まずはスコップとバケツの場所から教えてほしい 彼と暮らしている屋敷には庭と温室がある。屋敷の敷地面積を考慮するとやや手狭ではあるが、現代においては十分な広さといえるだろう。
自分が屋敷にきたばかりの頃は、庭も温室も閑散としていた。庭では最低限の常緑樹と低木がひっそりと呼吸するのみであり、温室にはほとんど物がなかった。だからといって、汚れているわけでも放置されているわけでもない。しかしそこに彩りはなく、無味乾燥という表現が相応しかった。
つい耐え切れずに、
「良ければ私が手入れしてもいいだろうか」
と申し出てしまうくらいには寂しさの漂う庭だった。
幸いなことに彼はあっさりと許可を出してくれた。樹木が嫌いなのかと問うてみればそういうことではないらしい。彼曰く、
「自分で手入れしていたこともあるが、際限がなくなるからやめた」
とのこと。しかし放置するわけにもいかないので、必要な時に業者を入れることにして、現在に至っているということだった。
庭の緑を嫌っているのではないという確認がとれたので、自分としても安心した。世話になるのだから、せめて庭に彩りを添えるくらいはしたいものだ。
そんな経緯から始まった庭仕事だったが、いつしか気付いた時には、この屋敷の庭と温室は自分が管理することになっていたのだった。
続く?