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    suno_kabeuchi

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    suno_kabeuchi

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    i7SS 100本ノック 28本目
    春原くんのクラスメイトのモブと落とし物

    ##i7_SS

    しらないきみ 落とし物をした。有り体に言えばそれだけの話だ。
     それも高級品だとか身分証だとかの重要な価値を有するものでも誰かの手作りでオンリーワンだということもなくて、百均で売ってそうなチープなキーホルダーのぬいぐるみ。人によってはそんなものくらいでと笑い飛ばすに違いない。実際、全く同じものが近所のショップで売られているのを見た。でもそれじゃあダメなのだ。
    「見つからない……」
     誰もいない西日が差し込む教室で漏れ出た声は実に情けなかった。我ながらこんなに途方に暮れた声音を出せるとは思いもしなかった。それだけ思い入れがあるのだと間接的に理解したし、それ故に失くしたという現実が重く圧し掛かる。唇が震える。鼻がツンとして痛い。じわじわと視界が滲んでいく。
    「あ、いたいた! よかった、まだ帰ってなかったんだね」
     ガラリと教室の扉が開いたと思えば、クラスメイトの快活な笑顔が飛び込んできた。お日様みたいな人だな、と思った。「春原くん?」と呼んだ声は涙で潤んでいて、春原くんの顔が曇ってしまった。それなのに「大丈夫?」と聞く声の優しさに砕け散りそうな涙腺をどうにか必死にとどめて用件を聞けば「うん」と掌をこちらに向けた。
    「この子を探してるんじゃないかと思って」
     大事そうに抱えていた掌の上にはまさに私が半泣きで探していたぬいぐるみだった。耳のぼろきれみたいなくたびれたリボンは紛れもなく私のぬいぐるみだろう。
    「あ、ありがとう、ありがとう春原くん……!」
     思わず駆け寄れば、春原くんは「よかった、迷子は悲しいもんね」と笑って私の手の上に乗せてくれた。泣きながらぎゅうと抱きしめる。「よくわかったね」なんて涙でぐちゃぐちゃの顔で聞けば。
    「耳のリボンを付けてるチャーミングな子の親御さんは一人しかいないからね!」
     にぱっと明るい笑顔で自信満々に言う春原くんに私は泣き笑いするしかなかった。

     ああ、みんなが春原くんを好きになる理由が痛い程わかった。わかってしまった。こんなに優しくて素敵な人を好きにならないわけがない。そしてこの優しさは分け隔てなく向けられている。たった一人のものになんてならない。だからみんな春原くんを安心して好きでいられるのだろう。

    ――数年後、Re:Valeとして画面の向こうで見るまで、私はずっとそう思っていたのだ。
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    suno_kabeuchi

    TRAININGtwst夢/イデア・シュラウド
    集中している間に髪と戯れられてるはなし
    待てができるいいこなので ゆらゆらとゆらめくサファイアブルーを見つめること数十分。幸いにしてプログラム生成に集中しているイデア先輩に気取られることもなく、私はじっくりとっくり拝ませてもらっている。
     ほう、と何度目かもわからない感嘆の息が漏れる。昼だろうが夜だろうが、常に薄暗いイデア先輩の部屋ではそのサファイアブルーが陽の下のそれよりも鮮やかに映る。彩度の高いそれは驚くほど瞼に焼き付いては目を伏せてもその名残で閉じた視界に青が散る。
     足首まである長いそれはいざ座ると殆どが背凭れと痩躯の間に隠れてしまうけれど、一筋二筋と零れ落ちるそれもある。カーペットに座っていたけれど、そろりそろりと近づいて音もなくそれに手を伸ばす。燃えているだけあって毛先こそ掴めはしないが、もう少し上の方であれば実体がある。指に絡ませてみれば鮮やかな青に照らされて私の肌が青褪めたように光を受ける。視線だけイデア先輩に向ける。足元にいる私に気づいた様子もなくブツブツと早口で何か捲し立てながらキーボードを叩いている。それに小さく笑みを零して指に絡ませたそれに唇を添える。殆ど何も感じないけれど、ほんのりと温かい気がした。
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