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    nana0anan

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    nana0anan

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    TmNのラウは果たして本当に童貞なのか?と考えていたら書き始めていたもの。まだまだ途中だが書かないと終われないので進歩さらし…。まだ何も起きていない

    無題月のない夜は自分と世界の境界線が分からなくなる。
    まだ位の低い自分が纏うことを許されているのは黒衣の修道服。闇の中に居ると自分の姿もまともに見えず、本当に世界に自分は存在しているのか不確かになっていく。
    だが、自分の胸には銀に輝く十字架がある。これがあるから、自分は闇に溶けることがない。
    ラウ・ルロイにとって、神は自分を導き、世界に繋ぎとめるものであり、信仰は己の手で全てを焼き払った彼の救いだった。

    その日もまた、ラウは闇の中にいた。
    敬虔な修道士ではなく、吸血鬼討伐者としての彼の仕事は夜に始まり日が空ける前に終わる。
    吸血鬼だって神が創りたもうた存在だ。全てを根絶やしにしなければならないとは思わない。だが、夜闇へ人間を引きずり込むことはけして許してはならない。
    今夜の闘いは比較的早くカタがついた。
    慈善事業家の顔をしたその吸血鬼は、沢山の孤児院に寄付をし、我が家には余裕があるからと里子を引き取り、生き血を吸い殺していた。
    事業家の正体に気づいた教会の神父は、自らの街を守ろうと単身で祈りを捧げに行き、返り討ちにあい命を落としていた。
    教皇庁から銘を受けたラウは調査を行い、クロと分かると吸血鬼の再生力でも及ばぬ勢いで顔面の判別がつかなくなるまで殴り続けた。蝙蝠になって闇に飛び立とうとした吸血鬼に銀の球を投げ付けると、その両翼をもぎ取り銀の聖杭を心臓に穿った。
    吸血鬼の血で真っ黒に染った白銀の手甲は、本体が死に灰になると同時に輝きを取り戻した。
    証拠の灰を皮袋に詰め、彼の仕事は一段落した。後は教皇庁に戻って報告をし、呪われた魂を清めるだけだ。
    ところが、一つ誤算があった。日付が変わる前に討伐は終わっていた。夜通し戦いをするつもりでいたので宿をとってはいなかった。
    汽車が出るには朝まで待たなければならない。飛び入りで宿に泊まれるかと聞いたが、あいにくこの街の宿屋は今日は満員御礼のようだった。
    吸血鬼との戦いで汗をかいた。土埃を浴びた。灰になって消えたとはいえ、吸血鬼の返り血を浴びた。今すぐ体を清めたくて仕方ない。
    それでもないものねだりをしても意味が無い。状況に対応することのみが生きていくために必要なことなのだ。
    「···仕方ねぇ。朝まで待つしかねえな。」
    こうしてラウは駅のベンチに座って朝まで時間を潰すことを決めたのだった。若干季節が冬に傾き寒くなってきたとはいえ、一晩外で寝たとしても凍死したりはしないだろう。
    念の為と吸血鬼よけの聖水を振りまき、簡易な結界を作る。祓魔師が討伐帰りに殺されたと合っては笑えない話だ。
    駅の終了と共に街灯も消されてしまった。今日は月の出ぬ暗い夜だ。その代わりに無数の星が夜空に瞬いていた。闇に目が慣れると、星はその存在を激しく己に主張してきた。星が瞬く夜は寒くなる。これ以上冷えぬと良いのだが。
    ベンチに深く腰掛けるとラウは外套の襟を立て、前を重ね合わせ出来るだけ外気が入らないようにする。
    ワインの小瓶を開けると行儀悪く直接口をつける。酒はあまり美味いと思ったことは無いが、アルコールは冷えた体をじんわりと温めていく。
    硬いパンをちぎりもせずにバリバリと噛み砕く。美味くもないが、ひと口ごとに身体が回復して行く実感がある。
    教会に帰ったら、卵を食おう。半熟で野菜とベーコンを沢山入れたオムレツが良い。
    腹に物を入れると、ラウは就寝前の祈りを簡易に行うと目を閉じた。暇を潰せるものもなし、時が過ぎるまで眠るに限る。
    視界が闇に染まると耳が研ぎ澄まされる。今夜は風は静かなものだが、僅かな風に揺られて葉は音を立てる。石畳を歩くコツコツという乾いた足音。「お前の性根は限りなく悪だからな」
    やめろ、死体が喋るんじゃない。父親の怨嗟の声は時々現実に侵食してくるからタチが悪い。
    ラウは十字架をぎりと握りしめる。ひんやりとした銀の感触は現実への大切な楔になる。
    思考に靄がかかってきた。このまま眠ってしまおう。日が昇れば汽車が動く。地元に帰って、報告を行い、それから、それから

    「やめてよ!離して!離しなさいったら!!」
    闇を切り裂くように乾いた女の叫び声が響いた。
    吸血鬼に襲われてるのか?と反射的に身体が戦闘体勢に入る。
    ラウは素早く荷物の中から銀球を取り出し握りしめた。
    「うるせえ売女が!俺はハンターだ!吸血鬼からお前らの命は俺らが守ってんだよ!だからお前は俺に奉仕する義務があんだよォ!」
    「馬っ鹿じゃないの!あたしの命はあたしのもんだ!することしたいなら金払いなさいよ!金も払えない男はマスかいて寝てな!」
    「んだとこのアマ!!」
    闇の中に、男の持つランタンの赤い光がぼんやりと男女2人の人型を映している。
    (んだよめんどくせえな…。酔っ払いと女かよ。)
    戦意が急速に萎れていった。人間相手の諍いの仲裁は祓魔師の仕事ではない。それでも女が襲われてることには変わりない。ラウは銀球を掴むと大きく振りかぶってランタンの光に投球した。この距離、この目標の大きさ。目を瞑っていても当てられる。
    ガシャンとガラスの割れる音、命中だ。そして世界は闇に包まれた。
    「キャーーーーっ!な、何!?」
    「なんだァ!?何が起きたんだ!?な、何しやがった!」
    「うるせぇ。豚が人の言葉で喋んじゃねぇよ。」
    他の二人と違ってラウの目は闇に慣れていた。銀球を放つと同時に走り、ランタンの光が消えたことに動揺した男の元に着くと、腹に重ための一発、顎と左右の頬に軽く脳を揺らすように拳を当てた。
    男はぐぇと蛙を踏み潰したような声を上げるとそのまま石畳に倒れ込む。その背中をブーツでぐりぐりと踏みつけると男は抵抗の意志を失ったのか大人しくなった。
    「あ、あんたには関係ねぇだろうが。」
    「関係ねえじゃねーよ。ハンター騙って美味い汁吸おうとする奴は俺にとっちゃ迷惑なんだよ糞が。」
    ぎりぎりと足にさらに体重をかけると男の声に涙が混じる。
    「痛っ、痛てぇよぉ、悪かった、もうこんな事しねえから許してくれよォ。」
    「その言葉忘れんなよ。神は何でもご存知だ。てめぇがまた偽りの名を騙って甘い汁吸おうとしたら、またぶん殴ってやっから覚悟しろよ。」
    足を上げると男はヒィヒィと逃げていった。途中で何度か転んだが、やがてその姿は完全に闇に解けていった。
    銀球を拾い上げ、再びベンチに戻ろうとすると、女が外套の裾を掴んだ。
    「えっと……ありがとう、ございます。」
    「あぁ、気にすんな。五月蝿かったからつい動いちまっただけだ。念の為聞いとくが、アレあんたの亭主とかじゃねえよな?」
    「そんなわけないだろ!!アレは客、いや客でもなんでもないただのクズさ!タダで部屋に入れろって言ってきたんだよ!ふざけんなっての!」
    「迷惑じゃねぇなら何よりだ。そんじゃあな。」
    ラウは先程のベンチに戻って座り込む。
    と、横に女が座ってきた。
    「ねぇ、アンタは何してんの?何であたしを助けたのよ。」
    「俺は汽車が動く時間まで待たなきゃいけねぇ。それで俺の前であんた達がひと悶着起こしてた。だから介入しに行った。そんだけだ。」
    「…お人好しなんだねぇ、アンタ。」
    「神は必要なときに救いの手を差し伸べる。俺は神の信徒だから、目の前の諍いに首を突っ込まずに居られなかった。それだけだ。」
    女はぶっと吹き出し、鈴を鳴らすような声でけらけらと笑いだした。
    「あ?何笑ってんだよ」
    「だって、そんなに荒っぽい口調で、あんなにあいつボコボコに殴っておいて、神の信徒とか!違和感ありすぎ!あはははは!」
    自覚していることを笑われたのか、ラウはバツが悪そうに頭を搔く。
    「うるせえお前もう帰って寝ろ。1人で道歩くのが怖いなら送ってやるからこれ以上面倒を起こすな。俺はもう疲れてんだよ。」
    「面倒って言ってるくせにめちゃくちゃ優しくない?!何そのバランスおっかしー!」
    女の笑い声がしばらく夜の街に響いたが、そのうち冷静さを取り戻したのか、ふうと一息着くとラウに笑いかけた。
    「あたし、マリア。あんたの名前は?」
    「ラウ・ルロイだ。教皇庁所属の聖ルロイ教会で修道士それと時々祓魔師だ。」
    「祓魔師?かっこいいじゃない。ますます気に入ったわ。」
    マリアはラウの前に立ち、手を出した。
    「ねえラウ。今夜あたしの部屋に止まっていきなさいよ。どうせ一晩明かすなら、屋根のあるところの方がいいでしょ?アンタ気に入ったからサービスしちゃうわよ?」
    顔もろくに見えない夜闇の中、マリアの輪郭だけがきらりと輝いた気がした。
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