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    ヨコカワ

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    rnis
    幼なじみの、海外プロ選手rn×スポンサーのメーカー研究職リーマンisg

    そのうち続きを書きます✏️



    「あの糸師凛が、うちにデータ提供に来るらしいです!」

    研究所内の休憩室に駆け込んできた同期が、室内に響き渡る大声で突然そう言い放った。
    毎日勝手に回っていり朝ドラの再放送を垂れ流すテレビの音をBGMに、午前中の職務を全うしてぐったりとしていた職員たちが固まる。そしてすぐにどよめいた。あの糸師凛が?何でうちに?海外の大きいスポンサーでやったほうがいいだろ、この間のアジアカップで最多得点、すごかったなあ、など口々に感想がこぼれ落ちるなか、現実味のなさでぼうっとしていた俺のところへ、その同期が真っ直ぐ歩み寄ってきた。彼とはそこまで仲がいいという訳でもなかったので、明らかに話しかけられるであろう前振りに戸惑う。もしくは彼の前で、"糸師凛"の話をしたことがあっただろうか。

    「潔、糸師凛はお前が測定に立ち会うことが条件だって言ってるらしいぞ」

    オフレコなのか、彼は騒がしい室内で俺にしか聞こえないように声を潜めてそう言った。

    「……は!?」

    その気遣いを台無しにするようなオーバーリアクションを取ってしまった俺は、慌てて何でもないです!と周りの先輩、上司各位に頭を下げたのだった。

    ――
    某有名スポーツメーカーの研究センター。就職して3年目の俺は、この春研究職へと異動をしてきた。新卒の時に配属された営業職のポジションもやりがいがあったけど、アスリートのデータ分析ができるという1点のみに魅力を感じ、熱意の末のポジションチェンジを果たした。そのため、この施設ではヒヨっ子もいいところで、日々OJTを受けながら何とかこなしている毎日だった。
    そんな俺が、入って3ヶ月で部長に呼び出されるとは思わない。心当たりがあるとすれば、昨日同期に耳打ちされた件だろう。他に不祥事とかは起こしていない……はず。

    「営業から話は聞いていると思うがーー」

    まだ滅多に話したことの無い、というか初日以来顔を合わせていない気がする部長から、案の定"糸師凛の測定に立ち会う"というミッションを告げられる。
    この研究所には、様々なアスリートがデータを提供しに足を運ぶが、いまやワールドクラスといっても過言では無い選手が、日本の施設まで来るというのは中々ない事例だった。腐っても大手メーカーではあるものの、海外で活動する選手はそういったことも海外の施設で行うことが多い。凛レベルであれば、いくらでも大きなスポンサーがいて、拠点のフランスでレベルの高いデータ分析を受けることが出来るだろう。

    「あの、この施設にいらっしゃる理由とかは、仰ってましたかね?」
    「オフシーズンと被っているからということだが……潔君は知り合いだったのか?」
    「あー……」

    そうですよね。ワールドクラスの選手が、突然ぺーぺー新人の研究員を指名(そもそも測定職員の指名なんて聞いたことがない)してきたら、部長も気になって仕方ないだろう。

    「昔、小さい時に少しだけ近所に住んでいたことがあるので、面識は一応あります」

    しかしそれも20年前とか、そういうレベルの話だ。部長はまだ不思議そうな顔をしつつ、まあ、丁重に頼むよ、と話を終わらせた。実際、測定の立ち会いだけなら新人の俺でも問題なく出来る。

    問題なのは、何故凛が俺を指名しているのかだ。
    確かに、凛とは幼なじみーーと言っても、小学校に上がる前の小さい時に家がお隣さんだったという関係だ。当時はそれこそ、凛の兄も交えて毎日のようにサッカーをして遊んでいたし、いつも一緒にいるほど仲が良かった。
    しかし小学校に上がると同時に俺の引越しが決まり、中学に上がる頃までは家族ぐるみで会っていたが、それ以降はなかなか疎遠になっていた。
    高校を出た凛は、兄と同じく早々に海外チームへと所属し、20になる頃には日本一のFWとしてその名を知らしめたし、今はヨーロッパリーグで活躍する有名選手だ。まあ、これは雑誌やネットの記事を熱心に追って得た情報でしかないのだけど。
    そう、おそらく最後に会ったのは中学2年とか、それくらいだった。凛は昔のまま、兄のことが好きで無口な少年だった。サッカーの話で盛り上がった気もするが、内容もシチュエーションもほとんど覚えていない。だから、自分の中では5歳以来、実質20年振りの再会なのだ。
    アスリートとは月とすっぽんレベルだけど、俺もサッカーは大好きだし、昔のよしみで、凛についての情報はオタクと評されるレベルに持っている。うん、問題ない。そういえば、メディアのインタビューで見る凛は、昔の何倍もクールになっていた気がする。キャラなのか分からないけど、会ってしまえばどうにかなるだろう。そんな感じで、少しの不安と好奇心を抱えながら、凛が来る日を待った。

    ――
    測定日当日。
    専用の部屋で凛を迎え入れた俺は、久しぶりにその姿を見て、挨拶をすることも出来ずに硬直していた。
    デカい。データとして身長の数字は把握していたはずだけど、いざ見ると些か背が大きい。ガタイも想像より大きい。普段メディアで見かける、海外選手に囲まれている写真では分からないだけで、日本の成人男性としてはガチガチのアスリート体型だ。多分昔の小さな凛しか知らないから、尚更そう見えるのかもしれない。

    「おい」

    白衣にメガネ、(筋トレはしているけど)プロに比べたら何倍も薄っぺらい身体という己のビジュアルが恥ずかしくなってきた頃、顔を見るやいなや始まった数秒間の沈黙を打ち破ったのは凛のほうだった。

    「あ、あ、すみません!お疲れ様です!今日はわざわざ弊社までありがとうございます」

    訝しげな視線は、クールとか言うレベルではなかった。え?怖い。世界的なアスリートになると、こんなに高圧的になってしまうのだろうか。思わずへりくだって頭を下げれば、舌打ちが一つ聞こえた。もしかして俺のこと、嫌い?なんで指名したんだろう。ていうか指名ってなんだ。研究所でその言葉、初めて聞いた。

    「気持ち悪い態度やめろ。お前を呼んだ意味がねえだろ」

    凛は部屋の中まで進むと、敷かれていたヨガマットの上で柔軟を始めた。これは多分怒っていない。元々人見知りの気は昔からあった。インターネットでも、凛選手は気難しいという噂を度々目にしていたが、どうやら本当のようだ。

    「あ、えと、敬語とかじゃない方が良いってこと……ですかね?」

    確認するように尋ねれば、凛の鋭い睨みが飛んでくる。何度も言わせるな、という視線を受け取り、ハイ、スミマセン、タメ口でいかせていただきます、と硬い声で宣言した。

    「じゃあ改めて、久しぶり……?」

    幼なじみとはいえ、相手は世界的アスリート。しがないサラリーマンの自分とは住む世界が違う。なんと話しかけていいのか分からず、ストレッチの邪魔をしないような当たり障りのない切り出しをする。ああ、とぼんやりした返事が返ってきた。

    「なあなあ、凛は何でわざわざこの研究所まで来てくれたんだ?」

    ヨガマットの横にしゃがみこんで、身体の柔軟性に目をやりながら、早速1番の疑問を率直にぶつけてみる。

    「お前がここにいるって、母さんに聞いた」

    このビジュアルから飛び出した母親というワードにちょっと気を取られつつ、予想外の返事に目を丸くする。確かに糸師家母と潔家母は今でも仲が良く、メールのやり取りも定期的にしていた気がする。俺がこの施設に異動したことも、どうやら伝言ゲームで凛までたどり着いたようだ。経緯は分かったけど、理由はまだ分からない。それじゃあまるで、測定に来たというより。

    「俺に会いに来たってこと……?」

    オフシーズンとはいえ、多忙で仕方ないであろう凛が、俺なんかに会いに来る心当たりが無さすぎる。自信のなさがありありと現れて、語尾がしぼんでしまった。凛は何も言わずにストレッチを続けている。何となくそれが肯定だと読み取れる。こんなやり方じゃなくても、普通に連絡くれればよかったのに。軽い口調での返答候補が浮かんでくるが、どことなく真剣な雰囲気に何も言えなくなる。

    「約束、忘れたのか」

    不意に凛が顔を上げて、そんなことを言う。約束。約束?約束なんてしたか?ほぼ20年会ってないのに?もしかしてゲームとか借りパクしてただろうか。というか、約束を失念していること自体、かなりマズイんじゃないだろうか。冷や汗だらけで押し黙った俺の反応を肯定と捉えたのか、凛の眉間のシワが増えていく。1、2、3……ああ……。

    「待って待って、今日絶対思い出すから。時間くれ!」

    思わず床に膝をついて、あぐらをかいた凛の太ももに手を置きながら片手を顔の前に立てた。渾身の、たのむ!のポーズだ。凛の雰囲気から見るに、結構大事なことを忘れていると思ったからだ。会社の大事なお客さん兼ビジネスパートナーである前に、凛は幼なじみ……友人なのだ。しかも約束のために、こんな強行手段で俺に会いに来ている。絶対に思い出したい。
    懸命な想いが通じたのか、凛は「アホだな」と言いながら、俺の手を振り払うように立ち上がった。研究所全職員が楽しみにしている測定が始まる。そして、約束を思い出すという個人的超重要ミッションもスタートした。


    ――
    「で、思い出したか」
    「は……ハハ……」

    結果的に言えば、全く思い出せていない。これにはきちんと理由があって、プロのアスリートが叩き出す異常なデータに興奮してそれどころでは無かったのだ。一つ一つの測定をしては、ここがあのプレーに繋がってたのか!?とか言って、凛を質問攻めにしてしまい、そこから派生したサッカーの話を絶え間なくしていれば予定時刻をすっかり使い果たしていた。データだけはきちんと取った。職員としての責務は果たしたし、己のサッカー欲は人生の中でも最高潮に満たされているが、目の前の男の怒りのボルテージもそこそこ満たされているようだた。

    「今日は、あと何時間かあるから……」
    「じゃあ、お前の家に泊めろ」
    「思い出したらメッセするから、連絡先をーーえ!?家に泊めろ!?」
    「でけえ声出すな。連絡先も寄越せ」

    すごい、すごい横暴だ。ドリンクホルダーからスポーツドリンクを飲み干した凛は、自分の望みが叶えられて当然といった顔をしている。これくらいエゴイストでないと、世界では戦えないのかもしれない。

    「オフシーズンなんだろ?せっかく帰国したのに、実家に帰らなくていいのか?」
    「もう何日か帰った。それに、ここからだと時間がかかる」

    主に後者の理由に口ごもる。確かに、凛の実家のある神奈川の方まで今から帰るのはそこそこ距離がある。対して、最近引っ越した俺のマンションは研究所から車で10分程だ。

    「良いけどさ、マジでプロ選手を泊める家じゃないからな」
    「期待してねえ」
    「ベッド1つしかないし……まあ、俺が床で寝ればいいからいっか」

    俺を言いくるめた凛は、どうやら本当にしがない会社員のワンルームへと泊まりに来るらしい。これはいよいよ、人質になった約束を思い出さねばならない。着替えたあとに駐車場まで来るように凛に告げて、俺はまた頭を悩ませた。
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