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    雨音@ししさめ

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    雨音@ししさめ

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    2023.2.2。お題『モブ看護師から見たししさめ』

    アイスクリームの溶ける恋 神原理子カンバラリコ、2x歳独身。彼氏いない歴x年。
     職業・看護師。そこそこ大きな病院勤務。
     彼女は今、戸惑っていた。
     それなりに人の行き交う、喧騒にあふれた街の中。
     今日は、久しぶりの休日で。
     仕事は嫌いじゃないけれど、予定外の七連勤はしんどくて……交代できる人が自分しかいなかったから仕方ないけれど……持ちつ持たれつ……
     (て、私のことは今はいい! )
     油断すれば延々と愚痴に埋め尽くされそうになる思考を遮り。もう一度、自分が今見ているものを確かめる。
     片側一車線の道路の向こう。
     行列ができている流行りのアイスクリームショップから出てきた、細身の男性。
     (村雨先生だ)
     理子が勤めるのと同じ病院の、外科担当。
     あまりにも動かない表情ととても優秀な手術の腕、それと只者ではないような雰囲気で密かに有名な医者だった。
     (……)
     日頃、休みの日に外で職場の知り合いに会っても、当然じっと見たりしない。
     お互い気まずいだろうし、相手が気がついていないようであれば、見ないふりでさっと立ち去る。
     もちろん目が合ったりしたら、会釈くらいするけれど、今のように凝視するようなことはしない。
     筈。
     (でも、これは仕方ないよ……!! )
     心の中で自己弁護。
     オフの筈なのにきっちりとジャケットを着込んだ村雨の手には、コーンに乗ったアイスクリーム。
     理子もいつも食べる濃厚なチョコレートと、期間限定のトリプルベリーのソルベ。
     問題は、その隣。
     明らかに連れ立って出てきた、金髪に青い目の、村雨より少し下くらいの男性。
     服の上からでも分かる、鍛えられたような逞しい身体に高い身長。
     同じくWのコーンを持っている。レモンソルベと、バニラアイス。シンプルなのが好き……?
     (えー誰 兄弟、じゃない髪の色が全然違うし……あの金髪は天然みたい…………お友達? ご親戚 )
     店から出た二人は、何か楽しそうに会話しながら、時々アイスを口にしている。
     そう、「楽しそうに」。
     (村雨先生……)
     理子が知る村雨は、患者に対して最低限の愛想は持ち合わせているものの、本当に最低限で。
     表情の変化はとても少なくて……どんなクレームをつけてくる患者にも、眉すら動かさない冷静沈着無表情、が、皆んなの共通認識で。
     けれど、今。
     金髪男性から何か言われて、口角を上げる。
     何やらムキになった様子の男性を見て、目にからかうような色を浮かべる。
     アイスを食べれば、目を細めて堪能し、下がり気味の眉が更に下がる。
     (……あんな風に、笑う人だったんだ……)
     ふと、何やら言葉をかけた村雨に、男性がアイスのコーンを差し出した。
     それに、パクっ、と。何の躊躇いも無く口付けた。
     (ええ)
     驚く、などというものではなかった。
     あの、村雨先生が……? 今日だけで何回、こう思ったのかは最早分からない。
     (……あ! )
     一口で満足したのか、村雨が顔を上げる。
     それがちょうど、たまたま車の居ないタイミングで……車道越し。はっきりと、理子と目が合っていた。
     ヤバい と、気が付いた時にはもう遅い。言い訳できないくらい、立ち止まってじっと見ていたことは誤魔化しようがない。
     (……どうしよう。会釈くらいする…… )
     言い訳は、ああ、どうしよう。
     そんな迷いは、けれど一瞬で吹き飛んだ。
     金縁眼鏡の奥、暗赤色の目が理子を捉えた、と思った瞬間……
     ()
     すっと、立てられた細い人差し指。
     整えられた爪のソレは、唇の前に添えられた。
     内緒だ。
     何も言われなくても、伝わった。
     (……)
     カッと、頬が熱くなる。
     その村雨に男性は不思議そうな顔を浮かべたが、それに何か答えた様子も無く。
     そのまま並んで歩き出し、二人連れ立って、街の人混みへと消えていく。
     あとは熱くなる頬を両手で抑えた、理子だけが残された。
     (えー村雨先生が、えー! あんな顔で笑って……えー!! )
     頭の中に、! と? が乱れ飛ぶ。
     速くなる鼓動をそのままに、先ほど見た忘れられない光景を思い出す。
     金髪男性の隣で、自然と表情を変えていた村雨先生。
     理子が知るどんな彼とも、結びつかないその表情。
     (……ああ……)
     あんな顔で、笑えるんだ。
     ドキドキと、高鳴る胸を抑える。
     神原理子、2x歳独身、彼氏いない歴x 年。
     落ちたばかりの恋は、走り出す前に終わっていた。
     (あの人は……)
     あの顔は、親戚や兄弟でもない、増してやただの友達でもない。
     人生の伴侶に向ける顔だ。
     (………よし)
     気合いを入れて、抑えていた手で頬を叩く。
     この火照った顔には、アイスがいい。
     濃厚なチョコと、期間限定のトリプルベリー。
     きっと一口食べれば、幸せな気持ちになれるだろう。
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