芳しきリベンジを誓って がたんっ、がらがらがら、ごんごろごん。聞こえていた壮大な演奏会に龍之介は通話を切ったばかりのスマートフォンを尻ポケットにねじ込んでキッチンに飛び込んだ。
「も、モンつな!? なんでマグカップに……!? だ、大丈夫か!?」
龍之介のマグカップをすっぽり被ってばたついているその姿にぎょっとしながらも慌てて救出する。ぐっしょりと濡れそぼっているモンつなの鮮やかなブルーの毛並みはすっかり色を変えている。耳を下げて瞳を潤ませるモンつなの表情は「ごめんなさい」一色である。取り敢えず手短なタオルで包んでやれば、ぺこり…….と龍之介の掌の上で実に悲壮感漂うごめん寝を披露された。もしかして土下座のつもりなのだろうか。
「いやコーヒーはいいんだけど、それよりモンつなは大丈夫?」
タオルの隙間から覗くモンつなはしょんぼりしながらこくりと頷く。それに「そっか、よかった」と龍之介が肩の力を抜いた。モンつなを一度退避させ、布巾で手早く滴っている箇所を拭う。幸いにしてマグカップが割れたりしていることなく、ただ中身が飛び散っただけに留まったようだ。マグカップの中身がアイスコーヒーでまだよかった、と龍之介は安堵の息を吐く。ホットコーヒーだったら火傷をしていたかもしれない。
「一旦これくらいでいいか。モンつな、体洗おうか」
包まれたタオルごと抱えられ、モンつながピャッと跳ねる。モンつなは風呂が苦手である。しかし自分の惨状をよく理解しているのでぷるぷるしながらこくり……と力なく首肯した。
「モンつな、もしかして俺にコーヒーを届けてくれようとしたの?」
優しく洗われ、ドライヤーまで掛け終わったところで龍之介が問い掛ければ、モンつながぺしょりと耳を下げた。そのつもりだったが大失敗してしまったので申し訳なさで首を縦に振れないといったところか。
コードを束ね、ドライヤーを片付けながら「やっぱりそうだったんだね。ありがとう、モンつな」と龍之介が明るく笑う。モンつなが弾けたように顔を上げた。目を丸々させて口を半開きにするモンつなに龍之介は小さく吹き出した。
「慣れるまでは俺と一緒に淹れようか。そしてまたチャレンジしてくれたら嬉しいな」
龍之介の提案に表情を輝かせ、モンつなは力強く飛び跳ねた。