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    こは斑ワンドロワンライ、いつも開催ありがとうございます!
    大遅刻ですがお題「傘」お借りしました!

    #こは斑
    yellowSpot
    #こは斑ワンドロワンライ

    相合傘 ビルの窓から見える外界は土砂降りの大雨だった。これはニキの傘でも無断借用しなくては無事に帰れまいと一人頷いて傘立てに足を向けた燐音は、ふと視線を向けた先、軒下で浮かない顔をしている青年を見つけた。この湿気で、どことなく彼の髪もいつもよりボリュームを増している気がする。なかなかまとまらなくて大変だろう。身に覚えがあるので勝手に同情しておくこととする。
     青年は手に閉じた傘を二本持っていた。中に入らずに待っているということは、そろそろ待ち人も現れる頃合いなのだろう。その人物には心当たりがあった。今の今まで同じ現場で仕事をしていたのだから当然だけれども。
    (こはくちゃんが出ていく時間をずらそうとしてたのはこういうことだったんだなァ)
     なかなかいじらしいことをするじゃねェの、と鼻を鳴らして、何気なく青年の視線の先を目で追った。通りを行く人は皆、傘をさして足早にその場を去っていく。
     そんな景色の中で、歩道の隅を歩く少女たちを斑は熱心に眺めているようだった。彼女たちはひとつきりの傘を共有し、極々近い距離で何事かを話しながら時折肩を揺らして笑っている。互いに触れていない方の肩はすっかり濡れてしまっているけれど、そんなことを気にも留めずにいる。
     彼の手には傘が二本。燐音は途端にむず痒くなった首の後ろをがりがりと掻きむしって、一つ息を吐いて、それから傘立てに伸ばしかけていた手をポケットに突っ込んだ。
     青年に近づいていくと、彼は物思いから覚めたようにハッとこちらに顔を向けた。深い緑の瞳がくるりと煌めく。
    「よォ三毛猫ちゃん、こんなところで雨宿りかい」
    「ああ、ちょっと人を待っていてなあ。傘を持っていかなかったと思うから。そろそろ出てくる頃だと思うんだが」
     思ったよりも彼が自分の事情を話すことに驚いた。もっと警戒して取り繕うものだと思っていたが、斑はちょっと気恥ずかしそうに耳の後ろを掻いてそんなことを言う。それでも視線がチラチラと別のところへ飛んでいるのを見て、今度こそ燐音は軽く吹き出した。
    「ん? なんだあ、何かおかしなことでも、」
    「はいはい、ちょーっと失礼しますよっと」
     するりとその手から傘を一本拝借する。何の変哲もない、コンビニで買えそうなビニール傘だ。
     ぽかんと口を開けた斑は、燐音の手の中にある傘と、自分の手元とを二回見直したあとで「えっ」と間抜けな声を上げた。
    「俺っち傘忘れちまってよォ、ニキきゅんのでもパク……借りてこっかな〜って思ってたんだけど、いいところに二本も傘持ってるやつがいるもんだから」
    「えっ、あっ、いや、それはこはくさんの、」
     そう言いつつ、斑は伸ばしかけた手をうろうろと宙で彷徨わせている。本気で取り返す気はないのだろう。唇がむにむにと蠢いて、締まりのない顔になるのを堪えているようにも見えた。
    「なァ、悪い話じゃねェだろ」
    「うっ」
    「風邪ひくなよ」
     ちょうど後ろから斑の名前を呼ぶ聞き慣れた声がして、慌てて燐音は傘を開いてビルの外へ飛び出した。
     大股で歩く雨の中、背後からは途切れ途切れに青年たちの会話が聞こえてくる。間違えて一本しか持ってこなかったんだ、だから一緒に、とそこまで聞こえたところで、雨の音が強くなって彼らの会話は聞こえなくなってしまった。
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