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    雨音@ししさめ

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    雨音@ししさめ

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    2023.4.27。学パロ。第一話出会い編。
    🦁⇨1年C組。美術部員。寮住まい。
    ☔️⇨3年A組。生徒会書記。万年首席。

    ##学パロ

    【学パロ】STAY with ME① 獅子神敬一。
     高校一年生。一五歳。入学して一ヶ月ほど経ち、高校生活にもそれなりに慣れてきた頃である。
     鮮やかな金髪と碧い瞳に最初こそ戸惑われもしたが⋯⋯明るい立ち居振る舞いと飾らない性格により、あっという間に友たちはできた。
     付き合いではあったが美術部にも入り、悪く無い日々を送っている。
    **
     放課後。
     同じ制服の生徒で溢れる校舎とグラウンドを避け、獅子神は裏庭にたどり着いた。
     辺りを見渡して人影が無いことを確認し、スマートフォンをスピーカーモードに設定する。
     適当に放り出した端末から響くのは、男性二人の声が紡ぐ英語の歌詞。
     しっとりと広がるそれに耳を傾けながら、スケッチブックを取り出して広げる。
     鉛筆を手に取りしばらく紙の上を彷徨わせるものの、一本の線を生み出されることもなく。
    「あー⋯⋯」
     呻く。
     制服のネクタイを緩め、首元のボタンを上から外す。
    「何描けばいいんだよ⋯⋯」
     獅子神は、美術部員だった。
     入学早々仲良くなった隣の席の男子に誘われて入り⋯⋯その男子がすっかり幽霊部員になった今も、毎日ではないが顔を出していた。
     その美術部員の全員が出展するコンクールが、近く、ある。
     一年生の課題は特になし。まずは『芸術』に慣れ親しむ為、好きなものを好きなように表現する、ということだ。
     とりあえず⋯⋯絵を描こう、とは決めたものの⋯⋯思い当たる題材もなく。
     鉛筆を指先で回しながら、スマートフォンから流れる音をきく。
    「……In restless dreams I walked alone
     Narrow streets of cobblestone
     'Neath the halo of a street lamp
     I turned my collar to the cold and damp……」
     小声で、唄う。流れてくるリズムに乗せて。
     やがて声は人の居ないのを良いことに⋯⋯徐々に、音量を増していく。
     誰も聴いていない今なら、風に歌声を乗せるこ
    とも、悪く無いと思うのだ。
     降り注ぐ日の光が気持ちよくて。頭の上でサラ
    サラと擦れる葉擦れ音が心地よくて。戯れに、鉛筆を紙に走らせる。
     具体的に作品は仕上がりはせずとも。思いつくままに出来上がる絵に、気分は上がる。
     猫。きつね。南の島。傘。サイコロ。オレンジジュース。
     一枚。一枚。書いてはスケッチブックを切り離し、草の上に置く。
     スマートフォンからは、リピートに設定してある曲が、変わらず風に乗り耳に届く。
    「And in the naked light I saw
     Ten thousand people, maybe more…………っと!?」
     突如、強い風が吹いた。
     草の上のスケッチが、巻き上げられる。
     慌てて立ち上がる。風に舞う白を追い、指を伸
    ばす。けれど、飛ばされたそれは一枚ではなくて。
    「⋯⋯と」
     何枚か掴み、たたらを踏む。
     態勢を持ち直し、残りは⋯⋯と、振り向けば。傍に立つ、眼鏡越しの瞳と目が合った。
    「!?」
     咄嗟に、足を止める。
     立っていたのは、一人の男子生徒。
     ネクタイの色からして、二つ上の三年生。
     艶やかな黒髪と、男子高校生にしては些か華奢な体型が印象に残る。
    「⋯⋯あ」
    「これは⋯⋯あなたのか?」
     滑り出た声は、獅子神の耳に真っ直ぐに届い心地の良い声だ、と。思った。
     すっと。細い指が、スケッチの一枚を差し出す。
     反射的に受け取れば、男子生徒は小さく笑った。
    「People talking without speaking
     People hearing without listening……」
    「へ」
    「サウンドオブサイレンス⋯⋯か」
    「??あ!ああ」
     言われ。数拍遅れて、彼が口ずさんだのが、歌の一節だと気がつく。
     草に転がしたままの端末から流れる、二人の男性の歌声。
     それに、軽く目を閉じて。しばらく音を楽しんだ様を見せた後、男子生徒は微かに笑ったように見えた。
    「私も、好きだ」
     私。
     一七歳か一八歳の筈なのに、珍しい一人称だな、と思う。
     やがて彼は背を向けて歩き始めた。
     その細い背中を、黙って見送りたく無いと。直感に似た思いが、胸の中で叫ぶ。
    「なぁ!」
     呼びかける。
     ゆっくりと、彼が振り向く。
    「⋯⋯なにか?」
    「あ⋯⋯ああ、これサンキュ!」
     拾ってもらっておいて、まだ感謝を伝えていなかったことに気づく。
     唐突な礼に目をパチクリさせた後、彼は「いや」と首を振った。
    「オレ、獅子神!一年C組!!」
    「……」
    「なぁ⋯⋯アンタ、は?」
    「⋯⋯⋯村雨。三年A組」
    「ムラサメ、な。覚えた。村雨センパイ!」
     そう言って笑ってみせれば。眼鏡の奥の赤い目が、軽く見開かれる。
     戸惑うように、何度か瞬いて。
    「⋯⋯ああ」
     小さく、花開くように⋯⋯ほんの微かに綻んだ唇を。白い肌と、艶やかな黒髪と、赤い目を。美しいと思った。
     そして何より⋯⋯スっと伸びた背と、その立ち
    姿を。
    「なぁ、村雨センパイ」
    「⋯⋯⋯まだ何か」
     不思議そうな声に、息を吸う。
     今、思いついたばかりの⋯⋯我ながらこれしか
    ない!と走り抜けた直感を乗せた声を、叩きつける。
    「オレの、絵のモデルになってくれ⋯⋯!!」
    「⋯⋯⋯は?」


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