Kalanchoe ベルが、鳴る。
一度。
二度。
三度。
軽やかで。けれど、深くて澄んだ音。今日のような、高く遠く澄み切った空の青に、相応しい音だと思った。
***
「結婚式をするぞ!!」
その、叶黎明の発言は前触れもなく唐突で、つまりいつもの通りの平常運転であった。
真経津と共に、獅子神と村雨が2人で暮らす家に、上がり込んだ直後のこと。
これもいつもの通りにパンを抱えた真経津は、呑気に「何着ようかなー」などと笑っている。
「は!?今からか!?」
「あなたたちは、いつの間に結婚したんだ」
「今から、じゃないぞ敬一くん常識で考えよーぜ明日だよ」
「ボクたちじゃないよ、叶さんは結婚に向いてないと思うな」
「オメーにだけは常識問われたくねーし明日でも非常識さは充分だよ!!」
「まるで、あなたは向いているような口振りだな」
「その辺は五十歩百歩だぞシンくん」
「結局、明日は誰の式なんだよ!!」
自分たちだった。
「こうやって一緒に住んで家まで建てて、揃いの指輪してさ。あとは、式だろ」
獅子神手製のバッタイを食べながらの言葉に、真経津も同意する。
あとは……の理論はよくわからなかったし、『非常識』は譲られるつもりはないが、それでも、『式』というものを、悪くないと思った。
ちら、と横目で見た村雨は、三人前のバッタイを食しながら特に何も言ってこないようなので、特に問題は無いようだ。
結果。
晴れの日(大安吉日!)の今日、獅子神敬一と村雨礼二の結婚式が挙げられることとなったのだ。
***
揃いの(正確には小さな違いはある)、バイカラーのモーニングコート。
教会で、自分たちと、友人だけの式。
獅子神の両親は勿論、村雨の両親も親戚も居ない。
手順も内容も、これが正確かはわからない。けれど……愛する恋人と、友人と。彼らが居るなら、それで充分で。
何も、足りないはずが無かった。
***
ベルが、鳴る。
村雨と並び、手を重ねて引くベルの紐。
澄んだ音が響く度、式前に彼から聴いた話を思い出す。
3回の、音の意味。
1回目は 自分たちのため
2回目は 両親のため
3回目は ゲストのため
自分は、とても「大切に育ててくれた両親」なんて言えないけれど。
この繊細な手をした、強く、気高い恋人を生み育ててくれた彼の両親には、感謝しても良いかも知れない。
恋人……いや、今日から『伴侶』になるその人は、珍しく白い頬を微かに紅潮させていた。
病める時も。健やかなる時も………
***
「礼二くん、敬一くん、おめでとー!!!」
「獅子神さん、村雨さん、おめでとう!!」
「神は祝福している」
「ぅお!?」
誓いを交わして外に出た獅子神たちを、色彩豊かな花が襲った。
頭の上から、正面から……3人の手による、花が降り注ぐ。
「すげーな……」
赤。
白。
オレンジ。
ピンク。
色鮮やかな、小さな花が、降り注ぐ。
「………カランコエか」
「からんこえ?」
伴侶の呟きに訊き返すが、返事は無かった。
後から後から注がれる花は、かなりの数で。これを準備した友人たちの労力に、頭が下がる想いを抱く。
「ボクたちが準備したんじゃないよ」
「そうそう、オレたちは花を指定しただけさ」
「『オレ達金はあるから』って顔してんじゃねーよ台無しだよ!!」
でも。やはり、感謝の想いはほんもので。ようやく花がやめば、足元はまるでカラフルな絨毯のようになっていた。
ありがとよ、ともう一度呟けば……その袖をひかれた。
「ん?」
振り向くと同時。トン、と響いた地面を蹴る軽い音。軽い音をたて、頭上から花が降り注ぐ。
赤。
「幸福を告げる」
白。
「たくさんの小さな思い出」
オレンジ。
「切磋琢磨」
ピンク。
「長く続く愛」
小さく唇を持ち上げ、伴侶が笑う。
ああ。この笑い方が、世界で一番好きだ。
「愛してる、敬一」
「…………オレもだよ」
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カランコエ(Kalanchoe)
花言葉は作中にて。