Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    imori_JB

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 15

    imori_JB

    ☆quiet follow

    さめしし習作シリーズ。
    疲れすぎてバグった村雨先生が獅子神の所に居れば三大欲求全部満たされるな?(キュピーン)する話。
    または、雄っぱいに癒される話。

    #さめしし

    三大欲求ワンストップ①「お疲れ様でした」
     背中に掛かる看護師の声が妙に遠く聞こえる。
     グラグラと揺れる頭を持て余しながら、村雨は病院の自動ドアをのろのろと潜り抜けた。
     日勤で外来、夜は当直という名の夜勤、そのまま再び当直明けで日勤、帰ろうと思った所に緊急搬送の受け入れ、落ち着いた頃合に今度こそと思った所に容体急変で緊急オペ。
     一切の睡眠を取らないまま六十時間働き続けた所で村雨は数えるのを止めた。数えなくても村雨の優秀な感覚は正確に、秒刻みで時刻を把握できているのだが考えたくも無かったのだ。
     今までの医師となってからの最高連続勤務時間は七十二時間、それを超えたとだけ認識している。
     そして睡眠を取らせないという極めて原始的で古典的な拷問が如何に有用であるかその身をもって実感したのだった。
     辛うじて残る村雨の冷静な判断力の一部分はこの状態でハンドルを握る事は自殺行為であると判断し、その足取りはふらふらと駐車場では無く診察を終え帰宅する患者を待つタクシーの乗降場へ向かう。
     後部座席に乗り込み、運転手の挨拶と行き先を尋ねる言葉を遮って住所が載っている名刺を鼻先に突き付けた。
    「その住所へ頼む。ルートは任せる」
     それだけ伝え、どさりとシートに背中を預けて目を閉じる。明らかに体調不良満身創痍の村雨の姿に、運転手はそれ以上の事は何も言わず静かに車を発進させた。
     
     *
     
    「お客さん、着きましたよ」
     運転手の言葉で漸く目が覚める。時間はそれ程経っていないようだが殆ど気絶するように眠っていた。
     目の奥の重く鈍い痛みに眉間に皺を寄せつつクレジットカードを差し出し、決済を待つ。間の抜けた電子音と共に返されたそれを懐に仕舞い込んで開かれたドアから下りた。
     食事。いや何よりもその前に睡眠だ。本当は入浴もしたいが準備すらも億劫だ。当直中も睡眠は取らずとも衛生面を考慮しシャワーだけは浴びていたから、ベッドにそのまま潜り込む事にも耐えられる……。
     玄関のドアノブを引く。鍵は鞄の中、近寄れば勝手に解錠されるシステムキーだ。家の中には「色々と」他者に見られたくはないモノが転がっているのでセキュリティは個人宅にしてはそれなりに厳重にしてある。
     だが、しかし。
    「……?」
     普段なら殆ど抵抗も無く開くドアが開かない。二度三度とドアノブを引いてみてもガチャガチャと耳障りな音がするだけだ。手を離し呆然と立ち尽くした。
     我に返り、よりによってこんな日に面倒な、と思わず舌打ちする。電子機器なのだから不調も有り得るだろうが何も今日で無くてもいいだろう。後でこのセキュリティシステムの導入を勧めた銀行に苦情を入れてやると決める。
     勿論万一に備えドアノブのカバーを外せば暗証番号を入れるテンキーがあり、正常動作しなければ其方で解錠できるようになっている。
     番号を打ち込もうと手を伸ばしかけ、そして漸く覚えた違和感に手がそれ以上進まない。
    「……、」
     何か。何か考えようとした筈が、思考が全て泥水に覆い尽くされていくような感覚に陥る。
     ――唐突に開いたドアに、その向こう側にいた人物に、向けた己の顔はきっとさぞマヌケなものだったに違いない。
    「おい、誰――あんだよ、お前か……」
     エプロンを付けた長身で筋肉質の男。人工的でない、生来の髪色や虹彩色から見るに恐らくかなり濃い異国の血を引く男が肩を怒らせながら姿を現し、そして立ち尽くす村雨を見るなりその怒りを一瞬で鎮火させた。
     来るなら前もって言え、お前も真経津も本当に自由だな、などと口うるさい事を言っているが、もう大分朦朧とした意識下で村雨が返せる言葉はそう多くは無い。
    「獅子神」
    「んあ? 何だよ、……村雨お前すげぇ顔色してるぞ」
    「何故あなたが此処にいる」
     問えば獅子神は眉間に皺を寄せた。
     合鍵を渡した記憶はない。村雨や真経津や叶といったカラス銀行のギャンブラー達が獅子神邸に勝手に上がり込む事はままある事だが、逆は無い。無い筈だ。
    「は? 何でってお前」
     オレの家にオレがいる事が何の不思議だよ。
     そんな返事を意識の埒外で聞きながら、視界が徐々に暗くなっていくのを冷静に診ていた。一過性意識消失発作。これは倒れる事になるだろう、と。
     目の前の男の人と面倒見の良さに全てを任せる事に決め、身体の関節や筋肉から力が抜ける事に抗わずに任せる。
     タイルの上に投げ出される事も覚悟したが衝撃は来ず、弾力のある暖かな何か、に包まれて――。
    「ッおい! おい、村雨!? っ、園田、ちょっと来い!!」
     叫び声はもう、村雨の耳には届かなかった。
     
     *
     
     細いオレンジ色の光が顔に掛かるのを感じ、目が醒めた村雨は暫くぼんやりと虚空を見上げていた。今日は休日。オンコール当番でも無い。深く眠っていた事は問題にならない。
     その色合いが自分の家の物では無い部屋の天井であり、ぼんやりとした視界は眼鏡が無い為である事に気付くまで少し。
     直感で手を伸ばし、ベッドボードを探ればあっさりと探し求めていた物は見つかった。
    「……」
     最早身体の一部位にも等しい眼鏡を掛け、改めてぐるりと一周部屋に視線を走らせる。
     ダークブラウンの天井、オフホワイトの壁紙。家具の類も全てダークブラウンで纏められている。趣味がとても良いという訳では無いが悪くも無い。無個性で無難な部屋。
     此処は勿論村雨の家ではない。同じ賭場に出入りする仲間――友人の一人、獅子神敬一の自宅兼職場だ。此処に来た理由は最早考えるまでもなく、あの時村雨がタクシー運転手に提示した名刺が村雨の物ではなく何時だったか本人から貰った、獅子神の名刺だったからだろう。村雨の名刺は医師としてのものであり自宅住所など載せていない。載っているのは病院名と所在地だけだ。
     この部屋を村雨は知っている。世話になった事も一度や二度では無い。家の主がオークションで買い上げた奴隷達を住まわせていた、今は空室になっているこの部屋は獅子神の許を気紛れに訪ねるギャンブラー達が客室代わりに勝手に使っている。奴隷に与えていたにしては良い部屋だ。叶が、奴隷への待遇に敬一君は人が良すぎると笑っていたのも道理である。
     記憶にある自分の言動と今居る場所とを思い返して村雨は内心溜息を吐いた。何とマヌケな話だろうか。当面笑い話としてギャンブラー連中の間で語り継がれる事を覚悟しなければならない。
     それはそれとして、意識を手放す瞬間に決めた事は間違っていなかった、と村雨は思う。
     視界に入る袖口、衣服はブルーのパジャマ。極一般的な市販品だが恐らく新品。けれど一度洗濯はしてあるようだ。
     此処、獅子神の自宅を訪れた時には退勤時のスーツだったのだからつまりこれはわざわざ獅子神が、或いはその指示で彼の元奴隷達が、村雨を着替えさせたという事だ。
     着ていた筈のスーツは部屋の壁にハンガーに掛けられている。村雨と獅子神では体格が違うから当然服のサイズが違い、そしてハンガーの適正なサイズも異なる。しかし村雨の視界に入った、スーツが掛けられているハンガーは村雨のスーツにぴったりだ。
     こんな物まで他人の為に用意していたのか、と半分呆れながら――もう半分の感情について村雨は思考しない――見やる。
     さてどうしたものか、と無様な失態を晒して失われた名誉と尊厳の挽回について思考の端でチリ、と考え始めた時だ。
     コンコン、と控えめにノックがされた。返事をせずに黙って見守っていると、ややあってから音に気を遣うようにゆっくりとドアノブが回り、ドアが開かれる。
    「……」
    「……、うわっ!? お、起きてたんなら返事しろよ!!」
     そこにいたのは予想通り、この家の家主だ。村雨が目覚めていた事に余程驚いたのか毛を逆立てている。
     その腕にはタオルの一式、タオルの上にあるビニール袋は恐らくコンビニ辺りで調達してきた下着だろう。流石にそこまでは着替えさせられなかったらしい。
    「たった今目が覚めた所だ」
    「あーそうかよ……風呂入るか?」
    「ああ」
     じゃあこれ使え、と渡されたブルーグレーの厚みのあるタオル、新品の下着、靴下、ワイシャツ。
    「用意が良いな。助かる」
    「買って来させたんだよ」
    「幾らだ?」
    「いい、大した金額じゃねぇし」
     獅子神の返事に村雨は反論する事は無かった。この程度の出費が何ら痛くも痒くも無い程度の資産が賭博口座の中に眠っている事など、互いに分かり切っている。
     以前にも村雨は獅子神邸のバスルームは前にも借りた事はある。真経津や叶といった何時もの面々と共にこの家に上がり込み夕食を馳走になり、そして深夜までゲームだ何だと騒ぎそのままの流れで泊まった時だ。
     この家にその設備は元々奴隷用だった四つと獅子神の寝室に近い、彼が使う為の一つ。村雨は奴隷用など最低限清潔を保つという用途を満たせば十分だろうと考えるが、奴隷用と獅子神専用の設備に変わりは殆ど無い。三千万にも満たない安値で拾われている、使い捨てされても不思議では無いランクの奴隷が受ける待遇としては最上級。天国といっても過言ではないだろう。そのランクの奴隷を買う者は通常奴隷など何時でも死んでもいいと考えて買うのだから。
     テラリウムと称した部屋のスプリンクラーを遠隔で作動させ、濡れて逃げ惑う者達にシャワーだと称して笑うどこかの誰かは少しは獅子神を見習えば良いものを、と村雨は自分の事は棚に上げながら考えた。
    「じゃあ此処使ってくれ。終わったらダイニング来いよ」
    「分かった」
     示されたドアに頷いて中に入る。洗面台のある脱衣室は暖かく、これも獅子神が予め暖房を入れておいてくれたのだろう。
     全てを脱ぎ捨てバスルームに入れば、白く立ち込める湯気とラベンダーの香り。不快な物ではない。
     代替医療としては眉唾だが一般にラベンダーの芳香による効能とされているものは副交感神経を優位し、心身の緊張を和らげるリラックス効果。獅子神が村雨の状態を考えて選んだのであろう事は明白だった。
     置いてあるボディソープやシャンプーで身体を清めてバスタブに入る。熱すぎず温すぎずの丁度良い温度に顎まで浸り、全身の筋肉の緊張が解けていくのを一つ一つ感じながら目を閉じた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤❤❤❤❤❤💴💴💴💴💴❤😭🏠🏠🏠🚕😍❤☺☺☺☺☺
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    takamura_lmw

    DONE桜流しのさめしし、もしくはししさめ。ハッピーエンドです。ほんとなんです。メリバでもないキラッキラのハピエンなんです。信じてください。

    これがずっと出力できなくてここ一ヶ月他のものをなんも書けてませんでした。桜が散る前に完成して良かったと思うことにします。次はお原稿と、にょたゆりでなれそめを書きたいです。
    桜流し 獅子神敬一が死んだ。
     四月の二日、桜が散り出す頃のことだった。



     村雨にその死を伝えたのは真経津だった。
    「——は?」
    「死んじゃったんだって。試合には勝ったのに。獅子神さんらしいよね」
     真経津は薄く微笑んで言った。「獅子神さん、死んじゃった」と告げたその時も、彼は同じ顔をしていた。
    「……いつだ」
    「今日。ボク、さっきまで銀行にいたんだ。ゲームじゃなかったんだけど、手続きで。そしたら宇佐美さんが来て教えてくれた。仲が良かったからって」
     村雨はどこかぼんやりと真経津の言葉を聞いていた。
    「あれは、……獅子神は家族がいないだろう。遺体はどうするんだ」
    「雑用係の人たちが連れて帰るって聞いたよ」
    「そうか」
    「銀行に預けてる遺言書、あるでしょ。時々更新させられる、お葬式とか相続の話とか書いたやつ。獅子神さん、あれに自分が死んだ後は雑用係の人たちにお葬式とか後片付けとか任せるって書いてたみたい。まあ銀行も、事情が分かってる人がお葬式してくれた方が安心だもんね」
    22432

    recommended works

    Cloe03323776

    SPUR ME毛入りさんの素敵漫画に触発されて、書いてしまいました。ドフ鰐♀。女体化注意。原作沿いです。毛入りさん、ありがとうございます!
    ボタン・ストライク それは、初デートだ。
     誰がなんと言おうと。
     二人にとって、生涯で。
     初めての。

    「フッフッフ! さァ、どれがイイ?」
     ドフラミンゴがクロコダイルを連れてきたのは。世界最大級のショッピングモールだ。この島は、観光業で成り立っている春島。世界各地のブランドが集結し、買い物客は1日で余裕で万を超える。常に大盛況であるこの島を、初めてのデートの舞台として選んだ。ちなみに、ドフラミンゴが羽織っているのはいつものピンクの羽根のファーコートと、クロコダイルは彼が用意した黒い羽根のファーコートを羽織っている。
    「……あァ、そうだな」
     そして。一件ずつ、店を見させられては。そこのお店で欲しいと思う物全てを「買われて」プレゼントされるクロコダイル。荷物は全て、ドフラミンゴが持つ。買ってくれると言うのであれば、特に逆らう必要もない。クロコダイルも気持ちが赴くまま、何の躊躇いもなく、欲しいものをどんどんレジへ持っていく。服でも、宝石でも、小物でも、鞄でも、靴でも。何でもだ。そんなクロコダイルの様子を、ドフラミンゴは楽しげな様子で眺めている。そして、嬉々としてレジでお金を支払う。そんなドフラミンゴの様子を、クロコダイルは呆れた表情で見つめていた。この男は、こんなにも貢ぐ男だったのか、と。だが、この程度の金など、微々たる物なのだろう。そうして漏れなく一件ずつ、店回りは続いた。
    3938