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    雨音@ししさめ

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    雨音@ししさめ

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    2023.2.6。LiA後想定。🦁さんの告白2

    臆病者の存在証明「で。敬一君は礼二君に何を言いたいんだ?」
     叶の言葉は唐突だった。は? と獅子神は目を瞬かせる。
     よくあるコーヒー店の四人席。待ち合わせに先に到着した叶と二人、飲み物を買って座った直後のことだ。
    「は? じゃないぞ敬一君」
     やれやれと嘆息してみせる。
    「オレらが居る時でさえ、じっと礼二君を見る、何か言おうとしてやめる、かと思えば、目が合えば逸らす。観測するまでない」
     恋する女子高生より分かりやすいぞ、と続く言葉に、目を逸らす。
     自覚はしていたが、まさかそこまで分かりやすいとも思っていなかった。
     村雨礼二。
     つい先日、共に死戦を乗り越え(死にかけたのは自分だけとも言えるが)、勝利を納めた医者のこと。
     確かにそう、言いたいことがある。
     伝えたいこと、というべきか。
    「オレが観測するに……このあいだのタッグマッチに関係あるな」
    「……」
     そこまで分かられているとは……いや、相手は格上のギャンブラーなのだ。悟られていないわけがない。
    「礼二君に言いにくいなら、オレで練習してもいいぞ?」
     カラーコンタクトの瞳が覗き込む。
     しばし逡巡し、息を吸い込んだ。
    「『君は受容により弱くなった』」
    「あ?」
    「対戦した、刑事が言ってたんだよ」
     訝しげな顔をしてくるのに、淡々と告げる。
    「そんなの、どうせ礼二君が否定しただろ」
     さすが、と言うべきか。そこまで見通されている。
    「ああ。でも、村雨が変わった、てのは、実際そーだと思うんだ」
     初めて会った時のことを思い出す。耳が聞こえないと、後から聞いた。そんな様子は全く見せず、学生たちを追い詰めていたギャンブラー。
     第一印象は「バケモンか?」だった。
     今、あの場所に遭遇しても、きっと村雨は同じことをするだろう。
     けれど確かに、村雨礼二は変わったのだ。
     それはあの時の「我々は賭けに勝ったのだ」と告げた顔が証明していた。
     何よりも、そう、刑事の定義した「友人」と言う言葉を、アイツは否定しなかったのだ。
    「……オレ、怖かったんだよ。オレばっか電流浴びてた時。マジで、帰ってこれねーと思った」
     カップを持ち上げ、コーヒーを啜る。ホットのブラックコーヒーは、すっかり温くなっていた。
    「村雨が、オレ見捨てるって思ったワケじゃねーけど。淡々と追い詰められてるのが、怖かった」
    「で? だからオレは礼二君から離れますって? 自分がいることで礼二君の弱点になるから? 礼二君が怖いから?」
    「……いや」
     首を振る。
     カチリ、と音を立てて、カップをソーサーに戻す。
     言葉は、躊躇いなく滑り出た。
    「オレは、絶対、村雨から離れねぇ」
     ほう? と反応する叶の目を正面から捉える。
    「たとえオレが傷ついても……傷つけても。絶対に離さねぇ」
     村雨礼二の隣は、オレのモンだ。
     言い終え、息を吐く。
     そう、結局はそう言うことだった。或いは決意表明にも似たそれを、ずっと言いたかったのだ。
    「ナルホドな?だってさ、礼二くん」
    「……マヌケが」
    「……はあっ」
     すぐ近くから聞こえた声に、反応が遅れた。見れば、テーブルの隣に、トレーを手にした村雨の姿がある。
    「え? オマエ、いつの間に……?」
    「周囲に対する観測が甘いぞ敬一君」
     ケラケラと笑う声を聴きながら、ちら、と村雨を見る。
     金縁眼鏡の奥の目は、いつもと何も変わらないようで。
    「どーだ、礼二君? オレの観測は少しだけ外れたな」
    「は」
    「まぁ、マシなマヌケならそんな所だろう」
    「いや、だから何だよ」
     まるで一世一代の告白を聴かれたような気分になる。しかも相手はあの村雨礼二だ。どう受け止められたのか、まるで想像が付かない。
    「……マヌケが。あなたに、権利があると思うのか」
     淡々と告げられた言葉に、獅子神は思った以上にショックを受けたことを自覚する。
     いやそりゃ、オレじゃまだ届かないだろうけど。
    「あー敬一君。気が付いていないだろうから、教えてあげるけど」
     言い返す言葉を無くす獅子神を、叶が掬い上げる。
    「今のは『あなたに私から離れる権利があると思うのか』って意味だぞ」
     な?と振られた村雨は否定しない。
     ただ自然な動作で、獅子神の隣に腰を下ろした。
     トレーに乗っているのは、期間限定のチョコレートフラペチーノ。一口クリームを舐め、満足したように下がり気味の眉を更に下げる。
    「……あ」
    「オレは、てっきり敬一君から愛の告白が聞けると思ったんだけどなー」
    「愛て、なんっでそーなるんだ」
    「それは、何よりもまず私に直接言ってくるべきだろう」
    「ま、そりゃそうかー」
     だってさ? 敬一君。
     面白そうにこちらに振られるのに、頭を抱える。
    「獅子神」
    「………あ?」
    「あなたが誰のものなのかは、わかっているな?」
    「……っな」
     一気に顔が熱くなる。いやオマエの隣がオレの、とは言ったけど、オレ
     あー……と、前髪を掻く。
     オレは、オマエのものだ、とは。悔しいから、せめてもの抵抗で今は言ってやらないと決めた。
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