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    20240225開催ジェイルクオンリー展示作品その1

    1%の可能性「そういえば、さ。輪廻転生って、あると思うか」


     読んでいた本から視線を上げても、声の主と視線は交わらなかった。彼の目はただ、揺れる暖炉の火を映している。

     深夜、安宿の一室。暖炉の前。向かい合う椅子にルークと私の二人。脈診や問診を終えてもうだいぶ経つ。一向に帰る素振りも無く椅子の上に体育座りをして籠城を決め込んでいるルークに付き合ってもう一時間。カーテンの向こうでは相変わらず吹雪がカタカタと窓を揺らしていた。

     そういえば、等とは白々しい。ここを訪れてからずっと、引き結んだ唇の奥で何度その言葉を飲み込んだのか。ようやく形になった言葉は掠れ、そして震えていた。


    「輪廻転生といったオカルト的事象を私が信じているとお思いですか」


     頁へと視線を戻してから事務的にそう返す。一拍置いてからルークは苦笑とも安堵とも取れる吐息を零した。


    「……いや。科学的根拠ガーとか言いそう」

    「そういうあなたは信じているのですか?」

    「いや。別に。信じてるわけじゃない。けど。生まれ変わりって、前世で積んだ徳によってさ、来世は虫になったり、また人間になれたりするわけじゃん?」

    「なら私はきっと虫以下でしょうね」

    「え、虫以下って何?」

    「さあ。病原体とかじゃないですか。それかヘドロとか」

    「ヘドロ、」


     転生を信じていない者同士の不毛な会話。相変わらず私の目は紙の上の字面を追っていたし、ルークの声はもう震えてはいなかった。


    「俺さ。世界救ったら、来世すげーんじゃね?何不自由なく暮らしてさ、一生ハッピー。何やっても面白いくらい上手くいくの。挫折なんて無くて、後悔も無くて、それでたくさんの家族や友達に囲まれてさ、人生最高だったーって大往生すんの」

    「ヘドロとは大違いですね」

    「んでさ。逆に俺前世で何したんだーって思うわけ。街一つメチャクチャにして、仲間からの信用失って、尊敬してた師匠にも裏切られてさ。で、世界を救う手段が死ぬしかないなんて」

    「きっと悪行の限りを尽くしたんでしょうね。私のように」

    「ヘドロにすらなれてないのに?」


     パチン、と薪が爆ぜる。おもむろに文字が記号の羅列としか認識できなくなっていった。こういう時、私は私が幾らかまだ人間であることを知る。


    「レプリカの俺には、前世も来世も無いのかなって」

    「ルーク、」


     諦めて本に栞紐を挟みながらその名を呼ぶと、向かいの椅子の上で彼は困ったように笑っていた。何故だかいたずらがバレた子どもを見るような顔をしている。


    「輪廻転生といったオカルト的事象を私は認めていません。ですから私にも前世や来世など存在しません」


     ルークは二度、三度と緩慢な瞬きを繰り返した後、「さっきヘドロになるって言ったくせに」と少し拗ねたように呟いた。暖炉の火に照らされたその横顔は、ここを訪れた時よりは幾分かまともになったように映った。やおら立ち上がった彼が最後に残した言葉でそれが、思い違いでは無かったと知る。


    「じゃあ俺は。ヘドロに棲むバクテリアにでもなるわ」


     へらり。笑った彼に呆れてしまう。輪廻転生を否定する私と、輪廻転生の輪から外れていると主張する彼の、可能性ゼロの物語。

     そんなものは存在しない。存在し得ない。緩んだ口許の理由は、彼の言葉があまりに馬鹿げていたからだ。



     吹雪はまだ収まらない。一度閉じた本を開き、私は再び文字を追うことに没頭していった。

     私はまだ知らない。可能性ゼロの物語の、1%の可能性を後に想うことになろうとは。


     この時の私はまだ、知らない。

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    囲(かこ)

    DONEガイルクとジェイルクが美味しいよ~というお話。
    ガイがカースロットを受けて操られていて、なおかつ「ルークを殺したいほど憎んでる」ことが発覚したけど詳しい事情は分からない、という状態でのお話です。はい。そんな時空存在しません。都合の良い世界線を勝手に作り上げました。やったね!
    カーテンだけで仕切られてる宿屋のベッド、なんかエッ(文章はここで途切れている)
    牽制仕切りのカーテンの合間を縫って誰かが入ってきた気配がする。続けてギシ、とベッドが軋む音がしてルークは目を開いた。寝ぼけまなこで視線を巡らせれば、そこにはベッドに片膝を突いてこちらを見下ろすガイの姿があった。
    「ガイ……?どした、?」
    眠たい目をこすりながら起き上がろうとするが、その前にガイの手が伸びてきて肩を押さえつけられてしまった。ルークの身体はまたシーツの上に逆戻り、馬乗りになった親友の姿が徐々に近付いてくる。暗くてよく見えなかった彼の瞳は間近で見るとどこか虚ろで、そこでようやくルークは今の状況に危機感を覚えた。
    (まさか、操られて……ッ?!)
    「ガイッ?」
    もう一度、しっかりと目を見て名前を呼ぶ。けれど親友からの返答は無く、頸動脈をなぞり上げるその指先がルークの不安を一気に煽った。
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