お題1(朱玄)玄武にアメリカの映画からオファーがきた。
プロデューサーさんがめちゃくちゃ興奮しながら俺たちに説明していて、賢さんまで仕事の手を止めて目を輝かせながら話を聞いていたのも、ずっと昔のように感じる。実際は数ヶ月前くらいだろうが、何年も前みたいな感覚だ。
無事学校を卒業できれば問題のないスケジュールだが、玄武なら全く心配ないだろう。長期の仕事になる為、玄武は俺や神速一魂としてのユニットのことを考えて少し迷っていたが、そんなもんいいから行ってこい!と送り出したのもまた、数ヶ月前である。
俺も玄武も無事に揃ってオウケンを卒業できたし、アイドルも3年目となれば俺一人でも仕事はある程度貰えた。まだ映画については発表されていないから、玄武と一緒じゃないことをファンたちから心配されもしたが、そこら辺はうまく事務所や俺たちでカバーした。
「撮影が終わったから、来週には帰国する」
「おう!気をつけてな!にしても、なにやってるんだ?すごい音だな」
「まだ打ち上げパーティー中なんだ。ん?ああ、───……」
電話の向こうで玄武が英語を話す声がする。何言ってるかはわからないが、賑やかな音楽や他の人の声も僅かに聞こえるから盛り上がっているんだろう。そんなパーティーの途中でかけてこなくても良かったのに、と思いながらも、ほとんど欠かすことなく決まった時間に電話をくれていた玄武の律儀さを嬉しく思った。
「朱雀、テレビ通話にしていいか?」
「いいぜ!」
ピッと切り替えると、まず画面に現れたのは知らない外国人だった。いや、どっかで見たことがあるような無いような……。後ろにもたくさん外人さんがいて、口々に英語を喋っている。
「────!───────!」
「──、─────?」
「あ!?あーっと……は、ハーイ!マイネームイズスザク!あとは……えっと、玄武ぅ!?」
「はは、悪い。皆に玄武のbuddyを見てみたい、って言われてな」
「お、おお……何て言ってんだ……?」
「あー……要約すると、噂通りのイカした男だと。髪型もキマってるって好評だぜ」
「マジか!」
よくわかんねぇが皆ニコニコ笑顔で手を振ってくれている。ニッと笑ってそれに答えると、ワッとあっち側で盛り上がった気がした。
それにしても、噂通りってなんだ?最近は海外からのファンもちらほらいるとプロデューサーさんから聞いたが、そんなに話題になるくらいではないはずだ。共演している玄武はまだしも、アメリカの映画俳優さんが俺のことまで気になってくれたとは正直あんまり思えない。
「噂になってんのか?俺」
「……まあ、な。ちょっと話題になってた」
「なんでだろう、お前が何か言ったのか?」
「……まあ」
珍しく歯切れの悪い返答をする玄武は、画面の端でわちゃわちゃと人に埋もれている。日本じゃ目立って仕方のない高身長も、あっちじゃ普通に埋もれるんだな。周りの人から肩に手を置かれたり、頭を撫でられたり、ハグされたりと随分可愛がられているのは少し様子を見ていただけでも十分わかった。
「こんにちは、スザク」
「あ!?こんにちは!」
「こちらは日本とアメリカのハーフのお方、ノーナさんだ」
突然聞こえてきた日本語にビックリする。あの大勢の中からスマホを獲得したらしい綺麗な女優さんに少しビビりつつ、画面の向こうに向かって頭を下げた。すると、彼女はたどたどしい日本語で、耳を疑うような単語を繰り出してくる。
「スザク、カッコいい、charmingな……ah、ダイスキな人?」
「え!?」
「ゲンブ、みんなにbrag……ジマン?してた。だからみんな、スザク、どんな人?気になった」「アネさん!?ちょっと待っ、wait!」
「so cute!ゲンブとオシアワセに♡」
「──────!」
ワッハッハ!とあっちがさらに盛り上がる。ほぁ、と情報が整理できずに間抜けな顔をしていると、焦った様子の玄武が映った。どうにかスマホを取り返せたようだ。
「ち、違うからな!?これは、お前のことを話したら誤解されただけで……!」
「お、おう」
「決してそういう意味じゃ……」
「ゲンブ、かおが赤い!」
「────────!」
「ちょっ、わるい、またかける……!」
急いで切られた画面は暗くなって、アホそうな顔をした自分が見えるだけとなった。あの様子じゃ落ち着いてから電話をかけ直してくるまで時間がかかりそうだ。緊張してたせいか、止めていた息をため息として吐いて、ベッドに座り込む。
スマホを充電ケーブルに繋いだところで、ふとあの女優さんが楽しそうに語っていたことを思い返した。玄武のやつ、あっちでも俺のことを話してたのか。それもなんだ、チャーミング?ダイスキ?皆が気になるくらい自慢してたって?
「…………?」
キュンと、胸が音を立てた気がする。
通話を繋いだ最初より焦って早口になった声と赤くなった顔を思い出して、さらにドキドキと胸が変な感じになった。こう……今すぐにでも抱きしめたい気持ちでいっぱいだ。
「ななな、なんだこれ……」
よく知らない感情が胸の中で暴れ回り、枕を代わりに抱きしめてベッドを転げ回る。にゃこの視線が痛いが、それどころじゃなかった。
会えないと数ヶ月が数年に感じるくらい長くて、胸がキュンやらドキドキやらして、抱きしめたい衝動に駆られて。後日それをそのまま事務所の年長者に相談したら「恋じゃない?」とさらに混乱させられるとは、まだ知らない。
この後、恋を自覚した朱雀が帰国と同時に玄武に告白して(ここがメイン)同棲生活を始める。