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    Gecko

    ハロ嫁でざみさんに堕ちた成人。

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    Gecko

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    件のパズルの例の妖怪から派生した妄想。事件もの。何でも許せる人向け。挿入ありのエロいシーンはリス限かパス。

    #降風
    (fallOf)Wind
    #景風
    jingfeng

    こちらK察庁K備局奇危怪異対策室:02 最近、降谷零にはちょっとした不満がある。
     それはぽっと出の人間の男と、それに執拗に構う幼馴染の言動だ。

     ぽっと出の名前は『風見裕也』
     降谷が隷属するK察庁K備局奇危怪異対策室-----日の国の安全と秩序の維持。それに加えてそこに住む人間のおもりを強要される糞ったれな組織だ……の対人向け窓口というか連絡係というか、とにかく表向きのあれこれを始末するための要員であり、背がひょろりと高く痩せぎすな以外は取り立てて特徴のない、そんな男だ。
     そしてそんなどこにでも居そうな取るに足らない人間に対し、彼の幼馴染であり替えの効かない大事な親友でもある諸伏景光が、なにやら特別興味を抱き現在進行形で積極的にちょっかいを出している現状が降谷は気にくわないのである。

    (あの男になにか特別感じるものでもあるのか?)

     降谷は自分の故郷である、この美しい日の国が好きだ。
     だからこそ、その豊かな自然を無秩序に破壊し思うまま恵をむさぼるばかりか、外から積極的に厄介ごとを持ち込む人間という生き物が好きではない。
     それが例え同じ部署に所属する部下であろうともだ。

    「何故”アイツ”を特別に構う?」

     諸伏は自分ほど人間を嫌っているわけではないが、だからと言って取り立てて人間が好きだというわけでもなかったはずだ。
     そんな幼馴染が何故あの人間にだけ特別心を砕くのか? 降谷にはその理由がわからない。
     だが直接問いただしても、

    「ゼロが人間嫌い過ぎるだけだろ? オレは別に風見さんを特別扱いしてるつもりはないよ」

     と、そうはぐらかされるばかりで埒が明かない。

    「嘘つけ。今までの連絡係と態度が違いすぎる」
    「そりゃ今までの連絡係は誰かさんが厳し過ぎるおかげで、顔を覚える間もなく辞めちゃってたじゃないか」
    「それは……」
    「それに風見さんはもう1年も対策室に居るんだよ? それなのに言葉も交わさないほうが余程ヘンだよ」
    「……」

     確かに正論だ。
     正論ではあるが、だからと言って降谷は納得できない。

    「ゼロが人間を好きじゃないことは知ってるけど、風見さんマジメだし優秀だよ? みんなからの評判だって悪くない」
    「……」
    「そんな不満そうな顔したって、彼が優秀だってことはゼロだって否定できないだろ?」

    (まぁ確かに......確かに仕事は出来る)

     始めのうちは警察組織の通例からはおよそ異なる職務に手間取る様子も見せていたし、実際不手際やミスにイラつくこともあった。

     だがあの男は今までの人間たちと違い、けして「辞める」とは言わなかった。

     降谷が正論を吐きヒトの身の無力さを冷笑すれば、己のその身で出来る最大限のことを模索し行動に移す。
     炉端の石のように存在を捨て置き露骨に突き放すような物言いをしても、職務上必要とあらば言葉を交わすことを厭わず、こちらに怯え距離を取るようなこともしない。
     めげること無く経験を積み、着実に成果を上げ始めていることは疑いようのない事実だ。

     実際、あやかしの理を人間社会になじませるのは難しく面倒だ。
     相当な苦労が掛かることは降谷とて知っている。
     ヒトの属する警察組織では処理しきれない事案を明確な説明も無く強権で無理やり取り上げるようなこともするため、矢面に立つ風見は憎まれ役になる事も多い。
     肉体的には勿論こういった精神的な負担も多い職務だが、それでもあの男は腐ることなく忠実に仕事を全うしている。
     今となっては、

    「居なくなられては仕事が回らない!!」

     と半妖の部下たちからの涙ながらの嘆願を連日小耳にねじ込まれる程度には(降谷としては甚だ遺憾だが)それなりに人望もあるらしい。

     降谷は人間が嫌いだが、だからといってその努力や業績を不当に貶めるほど下衆ではない。
     だからこそ、彼はあの人間のなにもかもが気に障る。

    「それにゼロにねちねち小言を言われてもめげずに仕事してくれるひとなんて貴重だからね。そりゃ大事にもするよ」
    「ねちねちって……僕は正しいことしか言っていない!」
    「いくら正しくたって言い方ってものがさァ……まぁいいけど」

     だがしかし。
     だからといってアレが、長年の付き合いがある諸伏がこれほど気に掛けるほどの人間か? と問われれば降谷は『否』と首を降る。

    (よもやとは思うが人間ごときに惚れたのか?)

     と一瞬、下世話なことを考え、

    「……同じ時を生きられないものにあまり構うと後悔するぞ」

     そう苦言を呈してもみたが、親友は少し困ったように微笑むだけで結局あの人間に構うことを止めはしなかった。

    (ヒロのヤツ……一体何を隠しているんだ?)

     彼が降谷に対し能動的に話をそらし隠し事をする時。
     それは自己の利益や保身のためではなく、往々にして、

    『降谷に何か不利益が生じる可能性がある』

     と判断したとき。
     ……つまり彼が降谷自身を守ろうとしてくれている場合が多い。

    (思えば20年前。ヒロを失いかけたあの時もそうだった)

     胸から赤黒い血を流し事切れる寸前であった親友のあの惨たらしい姿を思い出すと、降谷は今でも全身の血が凍り付くような恐怖を覚える。

    (だからこそ……)

     だからこそ降谷は、この拭いきれない不安と不快感の根源であるところの”風見裕也”という人間が、格別に気にくわなかった。



    [Episode02:思惑と接触]



     目が覚めると、ぼやけた視界に視えたのは”見知らぬ天井”……ではなく、見ただけでここが都内某所に在る奇危怪異対策室御用達の病院の一室であることがわかる、めちゃくちゃ見知った天井だった。
     対策室に移動になってからというもの、こういうこと(つまり病院送りだ)は稀によくあるとはいえ、このところの帰宅率を鑑みると”自室の天井より病室の天井を頻繁に目にしている可能性すらある”という事実に、風見は色々な意味で気分が落ち込む。

    (……今回も生きてたんだな、俺)

     周囲を白いカーテンで仕切られたベッドと、嗅いだ途端一瞬で「ああここは医療施設なのだ」と感覚に訴えてくるクレゾール石鹸液の特徴的な匂い。
     裸眼なのであまり明瞭ではないが、視認できる範囲にあるのは白い天井とLED、それと点滴スタンドくらいだ。
     何もかもが眩しいくらいに白く、寝起きの乾いた瞳に突き刺さる。

    (……アレからどれくらい経ったのか)

     朦朧とする脳内を探ってはみたものの記憶自体が曖昧で、カレンダーも時計も無いこの部屋では、病院に担ぎ込まれてからどれくらいの時間が経過しているのかすらもよくわからない。 

    (そういえば洗濯物を干したままだ)
    (冷蔵庫に入れたヨーグルトが腐ってるかもしれない)
    (最近帰ったのはいつだっけ?)
    (ヨーコちゃんの録画溜まってるな)
    (連続ログインボーナス取り逃した)

     こめかみに走る鈍痛。
     上手く回らない脳味噌に、至極どうでもいいことが想い浮かんでは消えていく。

    (そういえばメガネ……)

     片肘突いて半身を起こし風見は眼鏡を探す。
     こういう時、目が悪いのは不便だ。眼鏡を探すための眼鏡が欲しくなる。
     ついでにぼやけた視線を己の身体へと向ければ、まるで野球のグローブか河童の水かきのように指先から肘までを包帯でぐるぐる巻きにされた右腕がなんとも痛々しい。
     上掛けの下になっているため今のところ胸から脚にかけては見えないが、恐らく碌なことにはなっていないだろう。
     意識を向けると途端に肋骨のあたりがじくじくと痛んだ。

    (無いな……)

     結局周囲を見回してみたが、枕元にもベッドサイドの物入れ(そういえば正式な名称を知らない)にも眼鏡の姿は見当たらない。

    (とりあえずナースコール……するか)

     枕元に在るであろうコールボタン。
     そこへ向け己の身体で唯一自由の利く左腕を伸ばそうと風見は身をよじる。
     すると風見の股の間、向こう脛の横のあたりの上掛けが、もぞっと怪しくうごめいた。

    (なんだ??)

     と疑問に思ったのも束の間、ソレはシーツの下をもぞもぞと歩くと、あろうことか病衣をまとった風見の腹と胸とを踏みつけた。

    (ぐっ!)

     腹部と肋骨にイヤな痛みが突き抜け、上体を支える肘が折れそうに軋む。

     そんな男の様などつゆ知らず、上掛けの隙間からひょこりと姿を覗かせたのは、ふくふくとした毛並みの一匹の三毛猫だった。

    (猫。ネコ……病室に?)

     ーーーーーそんなわけがない。

     衛生管理にひときわ厳しい病院内に、野良猫が迷い込むなどありえない。
     したがって、居るとすればソレは当然『猫ではないナニカ』だ。

    「目が覚めたんですね風見さん! 大丈夫ですか? 痛いところとかあります??」

    (オマエが踏んでる胸骨がいま一番痛い……)

     涙目になり胸中で怨み事を吐き出す風見。
     明らかにネコの質量ではない重さが今なお重くのしかかり、呼吸をするのも苦しい。

    「本当に大丈夫ですか? 凄く顔色悪いですよ??」

     ひどく心配げな声を出し首をかしげる三毛猫に対し風見は最後の力を振り絞り、たったひとこと、

    「……どいてくれ」

     と、小さく掠れた悲鳴を零す。

    「……あ」

     その間およそ1秒。

    「す、すすすすすいません!! 」

     風見の懇願の意味に気付いた三毛猫が悲鳴のような声を上げて文字通り飛び上がる。
     するとその姿は、小さな三毛猫から唐突に着流し姿の成人男性へと変わっていた。

    (……いつ見ても原理がよくわからない)

     これがアニメやマンガなら「どろん!」という効果音と共に煙のエフェクトのひとつでも添えてありそうなものだが、現実はひどくさっぱりとしたものだ。
     しかし現代社会におけるあらゆる法則を無視し、瞬きする間に音も無く小さな獣の姿からそこそこ上背のある成人男性の姿へと転じるその異質さに、風見は毎度ゾッと冷たく背筋が凍る。

    「ホントにすいません! 重かったですよね……」

     カタチの良い眉を下げ、心配そうにこちらを見つめる黒い瞳は意外なほどに真摯だが、風見の頭は疑問符でいっぱいだ。

    (いや、近い……)

     一応怪我人を慮る気になってはくれたらしい。
     しかしいまの諸伏は先程のように胸に乗りこそしてはいないが、半身を起こした風見の身体に覆い被さるような体勢だ。
     鼻先が触れそうなほど無駄に近いし、拘束されているようで落ち着かない。
     風見は思わず上体を支えていた肘を崩すと、再び寝台の上へと身を沈め可能な限りの距離を取る。

    (というかコイツ……なんでこんなトコロに居るんだ?)

     諸伏景光。

     K察庁K備局奇危怪異対策室所属。
     組織的な階級は風見と同格である警部補。
     年齢は不詳だが人間でいうところの10代後半から20代前半に見える。
     清潔感のある黒目黒髪の日本人然とした端正な顔立ち。
     くりくりとしたアーモンド形のネコ目に無精ひげを蓄えた顎がどこかアンバランスで愛嬌がある美青年。

     しかしてその正体は『三毛の猫股』

     ヒトにとっては畏怖すべき存在である。

    (そう、なんでここにいるんだ?)

     対策室における実働部隊の片羽である諸伏は実務におけるほとんどを外部での活動に充ててている。
     その為、同じ部署に所属してはいるものの風見がオフィスでその姿を見かけることはあまり無く、精々室長から呼び出しを受けている姿をちらりと目にする程度であり、個人的な接点もほとんど無い。
     風見がK安から奇危怪異対策室に移動になってから1年と少しというところだが、彼と直に接した機会は本当にここ最近……それも両手の指で足りる程度であり、こうして病院送りになった際、彼が見舞い(なのか?)に現れるのだって今回がはじめてだった。

    (そもそも俺は純血組から嫌われてるし)

    『純血組』
     風見がひそかにそう呼ぶのは、”純血のあやかし”にて構成された奇危怪異対策室における対妖魔の制圧に特化した実働部隊のことだ。

     ひとりは妖狐。
     ひとりは猫股。

     普段風見がオフィスにて席を連ねる半妖たちに比べると、血の混ざりけの無い、完全なる純血のあやかしはその能力も格段に高い。
     風見も現場で何度か目にしたことがあるが、羽根も無いのに鳥の如く空を駆け、爪の一振りで鉄を裂き、ときに熊や象ほどの巨体を誇る妖魔すらいとも容易く屠ってみせる。

     太古より神に連なる国の護り人である彼らは、まさしくヒトに非ざる高い力の持ち主だ。
     そしてその力と同じく……彼らのプライドは山より高い。

     特に只人(ようするに風見のような、何の変哲もないただの人間だ)に対しては、彼らは不遜にして傲慢。
     とにかくあたりがキツイし、時には炉端の石のごとく見向きもされないことすら常だった。
     
     ーーーーーそれなのに。

    「風見さん?」

    (何故?)

     何故いま病室に居るのか?
     何故そんなに心配そうな顔をするのか?

     風見にはそれがわからない。

     直属の上司である妖狐に比べれば、当初から諸伏の風見に対するあたりはそこそこ柔らかいとはいえ、別に親しいわけではない。
     例えるなら“顔だけ知ってるマンションの隣人”のような。
     諸伏にとって風見は毒にも薬にもならない、そんな空気のような存在ではあったハズだ。

    (疎まれているならまだわかる)

     それならば思い当たる節が有るし、むしろ有り過ぎて怖いくらいだ。
     だがもし風見の思うそれが正解だとするならば、諸伏のこの態度は妙だ。
     今このように心配そうな瞳を向けられるのは絶対におかしいし、ありえない。

    (おかしい)
    (何故)
    (わからない)

     様々な疑問が思い浮かべど頭はさっぱり回らず、とうとう麻酔も切れ始めたのか頭痛に加え、全身が熱を持ったようにズキズキと痛い。
     風見はほとんど無意識に、視線の先で白くちらつく包帯の巻かれた右手を庇うようにして上掛けの中にそっと仕舞いこんだ。

    「風見さん、本当に大丈夫ですか??」
     
     瞬きもせず物思いに耽る風見を不審に思ったのだろう。
     心配そうに首を傾げる諸伏の姿に現実に引き戻され、風見は内心を悟られぬ様に「大丈夫だ」と答えようとした……のだが。
     
    「だ……ゴホッ……」

     久方ぶりに絞り出したその声は、情けなく喉に張り付き酷く掠れてかたちを成さなかった。

    「風見さん!」
    「ゴホ! ゴホッ!」

     身を捩り咳き込む風見。
     その様子に諸伏は慌てた様子で寝台から飛び降りる。

    「水! 風見さん、お水あります!!」

     恐らくベッドサイドの棚にでもあらかじめ用意されていたのだろう。
     諸伏が手にしていたのは、ぼやけた視界でもそれと解るくらいに有名な、某メーカーのペットボトル入りミネラルウォーターだった。

    「ゴホッ! す、スイマせ…………っ」
    「身体、起こしますね?」

     ベッドサイドに腰掛けたまま、諸伏は未だ咳き込む風見を片腕でもって容易く抱き起こすと、労るように背を擦る。

    「飲めそうですか」
    「はい……ゴホッ」

     親切にも蓋まで開けてくれたらしいペットボトル。
     裸眼と咳込みでブレる手元に、漸くと風見がそれを掴みかけたその時、

    「無理しないで下さい風見さん」
    「え?」

     空を切る風見の手。
     何事か? と疑問に思い目を見開けば、視界の先、諸伏が何故だが困ったように笑うのが見えた。

    「今度はオレが……貴方を助けます」

     小さな呟きと共に、諸伏がペットボトルの水を煽る。

    (……は?)

     何故、いま、何を、どうして?
     言葉も行動もひとつも意味がわからない。

    (というか水! なんでオマエが飲んだ?!)

     この期に及んで嫌がらせか? と混乱する風見。
     だが彼が諸伏へと抗議の声を上げることは無かった。
     何故なら”物理的に不可能”だったからだ。

    (……は???)

     頬を伝い顎先をとらえる硬い指先。
     背を支える腕に込められた力と熱。
     影を伴い視界を塗りつぶすようにして風見へと覆いかぶさってくる唇は、何故だか笑みを含んでいた。

     ーーーーー唇にひたりと重なる、柔らかく濡れた感触。

    (……あ、水おいしい)

     人間、混乱すると明確な思考など出来はしないものだ。

     ぽかんと間抜けに開かれた口から、戸惑いなく注ぎ込まれる生ぬるい水。
     乾いた喉と身体にしみわたるその甘い感覚に、風見は唇の端からこぼれたしずくが首を伝うのも構わず、ごくりごくりと喉を鳴らす。

     -----それが所謂『口移し』というやつであるということに風見が思い至ったのは、諸伏と唇を重ねてから、きっかり20秒が経過した後だった。

    「…………グッ、ゴホッ! ……ゴホッ! ゴホゴホッ!!」

     おかしな体勢による、おかしな行為。
     口移しで飲まされたのが良くなかったのだろう、上手く嚥下出来なかった水が気管に流れ込む。

    「わ! だ、大丈夫ですか風見さん??」

     先ほどよりもさらに激しく咳き込み始めた風見の上半身を、諸伏が慌てて抱き支える。

    (……誰の……せいだと……!!)

     ゲホゲホと咳き込みながら『諸悪の根源がなにを言ってやがる!』と内心風見は憤るが、そんな怒りよりも気になるのは今のこの状況だ。

    (というか、この状況isナニ??)

    『赤ん坊にゲップをさせる体勢』とでも言い表せばいいのだろうか?
     諸伏は寝台へと半ば乗りあがり、咳き込む風見の顎を肩に乗せると、上半身を抱きこむようにして背をさすり続けている。

     思えば親以来かもしれない。
     背を撫でる手や抱きしめられた腕から久々に感じる他人の体温。
     鼻先に香るシャンプーだか整髪料だかの香りが妙に生々しい。
     
    (……ほんとにナニ??)

     先ほどの行為もそうだが、いったいこの猫股がなにをしたいのか? 風見はさっぱり分からない。
     そして風見の認識が正しければ、恐らく現状の自分は病院へと搬送されてから今の今まで風呂にも入って無ければ無償髭も伸び放題といった風体のはずである。
     和装といういでたちこそトンチキ極まりないが、目の前のこの清潔感にあふれた美青年と病衣姿の小汚いオッサンが抱擁する様を想像すると、その絵面があまりにも絶望的過ぎて、風見はますます頭が痛くなった。
     
    (勘弁してくれ……!)

     これまでの経験上『あやかしが何を考えているか?』だなんて、悩んだところで常人に思い至るものでは無い。
     無いのだが……。

    (だからと言ってそれに付き合ってやる義理も無い!)

     とにかく一刻も早くこの状況から逃れようと風見は唯一自由の利く左腕で諸伏のみぞおちあたりをぐいと押し返し抵抗を試みる。
     だが、悲しいことに風見の片腕程度ではあやかしの身体はびくともしない。

    (このっ!)

     服の上から触れてもわかる。
     見た限りすらっと細身であるくせに、諸伏の身体は思いのほか硬く、よく鍛えられているようだ。
     その事実が妙に悔しい。
     男の微妙なプライドを刺激され、痛む身体もお構いなく風見は半ば維持になってぐいぐいと諸伏の身体を引きはがそうとするが、暖簾に腕押し糠に釘。
     それどころか諸伏はもがく風見を両腕に閉じ込めるように、ほぼ身体の前面が密着するほどきつく抱きしめ返してくる。

    (コイツっ!!)

     余りの仕打ちに風見は目を白黒させることしか出来ない。
     頬から首筋にあたる黒髪の奥から、猫股が満足そうにぐるぐると喉を鳴らす音が伝わり、風見はブチ切れそうになる。

    「いい加減に……っ」

     そんな諸伏の凶行に、いよいよ風見が声を荒げようとしたその時。

     シャッ。

     という短いカーテンを引く音と共に、風見の耳へと聞きなれた男の声が響いた。

    「------一体何をしている?」

    「黒田室長!」

     地獄に仏とはこのこと。

     安堵の声と共に風見が見上げた先。
     そこにはK察庁K備局奇危怪異対策室室長、黒田兵衛の姿と……。

    「……随分と楽しそうなことをしてるじゃないか風見」

     そしてその後方でこちらを氷のように冷めた眼で見据える妖狐ーーーーー降谷零の姿があった。




      







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