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    こは斑ワンドロワンライ、今週も開催ありがとうございます!
    お題「クリスマス」お借りしました

    #こは斑
    yellowSpot
    #こは斑ワンドロワンライ

    幸福な不在証明 サンタクロースがよいこのもとへプレゼントを届けにやってくる。幼い斑は早々に、それを嘘だと見抜くことができた。
     自分のところへプレゼントが届かないのは道理である。出来の悪い三毛縞の長男坊だ。サンタクロースなる人物だって、きっと自分にわざわざ贈り物など届けには来ないだろう。
     しかし、奏汰のところへ来ないとはどういう了見だ。彼は確かに未熟であるし、できないことも多いけれど『よいこ』であるはずだ。
     二人でこっそり読んだ絵本の中、クレヨンのようにぼんやりとしたタッチで描かれた白ひげの、恰幅の良い老人は奏汰のところへもやって来なかった。であるならば、これはただの嘘っぱち。伝説か、体のいいおとぎ話なのだ。

     12月26日、11時24分。斑が目を覚ましたのはもう昼近く、日も高く上った時分であった。
     昨夜までみっちり入っていたスケジュールをどうにかこうにか走り抜け、年末までの小休止ということで与えられた一日限りのオフである。寮とは別に借りているアパートのワンルームにて、斑は大きなあくびを一つして──サッと後ろを振り向いた。
    (なんで?)
     どうも背中が温かいと思っていたのだ。静かに振り向いた先で穏やかな寝息を立てているのは、淡い桜色の髪をベッドに散らした桜河こはくその人である。
     おぼろげな昨夜の記憶を辿ってみても、こはくと顔を合わせた場面は一つもない。
     深夜にやっとすべての仕事を終えて、寮にも戻る気力がなくて、なんとかアパートにたどり着いてそのままベッドへ直行したはずだ。ちらりと身体を起こしてみると、スツールの背に昨日着ていた衣服が乱雑に掛けっぱなしになっている。身につけているのは寝間着なので、ここまではどうにか頑張ったらしい。
     その後は泥のように眠って、覚醒したのが今しがた。朝方に夢を見た気がするが、それがどんな夢だったのかは覚えていなかった。
     しかし、と斑は恐る恐る体勢を変えていった。
     ゆっくりと数分かけてこはくと向き合うかたちで寝そべると、そっと彼の胸元に鼻を寄せた。
    (やっぱり。なんだかお酒のにおいがすると思ったら、この服からか)
     大方、Crazy:Bが懇意にしていると噂の店で昨日も遅くまで歌い踊っていたのだろう。ESのクリスマス企画にも顔を出していたが、彼らが大人しくそれだけで満足する集団とは思えない。クリスマスで華やぐ街の、その片隅で今ひとつ楽しめずに拗ねている連中を巻き込むような男たちだ。彼らは彼らで昨夜のうちに密かにファンを増やしていたのかもしれない。
     それにしても気になるにおいだった。まさか飲まされてはいないだろうなと眉を寄せたとき、斑はふと視界の端で、ヘッドボードに置きっぱなしのスマホがちかちかと点滅していることに気がついた。
    『そっち行ったと思うから、あとヨロシク🐝』
     長くため息をついて電源を落とした。毒のある笑顔と耳障りな声が浮かんでくるかのようだった。
     頻繁にやり取りをしているわけでもないが、あの男からは極まれにメッセージが届くことがある。斑から返信をすることはないので、完全に一方通行のメッセージだ。それでも懲りずに要所要所で届くから、これがまた腹立たしい。
     しかしこれではっきりした。こはくが酒を飲まされていたり、昨夜何かトラブルに巻き込まれたりといったことはなかったらしい。あれでいて案外ユニットメンバーのことを大切にする男である。何かあったのならば、最後まで自分のところで面倒を見ようとするだろう。そうしなかったということはつまり、そういうことなのだ。
     このアパートは寮からも、最寄りの駅からも少々距離がある。どうやって来たのだろうと思案しながらまた布団に潜り込んだ。気の抜けた顔で眠っているこはくを見ていると、段々と悪戯心が湧き上がってきた。
     吐息のかかる寸前のところまで顔を近づけて、頬にキスをする。そっと耳たぶを中指の腹で擽って、息を吹きかける。そうしてじっと反応を見守った。
     むにゃむにゃと不明瞭な声を上げながらも、こはくが目覚める様子はない。 
     楽しくなってきて、今度は優しく身体を抱き寄せた。すっぽり包み込むように掻き抱くと、つむじに鼻をうずめる。少し汗臭い。けれどそれ以上に濃く香るのはこはくの体臭で、斑はくすくす笑いながら長い脚を布団の中でこはくのそれに絡めてやった。
    「んあ……?」
     そこまでしてやっと、腕の中でこはくが反応した。
     笑みをおさめられないまま、斑はこはくの顔を覗き込む。第一声、彼がなんと言うか、わくわくしながら待った。
    「……ぁあ、あー……」
    「んん、っふふ、」
    「さんたのおじはん、おおきにぃ……わしがほしかったんは、こいつですぅ……」
     こらえきれなかった。
    「あはっ、あ、あはは、あっはっはっはっは!」
    「なに!? 何が起きっ……あだっ!」
     突然大きな声で爆笑しだした斑に、こはくが勢い良く飛び起きてベッドから転がり落ちた。
    「いったぁ……」
    「あっはは、あは、あはは、そう来たかあ! そうかそうか、んふふっ、あははは!」
    「なに……? どういうことなん……? 事と次第によっちゃ今日がおんどれの命日っちやつやで……?」
     腹を抱え丸くなってまだ笑いつつ、どうやってここまで来たのかを聞くと「燐音はんがタクシーチケットくれたし」と言う。
    「古臭いなあ、あの男」
    「なんやねん。言っとくけど、一応ここからちゃあんと離れたコンビニで降りたからな。バレんように」
    「そうかあ、そこからは歩いて?」
    「そやけど」
     再びのそのそとベッドに這い上がってくると、こはくはまだ人肌であたたかい布団に潜り込んできた。
    「あー、ぬくい」
    「ふふ、ふふふ。どんな夢を見てたんだあ?」
    「は? あー……忘れたわ。なんやえらい良い夢見とった気ぃするんやけど」
     そうか、と頷いて斑はこはくに擦り寄った。
    「知らなかったなあ」
    「何が?」
    「俺のプレゼントは遅れてやってくるし、しかも歩いてやってくるってこと」
    「あ?」
    「つまりサンタさんなんか要らないってことだ」
     寝ぼけとるんか、と聞かれたのでそういうことにした。
     斑は口の端を柔らかく吊り上げたまま、心地良いぬくもりを引き寄せる。ぶつぶつと文句を言いながらも拒絶しないところからして、こはくもまだこのまどろみを楽しんでいたいようだ。
    「なぁ、でもお腹減らん?」
    「……ピザとかどうだあ? 昨日の今日だ、今ごろヒマしてるだろう」
     鼻先が触れ合う距離で話す小さな声が、カーテンも開けないままの薄暗い部屋に、穏やかにほつほつと落ちていく。一日遅くはあったけれども、なんだかんだで贈り物を手にした子どもたちはのんびりとご馳走の話を楽しんでいる。
     斑はふっと顔を上げた。薄闇の中で、落ち着いた光を宿す紫色の瞳に吸い込まれるように、今度は唇に口づけをした。
    「こはくさん。メリークリスマス」
    「今? ……ま、言うだけタダか。メリークリスマス」
     くぐもった音でそう言って、またどちらからともなく唇が触れ合った。

     そんな彼らの様子を知ることもなく。部屋の外、用済みになったクリスマス飾りもすっかり片付けられた街は、師走の空気を孕んで忙しなく動きだしているのだった。
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