pm23:00目の前も、何もかも、ぐるぐるとまわっている。
また飲み過ぎてしまった。
既に空になっているビールの缶を、寝転んだまま眺めるけれど焦点が合わない。
少し、目線を上げればこの家の主と目が合った気がした。
「…なんらよ、…さかい」
「もう帰れよ、お前。送ってやるから。」
「いま、うごけねえよ、おれ、…みて、わかるだろ…」
だから言っただろ、と。堺が、そんな眼で俺を見る。
なんか言われたっけ。
ああ、飲み過ぎだとか、もうやめとけとか、その辺り、言われたのかもしれない。
「うごいたら、…吐く、って、」
「馬鹿」
「…だって、…うまくて、…おさけ…」
堺は床で寝ている俺を溜め息を吐きつつソファから見下ろして、のそりと立ち上がると冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出し持って来る。
そして、俺の横に胡座をかいて座ってから、ん、と手に持つソレを差し出して来た。
「さかいくん、のませてくんね…」
「どうやって」
「どうにか…」
「はぁ?」
ミネラルウォーターの入ったボトルを一旦床に置いてから。
不機嫌そうに、ぐしゃぐしゃと短い髪をかいて堺は言った。
なんなんだお前は、と。
「…わるい…、…飲ませるの、むずかしい?」
「…ちっ」
堺は舌打ちをしてからボトルを持って、ぐっと捻って蓋を外す。
とぷん、とボトルの中の水が跳ねて音が鳴った。
それを堺は口に運ぶ。
なんだ、俺に持って来たんじゃねーのか、お前が飲むのかよとぼんやり眺めていたらそのまま顔が近付いて、唇が重なったから、瞳を見開く。
「ン、…⁉︎ん、…く、」
「…っは、…すげー酒くせぇ、」
「はぁ、……お、い、…何すんだよ、」
「お前が頼んだんだろーが」
「…き、キスしろなんて!…おれ、言ってねえ…!」
「キスじゃねぇ、口移し」
「一緒じゃん、…ン」
もう一度、堺は水を口に含んでから俺に口付けると水を流し込む。
堺の手が頬に触れて。少し冷たくて心地が良い。
水を飲み下した辺りで、ぬろ、と今度は舌が口の中を這う。
ちゅ、と軽く吸われて口が離れる頃にはもう何も考えられなくなっていた。
「…は、あ、…なに…、まじで…、」
「動いたら吐くっつっただろ、逆にどーすんだよ。…飲みすぎなんだよ、馬鹿」
「………はは、…うん、それは、そーね…なあ、堺、今日泊めて、おれ、ほんとに、むり…」
「ずっとそこで寝てろ」
「わぷ、」
ソファに置いてあったブランケットを頭からかぶせられて変な声を出してしまった。
…俺が起きたら、覚えてろ堺。
そう思いながら、なんとか寝返りを打って横向きになる。
まだ傍にいる堺の膝の辺りにぐりぐりと頭を押し付けてからそっと瞼を閉じた。