野薊の冠を 学び舎に集う少女達に一人一人与えられる磨き上げられた椅子と机、規則正しく並んだ其れ等にひっそりと潜む甘く濁った秘密が有る。
窓側一番奥の机が私に与えられた席で、今日も退屈な時間をどう過ごそうかと憂いながら椅子を引いたのだった。鞄から教科書や筆記用具を取り出して机の中へ収めようとした時、真っ白な封筒がひらり、と膝に舞い落ちる。差出人の名前は書かれておらず、誰からだろうかと訝しみながら封を開けた。
『廿樂 絢様
前略、私は高千穂 桐子と申します。
校舎へと向かう桜並木を歩む絢様のお姿を拝見し――』
真っ白な便箋に少し丸味を帯びた可愛らしい文字が彩り、見慣れた社交辞令にも受け取れる文言が並んでいた。なんとまぁ、面倒な事を……と愚痴をこぼして仕舞いそうになる。
「まぁ! 絢さん、また恋文を戴いたのですか?」
「違いましてよ、これはお目のお伺いですわ」
「絢さん、お素敵ですからねぇ。学生だけでなく、先生方からもお声が、」
きゃぁ、きゃぁと楽しく小鳥のように囀る同級生達に申し訳なく思いつつ、溜め息を吐かずには居られなかった。
「絢さん、大変ですわね」
唯一、私に同情して労ってくれる友人は彼女だけだった。
「また、泣かせてしまうと思うと……」
「ぇっ?! 絢さん、この方もお目にしないのです?」
「こんなにも熱烈な恋文を認めて下さっている……可愛らしい子みたいですのに」
きょとん、と可愛らしい顔をしていたり、残念そうにしている同級生達に申し訳なさそうな顔を取り繕いながら、嘘を吐く。
「可愛らしい子だと思うのだけれど、私には決めている子が居ますので……申し訳ないけれど、」
遮るように、わっと声高く囀る小鳥達は大きな瞳を輝かせ、頬を少し赤らめて詰め寄る。
「絢さん、お決めになった子がいらしたの?!」
「どのお方ですか? これまでお目にした方がいらっしゃらなかったので……その、気になっておりました」
咄嗟に吐いた嘘が思いの外、彼女達の好奇心を煽ってしまったようで。どうしたものだろうか、と考えあぐねる。そんな私に先程までずっと黙っていた友人が、そっと手を差し伸べてくれた。
「絢さん、まだ口説き中ですの。お相手の方がとっても恥ずかしがり屋さんらしくて……皆さんも温かく見守っていましょう?」
「そ、そうですわね」
薄く形の良い唇にそっと、人差し指を当てて、柔らかく微笑んで黙らせる。ちらり、と目配せすると私の耳元に唇を寄せて私だけに伝わる声量で、上手くいったね、と囁いた。きゃぁぁっ、という耳を劈く雑音は聞こえないふり。