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    こは斑ワンドロワンライ、開催ありがとうございます!
    お題「リボン」お借りしました!

    #こは斑ワンドロワンライ
    #こは斑
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    For You 二十歳の誕生日、その次の日になる深夜一時のことである。散々飲まされて、歌って踊って笑ってどついて、ユニットの仲間やスタッフたちと羽目をはずしたこはくは、この時間になってやっと自宅に帰ってきた。
     ESの管理する寮を出たのは二年ほど前のことだった。最後までどうにも他人の多い空間には慣れなかったが、あの場所にも、去るには惜しいと思える程度には愛着も湧いていた。それでも寮を出たのは、自立した一人での生活を経験してみたかったから、そしてとある男の安心できる居場所を一つでも多く増やしておきたかったからだった。
     斑は現在、海外に拠点を置き、主にそちらで活動している。数ヶ月に一度帰国してESに顔を見せるが、すぐにまた海の向こうへ旅立っていく。海外に置かれたESの拠点となる場所を中心に活躍の場を広げているらしい。色々と葛藤や悩みもあるそうだが、帰ってくるたびにこはくにそんなことをこぼせるようになったのは、大きな成長とも言えよう。
     かん、かん、かん。
     普段よりも大きな音を立てて階段を上っていく。無性に楽しくて、今すぐにでも歌いだしたくなる。その一方で、頭の片隅には今の状況を冷静に見下ろしている自分がいた。アルコールとはこのように体に作用するものか、と妙に落ち着いて観察しているのだ。
     白い息を吐いて、鼻歌を歌いながら鍵を開けて、扉を開けた瞬間にこはくは戦闘態勢に入った。体を低く屈め、目の前に向けて強く踏み込む。他人の気配だ。身体よりも一拍遅れて、脳がそう判断した。
    「おおっ、恐悦至極! 熱烈な歓迎だなあっ、ママは嬉しいです!」
     そして、大きな男の体に抱きしめられて床に転がった後、頭の上からはそんな声が降ってきた。
    「おんどれ……! 他人様んちで何してんねん、ド阿呆!」
    「いやあ、ここの合鍵は君が俺に、」
    「だいたいっ、帰ってくるなら先に連絡よこさんかい! まーた適当にメッセージ無視しおって。訳のわからんスタンプ一つで済ますな、すかぽんたん! あとっ、あとっ、今日はなぁっ」
    「なはは、痛い痛い、いや割と本気で痛い。ごめんって、あたた」
     容赦なく胸ぐらを掴んでどついていると、昼間も誰かをどついたような記憶がぼんやりと蘇ってきた。十中八九、燐音だろうが。
     しかしこの男、なぜこんなチョーカーを巻いているのだろう。光沢のある、鮮やかな紫色のそれが妙に気になった。彼の趣味ではないように思う。
    「ちょっ、ちょっ、と、待ってくれ、せっかくのプレゼントを傷物にしないでほしいなあっ! とうっ!」
     気を抜いていたら、あっという間に形勢逆転である。こはくを押し倒した斑は、得意そうに笑うと自然な動作で身をかがめ、そっと唇にキスをした。ふっと吹きかけられた吐息に、ぞわりと背筋が粟立つ。
    「……プレゼントぉ?」
    「うん。ほおら、こはくさん。俺のここ、」
     床に縫い止められていた手が持ち上げられ、斑の首筋へとそのまま誘導されていく。男のうなじのあたりに指先が触れたとき、こはくはそれがチョーカーではないことを知った。
     美しい光沢のリボンの端をつまむ。少し力を入れるだけで、簡単にそれはほどけた。
    「これでも急いで帰ってきたんだぞお、いや、これは本当に。連絡を忘れていたのは……ごめん。柄にもなく緊張してしまっていて」
    「こ、れ……これ、わし、見たことある」
     震える声でこはくがそう絞り出すと、斑は眉尻を下げて微笑んだ。優しく眇められた翡翠の瞳に、泣きそうな顔をした自分が映っている。
    「……あんずさんに、あの衣装を作ったときに出た端材を譲ってもらってたんだ。女々しいと思うか?」
     ぶんぶんと首を横に振った。もがくと簡単に腕は自由になった。両腕を目一杯伸ばして、斑の体を抱き寄せた。
    「阿呆っ……!」
    「ごめん。……ただいま、こはくさん。お誕生日おめでとう」
    「くう……」
    「プレゼントは、俺。……というわけなんだが、こはくさん。さっきから当たってるこれ……」
    「……」
    「君、お酒飲んできたんじゃないのかあ?」
    「びっくりしすぎて抜けたわ」
    「嘘だあ……」
     くつくつと笑いながら、こはくは斑の首筋に顔をうずめた。深く息を吸う。慣れ親しんだ香りと、こはくの知らない異国の香りとが鼻腔を満たした。
     とびきりの贈り物をもらったのだ、これはじっくりと味わうべきである。首筋から耳の後ろにかけて、舌先でねっとりと舐めると斑が鼻にかかった声を上げて身を震わせた。互いの間にこもる熱気が、急速に理性を彼方へ押しやっていく。
    「っ、先に、シャワー、」
    「……」
    「準備してくるから。な?」
    「……」
     渋々腕を解くと、斑は苦笑しながら立ち上がった。取っ組み合ったせいでよれてしまった襟元を直して、やれやれとため息をついている。
    「まったく、久々の再会だっていうのにちょっとせっかちすぎやしないかあ? 君も大人になったんだから、もうちょっとムードとか」
    「やかましい。……っちか、家にゴム、ないで。この前ので最後やったから……ぬしはんいつ戻るか分からんし、買い足してなかったわ」
     斑が気まずそうに明後日の方向を向いた。
    「……買ってきた」
    「ぬしはんかてやる気十分やないかい」
    「聞こえませんっ! さーてお風呂お風呂! お先にっ」
    「あっ、待てや、この!」
     どたばたと奥に引っ込んでいく斑を追いかけるべく、こはくも身を起こした。
     握り締めた手の端からは、紫色のリボンがはみ出してひらひらと楽しげに揺れていた。
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