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    雨音@ししさめ

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    雨音@ししさめ

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    2023.12.17。ししさめWebアンソロ参加作品

    ##花言葉

    Kalanchoe ベルが、鳴る。
     一度。
     二度。
     三度。
     軽やかで。けれど、深くて澄んだ音。今日のような、高く遠く澄み切った空の青に、相応しい音だと思った。
     
     ***
     
    「結婚式をするぞ!!」
     その、叶黎明の発言は前触れもなく唐突で、つまりいつもの通りの平常運転であった。
     真経津と共に、獅子神と村雨が2人で暮らす家に、上がり込んだ直後のこと。
     これもいつもの通りにパンを抱えた真経津は、呑気に「何着ようかなー」などと笑っている。
    「は!?今からか!?」
    「あなたたちは、いつの間に結婚したんだ」
    「今から、じゃないぞ敬一くん常識で考えよーぜ明日だよ」
    「ボクたちじゃないよ、叶さんは結婚に向いてないと思うな」
    「オメーにだけは常識問われたくねーし明日でも非常識さは充分だよ!!」
    「まるで、あなたは向いているような口振りだな」
    「その辺は五十歩百歩だぞシンくん」
    「結局、明日は誰の式なんだよ!!」
     
     自分たちだった。
     
    「こうやって一緒に住んで家まで建てて、揃いの指輪してさ。あとは、式だろ」
     獅子神手製のバッタイを食べながらの言葉に、真経津も同意する。
     あとは……の理論はよくわからなかったし、『非常識』は譲られるつもりはないが、それでも、『式』というものを、悪くないと思った。
     ちら、と横目で見た村雨は、三人前のバッタイを食しながら特に何も言ってこないようなので、特に問題は無いようだ。
     
     結果。
     晴れの日(大安吉日!)の今日、獅子神敬一と村雨礼二の結婚式が挙げられることとなったのだ。
     
     ***
     
     揃いの(正確には小さな違いはある)、バイカラーのモーニングコート。
     教会で、自分たちと、友人だけの式。
     獅子神の両親は勿論、村雨の両親も親戚も居ない。
     手順も内容も、これが正確かはわからない。けれど……愛する恋人と、友人と。彼らが居るなら、それで充分で。
     何も、足りないはずが無かった。
     
     ***
     
     ベルが、鳴る。
     村雨と並び、手を重ねて引くベルの紐。
     澄んだ音が響く度、式前に彼から聴いた話を思い出す。
     3回の、音の意味。
     
     1回目は 自分たちのため
     2回目は 両親のため
     3回目は ゲストのため
     
     自分は、とても「大切に育ててくれた両親」なんて言えないけれど。
     この繊細な手をした、強く、気高い恋人を生み育ててくれた彼の両親には、感謝しても良いかも知れない。
     恋人……いや、今日から『伴侶』になるその人は、珍しく白い頬を微かに紅潮させていた。
     
     
     病める時も。健やかなる時も………
     
     ***
     
    「礼二くん、敬一くん、おめでとー!!!」
    「獅子神さん、村雨さん、おめでとう!!」
    「神は祝福している」
    「ぅお!?」
     誓いを交わして外に出た獅子神たちを、色彩豊かな花が襲った。
     頭の上から、正面から……3人の手による、花が降り注ぐ。
    「すげーな……」
     赤。
     白。
     オレンジ。
     ピンク。
     色鮮やかな、小さな花が、降り注ぐ。
    「………カランコエか」
    「からんこえ?」
     伴侶の呟きに訊き返すが、返事は無かった。
     後から後から注がれる花は、かなりの数で。これを準備した友人たちの労力に、頭が下がる想いを抱く。
    「ボクたちが準備したんじゃないよ」
    「そうそう、オレたちは花を指定しただけさ」
    「『オレ達金はあるから』って顔してんじゃねーよ台無しだよ!!」
     でも。やはり、感謝の想いはほんもので。ようやく花がやめば、足元はまるでカラフルな絨毯のようになっていた。
     ありがとよ、ともう一度呟けば……その袖をひかれた。
    「ん?」
     振り向くと同時。トン、と響いた地面を蹴る軽い音。軽い音をたて、頭上から花が降り注ぐ。
     赤。
    「幸福を告げる」
     白。
    「たくさんの小さな思い出」
     オレンジ。
    「切磋琢磨」
     ピンク。
    「長く続く愛」
     小さく唇を持ち上げ、伴侶が笑う。
     ああ。この笑い方が、世界で一番好きだ。
    「愛してる、敬一」
     
    「…………オレもだよ」

    ---
    カランコエ(Kalanchoe)
    花言葉は作中にて。



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