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    suno_kabeuchi

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    suno_kabeuchi

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    i7SS100本ノック 21本目
    八乙女楽と二階堂大和のサシ飲み~運動部を添えて~

    ##i7_SS

    めんそーれよいどれ「あれ? 楽と大和じゃん!」
     耳に覚えがありすぎる声にビールを煽る楽と海ブドウをつついていた大和は揃って声の方を向いた。予想通り、ベビーフェイスの先輩の顔があった。二人と目が合った百は人好きのする懐っこい笑顔を浮かべる。
    「今をときめくIDOLiSH7とTRIGGERのリーダーが揃ってサシ飲みしてたの? 仲良しじゃん!」
    「別に仲良くはないっすよ。今日だってタイミングが合ったから、たまたま」
    「おまえ、俺の連絡結構な確率で既読スルーするだろうが」
    「タイミングが悪かったんだって」
    「あれ? 大和さんと八乙女?」
    「あ、楽! 大和くんも」
    「龍!」
    「ミツ、おまえもいたのかよ」
    「俺と三月は番組が一緒だったからね」
    「このあと一緒にどう? って百さんに誘ってもらったんだ」
    「龍はなんでだ? おまえ今日早上がりじゃなかったか?」
    「龍之介も誘ったら来てくれました。イエイ!」
    「イエーイ!」
    「イエイイエーイ!」
     芸能界運動部のアイドル男子チームトリオは今日も仲良しである。楽はいつかの開局パーティを思い出して複雑な顔をした。大和は話こそ聞いていたが、実際こうして三月が戯れている、もとい可愛がられているのを見るのは初めてなので「うちにいる時より元気だな」という感想を抱いた。
    「オレ、このお店に来るのは初めてなんだけど二人はよく来るの?」
    「いや、俺も初めてっす。八乙女にここ集合なって呼び出されまして」
    「龍が教えてくれたんすよ。天と三人で来たこともあります」
    「前うちの番組で共演してくれた子が教えてくれたんです。その子も沖縄出身で、友達が沖縄料理店やっててすごく美味しいんですよって」
     彼は別の事務所に所属している青年だった。友達と二人で上京してきて、片や俳優を目指し、片や料理人を目指して互いに邁進しているらしい。
    「すぐ有名になって行きづらくなるから行くなら今の内ですよって言ってたな」
    「うん。そこまで言われちゃったら行くしかないなって、その日のうちに天も一緒に三人で来たんです」
    「それでリピーターになっちゃったんだ?」
    「はい! 俺の地元と近いのか、味付けがすごく懐かしくて美味しいんです」
     にこにこと語る龍之介の顔を見ながら楽は初めてこの店を訪れた日の事を思い出した。
     TRIGGERが三人で訪れても驚いた顔こそしながらすぐにこの奥まった半個室に案内してくれた店員のプロ意識もさる事ながら、その後の接客も心地よかった。欲しいところに手が届くとはこの事だろう。
     当然なら食事も美味だった。龍之介が故郷の味に終始ご機嫌だったり、そんな龍之介を見て楽と天も嬉しくなったりと文句なしに素晴らしい店だった。だからこそ大和を誘ってこの店に来たのだ。成程、番組に来た青年が「すぐに有名になる」と豪語していたのも頷ける。実際、以前三人で来た時より店内は賑わっているように思える。
    「つか席隣のテーブルなのか……」
    「え、別によくない? 大和は嫌なの?」
    「い、いやそういうわけじゃないです。ただすごい確率だなって」
    「確かにな。おっさんたちがここ来てるのもその隣のテーブルに案内されるのも普通ねえもん」
     などと会話しながら運動部三人が隣のソファ席に腰掛ける。メニューを取った三月が先輩二人にも見せるようにしてテーブルの上で広げた。
    「オレ、海ブドウ食べたいです! あと折角だったらラフテーもいいなあ。普段家じゃ作らないものって意味じゃこの紅芋天ぷらもうまそう!」
    「わかる! ザ・沖縄って感じの料理はいきたいよね! でも百ちゃん的には地元民である龍之介大先生のオススメも知りたいな。何かある?」
    「ここのお店は何を食べても美味しいんですけど……ゴーヤうさちいはあまり見かけないから食べてみて欲しいです」
    「え、ゴーヤうさぎ……?」
    「ゴーヤうさぎ⁉ 体表がゴーヤのうさぎとか嫌すぎますよ!」
    「うさぎの形をしたゴーヤは可愛くない?」
    「……それは可愛いかもしれない」
    「あはは。うさぎじゃなくてうさちいです。おひたしですよ」
    「なんだ!」
     急募、ツッコミ。ミミガーを咀嚼しながら大和は思う。てっきり三月がツッコミに回るものだとばかり思っていたが、どうやら三人でいる時は存分にボケに回るらしい。IDOLiSH7ではしっかり者の頼れる兄貴だが、あの二人の前では後輩属性が強めに出るようだ。
     イチが知ったら寂しがりそうだな、とわかりづらいがわかりやすい参謀の顔を思い浮かべつつ大和はビールを呷った。
    「あ、ちょっと二人とも! ここ見てください!」
     メニュー表を楽しげに眺めていた三月の声に先輩二人が覗き込む。ここです、と三月が指さした文字に二人もまた「あっ!」と声を上げた。
    「アカジンだ‼」
    「しかも刺身があるよ、龍之介!」
    「じゃあ是非いきましょう! あとスヌイ天ぷらも美味しかったです」
    「スヌイ?」
    「もずくのことです」
    「もずく⁉ もずくを天ぷらにしちゃうの⁉」
    「全然想像つかねえ……」
    「美味しいですよ!」
    「龍之介が言うって事は本当に美味しいんだろうね。よし、それも頼んじゃおう!」
     わいわい盛り上がる隣のテーブルを尻目に大和は島辣韭に手を伸ばした。
    「めちゃくちゃ腹を満たしに来てる……」
    「俺ら、真っ先にビールと枝豆いったよな……」
    「もずくの卵焼きと島辣韭は頼んだろ」
    「あと海ブドウも食べたな。よし、ちゃんと沖縄っぽいのも選んでる」
    「俺、そろそろ肉食いたいからラフテー頼むわ」
    「あ、そんなら俺、ビールおかわりいくわ」
     テーブルに備え付けられている呼び鈴を押せば、店内のどこかからピンポンと軽快な音が店内BGMに紛れて聞こえた。程無くして「お待たせしました、お伺い致します」と丁寧な態度で店員が半個室に姿を現した。
    「ラフテー一つお願いします」
    「あと生追加で」
    「はい! お一つで宜しいですか?」
    「あー、二つで」
    「はい!」
    「すみません! こっちも注文していいですか?」
    「承ります!」
    「えっと、まずドリンクが……」
     そうして三月が先輩二人の様子を確認しながらオーダーしていく声を聞きながら大和はちびりとビールを口にした。
    「そういえば二階堂、お前また主演映画やるんだってな」
    「耳が早いな……まあ、一応」
    「今回は何の役なんだ?」
    「想い人の犯罪を庇って隠蔽する天才画家」
    「めちゃくちゃ悪役じゃねえか。おまえ、本当そういう役どころ多いよな」
    「うるせえよ。そういう八乙女だってドラマ決まったんだろ? どんな役?」
     途端に楽の顔が渋くなる。珍しい、と大和は目を僅かに見開いた。空になったミミガーの皿のよけながら塩キャベツをつつく。しゃぐ、と噛み締めれば胡麻油の香りが鼻を抜ける。塩昆布でほんのり増したキャベツの甘みを舌で味わった。やっぱこういうおつまみ料理って最高だよな、とビールを呷りながら大和はしみじみ実感する。
    「…………ヒロインに横恋慕するバーのマスター」
     楽が実に渋い顔をしながら低く呻くように呟いた。大和が島辣韭の皿も空けたタイミングだった。箸を咥えたまま数拍。もぐもぐごくん。ぐびぐび。とりあえず口の中にある食べ物を片付けた。
    「おまえにそういう役来るんだ…………」
    「『ゼロ』で九条の役やってからそういうのも増えてきた」
    「あー……おまえの九条、すごかったもんな」
     ゲネプロで観た楽の『九条鷹匡』の悲嘆を思い出す。あれは、すべてを喪失した絶望を知らなければ決して出せない深い闇だった。
     信じていた、愛していたものすべてに裏切られた、筆舌尽くしがたい苦悶と激痛。愛していたから、傷ついた。信じていたから、苦しんだ。
     愛して愛して愛して───ぱちん、と風船が弾けるみたいに、突然喪われたそれを許せなくて許せなくて許せなくて、それでも許したくて。その葛藤に一人のたうち、苦しみに苛まされる。
     愛が大きければ大きいほど、その反動は比例して大きくなる。愛と憎しみは表裏一体とはよく言ったものだと大和は苦い感情をビールで飲み下した。観劇後、千がぽつりと零した一言が今も大和の耳に残っている。
    ───本当にきつかったんだろうな。
     そのまま別の話題になってしまったから言及はしなかったけれど、わかってしまった。千はきっと、TRIGGERが日の目を再び浴びるまでの日々の事を言っていた。
     心からの絶望。息もろくに出来ない奈落。
     進んで来られたとは言っても。歩みを止めなかったとは言っても。それはあくまで結果論に過ぎない。渦中におけるそれらの痛みは、苦しみは、決して無かった事にはならないのだ。
     とはいえ、そこまで言うのも野暮だと大和は敢えて続きを言葉にせず「千さんもすげえ褒めてたぜ」と嘘偽りでは無い別の切り口を選択した。
    「ああ。ラビチャで感想くれた。嬉しかったな」
    「俺もすげえと思ったよ。というか『ゼロ』めっちゃよかった」
    「ありがとな」
     そうして二人ビールを呷る。大和のグラスが空になった。隣のテーブルをちらりと見る。百も、三月も、龍之介も快活に笑い合っている。今度はサーフィンしようよ。いいですね。オレサーフィンやった事ないんですけど。俺が教えてあげるよ。本当ですか、楽しみにしてます。聞こえてくる会話は実に平和そのものだ。
    「お待たせしました、生二つとラフテーです!」
    「ありがとうございます」
    「あー、これはビール追加して正解だったやつだわ。絶対うまい」
    「わかる。絶対合う」
     てらてらと上質な脂が照り返す狐色の三枚肉にそれまでのしんみりした空気は一瞬で霧散した。二人の頭の中には肉と酒の事しか無い。たっぷり時間を掛けて煮込まれてきたであろう一口大に切られた三枚肉の姿はあまりにも魔性の魅力を放っていた。じゅわじゅわと上品に滴る脂に堪らずゴクリと喉が鳴る。
     料理と一緒に運ばれてきた取り皿を手に大和と楽はそれぞれラフテーを一切れずつ回収する。箸で掴んだ傍からほろりと崩れそうな柔らかさに「やべぇ…………」と無意識で呟いた。
     ほろほろした、けれど肉汁をたっぷりと滴らせるそれに喉が鳴る。そそられる食欲のままに口に運んだ。ぱくり。
    「……‼」
     二人して箸を咥えたままの格好で硬直する。口いっぱいに広がる肉汁とじゅわりと舌で押し潰すだけでじゅわりと溶けてしまうほど柔らかく上質な脂が口内を見たし、鼻腔を抜けていく。
    「やば………………うま………………」
    「うまいよな……………………………」
     言語能力がとろとろになってしまったリーダー二人はそれきり黙り込んでもくもくと箸を運ぶ。こんなに美味い角煮があって堪るか、と内心で理不尽にキレ散らかした。とりあえず大和は社長や万理、あと壮五には教えようと決めた。これは酒と共にご賞味頂きたい味である。日本酒と共にいただくのも大いにアリだ。
     ピンポーン。再び呼び鈴が鳴る。見れば楽が真顔で押していた。そのグラスは先程追加したばかりだというのに半分程になっている。
    「お伺いします!」
    「生追加で」
    「二つお願いします」
    「わかりました!」
     簡潔なやり取りの後、顔を見合わせた。これは追加しちゃうよな。わかる、酒進んじゃうよなこれ。完璧なアイコンタクトだった。
    「え⁉ あの人ってそんな事やらせてきたんですか⁉」
     三月の声に大和はラフテーとビールに舌鼓を打ちながら耳を傾ける。いつの間にか隣のテーブルにも料理や酒が到着していたらしい。なんなら酒に関しては結構なハイペースだった。空のグラスが早くも二つ並んでいる。赤ら顔で目を丸くする三月に百はへらりと笑った。
    「そうだよー。流石の百ちゃんもブチギレそうになっちゃった! ユキの事が無かったら一発くらいお見舞いしてたかも」
    「百さんがそんなに怒るってよっぽどじゃないですか?」
     男二人が三枚肉に魅了されている間に、隣の席ではかなりディープな話をしていたらしい。
    「確かにその人、裏で結構ヤンチャしてましたもんね。あ、でもどっちかってーと弟の方がもっとヤバかったな」
    「あの人の弟……ってあのゴールデン番組のレギュラーのモデルのことか?」
    「そうそう。いやー、大人しい顔してやる事やってんだなって感じ?」
    「あ、大和も知ってたんだ。まあ弟の方がヤバいのはガチ。思わせぶりが凄いから女優さんたちも凄い数餌食になってた」
    「そ、そうなんですか⁉ 俺、あの人にお世話になってたんだけど……」
    「龍之介。悪い事言わないから距離取りな。オレもフォローするから」
    「百さん……」
    「……結構酒が入ってるのにこのガチトーンは本気でやべーやつじゃね……?」
    「本気でやべーやつなんだよ」
    「本気でやべーやつなのか……」
    「ちなみにそいつも俺にご機嫌取りしてきた奴の一人な」
     この場にパパラッチが潜り込んでいたのなら、あまりの大スクープ情報の洪水と自身が興奮で垂れ流す諸々の体液でとっくに溺れていただろう。なんなら一生分稼げるまであったかもしれない。だが幸いな事にこの場にそのような輩は忍び込んでいなかったようで、店内に不審な動きをする人間はいなかった。知らないうちに断頭台の上に立たされて、知らないうちに首の皮一枚繋がったビッグネームたちの事を気にする者もこの場にいなかった。
    「金目鯛のマース煮と紅芋天ぷら、生ふたつとりゅうぐうでーす」
     大炎上待ったなしの激熱トークが繰り広げられる中、隣のテーブルに追加メニューらしき料理と酒が運ばれてくる。
    「マース煮?」
    「マースは塩の事だよ。沖縄じゃよく出てくる煮付けなんだ」
    「りゅうぐうって日本酒? 焼酎?」
    「古酒泡盛って書いてあったよ!」
    「俺が好きな銘柄なんだ」
    「泡盛かあ……」
     またビーストしちゃうのかなこの先輩、と大和は口に出さずに独白する。十龍之介は日頃から大らかな男ではあるが、酒が入ると陽気さマシマシついでに押しもマシマシになる絡み酒男なので、大和としてはあまり関わりたくないのである。面倒なので。
     店員が手際よくテーブルの空いている場所に皿とドリンクを置く。そのまま流れるように空いた器を回収すると「失礼します」と無駄の無い動きで半個室から去って行った。
    「いやあ、でも……あははっ、うぃーりきくなてぃちゃん!」
    「出た! 十さんのうちなーぐち!」
    「これはいい感じに回って来たね!」
     キャッキャし始めた運動部に大和はひっそりと願う。こっちに絡んできませんように。とは言え、と眼鏡のブリッジを押し上げた大和は眼前の男を見る。卵焼きをつついている。
    「まあ十さんがへべれけになっても、目の前の色男がお持ち帰りしてくれるもんな」
    「おい語弊しか生まない言い方すんな」
    「色男? 楽ぬくとぅ? 確かに楽ーいっぺーハバーさやー」
    「うわっ、早速来た!」
    「やべえ、もう何言ってるか全然わかんねえ」
    「ナギがいたら通訳してもらえたかもしんねえけど、あいつ未成年だからな……」
    「六弥? あいつ、うちなーぐちわかるのか?」
    「なんか十さんに教えてもらったらしいぜ」
    「わんゆだん?」
    「うわ⁉ 普通にこっちのテーブルにまで来た⁉」
    「もう同じテーブルみたいなもんじゃん! 二人とも金目鯛食べる? 美味しいよ!」
    「この人はこの人で普通に来るな…………」
     にこにこしている百にそっちのテーブル全員出来上がっているのかと一抹の不安がよぎる。いや百さんはいつもこんなんだったわと思い直した。
    「あはは! うりうりまじゅんぬま! なーふぃんぬでぃ!」
    「八乙女はこれなんて言ってるかわかんの?」
    「全然わかんねえ」
    「ダメじゃん。ちゃんと面倒見てよ、リーダー。この人、おたくのメンバーでしょ」
    「大和くん、ぶらまじゅんぬまな!」
    「めっちゃグラス押し付けてくるぅ……えーと、はいさい!」
    「はいさい! あはは、はいさーい!」
    「だからおっさん、はいさいはマジックワードじゃねえんだって」
     呆れたような声で三月が淡々と口を挟んだ。大和は「知ってるうちなーぐちこれとめんそーれしか無いんだから仕方ないだろ」と視線で叫んだ。

     結局テーブルは事実上の合同になり、その後は店が閉店時間になるまで飲み続けた。
     そして百以外は翌日仲良く二日酔いになった。TRIGGERの大人ふたりはセンターから冷ややかな眼差しでもって迎えられた。これだから、と言わんばかりの露骨な溜息に二人して返す言葉が無かった。なおIDOLiSH7はいつもの事だと言わんばかりにノーリアクションである。
     翌日、IDOLiSH7、TRIGGER、Re:Valeの三組が同じ番組に共演した中で、百はいつもと変わらないテンションなのをいささか悪い顔色の大和が何故平気なのかと問えば。
    「百ちゃんはそういうの慣れてるからね!」
     そういえばパワハラめいた酒の席を散々渡り歩いているのだったか。いつかの合宿で言っていた事を大和は唐突に思い出した。

     かなり飲んでいた筈の大先輩のキュートなウインクに、酒盛り仲間の後輩たちは揃って慄いた。
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    suno_kabeuchi

    TRAININGtwst夢/イデア・シュラウド
    集中している間に髪と戯れられてるはなし
    待てができるいいこなので ゆらゆらとゆらめくサファイアブルーを見つめること数十分。幸いにしてプログラム生成に集中しているイデア先輩に気取られることもなく、私はじっくりとっくり拝ませてもらっている。
     ほう、と何度目かもわからない感嘆の息が漏れる。昼だろうが夜だろうが、常に薄暗いイデア先輩の部屋ではそのサファイアブルーが陽の下のそれよりも鮮やかに映る。彩度の高いそれは驚くほど瞼に焼き付いては目を伏せてもその名残で閉じた視界に青が散る。
     足首まである長いそれはいざ座ると殆どが背凭れと痩躯の間に隠れてしまうけれど、一筋二筋と零れ落ちるそれもある。カーペットに座っていたけれど、そろりそろりと近づいて音もなくそれに手を伸ばす。燃えているだけあって毛先こそ掴めはしないが、もう少し上の方であれば実体がある。指に絡ませてみれば鮮やかな青に照らされて私の肌が青褪めたように光を受ける。視線だけイデア先輩に向ける。足元にいる私に気づいた様子もなくブツブツと早口で何か捲し立てながらキーボードを叩いている。それに小さく笑みを零して指に絡ませたそれに唇を添える。殆ど何も感じないけれど、ほんのりと温かい気がした。
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