料理作るとこ 食器洗いを終わらせた後、シピはエプロンの着方さえわからない僕にエプロンを着せた。
「何作りたいんだ? モノによっちゃ買い出し行かなきゃなんねーぞ?」
「君が食べたいものを作りたいな」
口説くかのように、わざと愛嬌たっぷりの笑顔を向ける。彼は呆れたように顔をそらしたが、猫の尻尾はご機嫌にピンと立っていた。
「そうだな、初めっからでも作れそうなのは……」
シピは冷蔵庫から卵をひとつ、使いかけのベーコンをひと塊取り出した。
「猫の手って言われて分かるか?」
「手? 分からない」
僕は目の前の猫が折り畳んでいる前足を見た。
「簡単に言や、指を切らないように先を丸めるんだよ。こんなもん全然猫の足に見えねーけどな」
彼はラップを剥いたベーコンを軽く握った拳で押さえる。そして、ピンクと白の横じまに向かって縦に包丁を入れた。
「切り方はどんなのでもいいけど、全部同じくらいの大きさでな。じゃねーと、上手く火が入らない」
ほら、と包丁を握らされる。包丁というのは存外重い。どんなのでもいいと言われたが、ひとまずは手本に倣うことにする。
おそるおそる、拳をベーコンにくっ付けた。ぬるぬるとした冷たい脂の感触が心地悪い。刃を当てるとベーコンが滑って逃げようとするものだから、我慢してぐっと押さえ込んだ。
のこぎりのように動かして、なんとか一枚、また一枚と切り分ける。自分が切ったそれを手本とを見比べると、おおむね全て同じ厚さだ。上出来ではないだろうか。
シピはフライパンをコンロの上に置いて、その下を指で指す。
「火はこのつまみを右。慣れねーうちは弱めの方がいいな」
言われた通りにつまみをひねると、カチッと硬い手応えがした。間近で火がついて、少し緊張が走る。
「底があったまったらそのまま焼いていいぜ。油は引かなくていい」
ベーコンを置くとジュウ、と想像していたより控えめな音がなった。
「この間に卵を割って──割れるか?」
「触ったのも初めてさ」
「だよな」
卵を握った上から手を重ねられる。その手で底の深い器の側面を数度叩いた。
「こんくらいの軽い力でヒビを入れんだよ。やってみ」