無惨様が外部の人に自分達の関係を「ビジパ」って言う度に③その他のリアクション 鬼舞辻無惨が秘書の黒死牟に全幅の信頼を置いていることは、過去に様々な場面で語られている。
同時に、その評価が大袈裟でないことも皆が知っている。彼の優秀さは他の議員が「倍の報酬を出してでも手に入れたい」と言うほどで、そこまで言わしめる理由は能力だけでなく、生まれてくる時代を間違えたかのような愚直な忠誠心すらも皆が羨むところであった。その証拠に無惨に危険が及ぶ時には身を挺して守ろうと姿を何度も目撃されている。
「そうですね、鬼舞辻は私をビジネスパートナーと評価してくれています。それはとても嬉しい評価ですね」
秘書という主に仕える立場でありながら対等に扱ってくれる、こんな嬉しいことはないと付け加える。
「議員秘書なんて捨て駒みたいなものではないですか。議員が失脚すれば共に失業。それどころか不祥事では身代わりになり、下手すれば命を落とすことすらある。だから能力以上に養わなくてはいけないのが主を見抜く能力です。そんな私が命を懸けても良いと思う相手なので鬼舞辻は別格なのです」
謙虚で真摯な受け答えはするものの、言葉の節々から気位の高さや自尊心の高さが垣間見られる。過度な謙遜は逆に傲慢に見える時があるので、ある意味清々しい。
しかし、そこまで心酔する理由は何か。確かに鬼舞辻無惨は魅力的な男である。だが、そこまで信頼できる理由はどこにあるのか。
「それは、きっとお話ししたところでご理解いただけないと思います。私たちにしか解らないことですから」
言葉では言い表せない信頼。その姿はまるで夫婦のようだと言われることもある。
「夫婦? そうですね、私たちの関係も何か契約で結ばれ証明出来たら便利なことも多いのでしょうが……別にそんな紙切れや指輪に拘る必要がないことも私たちが一番よく解っています」
ぼんやりと遠くを見つめながら、黒死牟は小さく笑う。
「夫婦や肉親よりも強い絆が私たちにはありましてね……その繋がりさえあれば、幾世を隔てても必ず巡り合い、並び立てるだろうという確信があります。前世で叶えられなかった無惨様の夢を今生で叶える。その為に私はここにいるのです。そして、来世も、その次の世も共に生きていきたいと……」
そう話すと、周囲が取り残されたように口を開けて呆然としていた。本当に話の意味が理解できないのだろう。そんな姿を見て、黒死牟は声を出して笑った。
「それくらいの気持ち、ということですよ」
黒死牟の話がどこまで「現実」で、どこからが彼の思い描く「理想」なのか解らない。
しかし、その眼差しには全て本当なのではないかと思わせるような説得力があった。