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    CarpeDiemAS

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    CarpeDiemAS

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    土銀(高校教師×高校生)うっっっすら転生匂わせ
    このワンシーンで満足しちゃったやつ

    土銀(高校教師×高校生)「せんせぇ、キスしようよ」

    突然頭の上から降ってきた声に、驚くだとか戸惑うだとかそういう感情を抱く以前に警戒した。
    世間の見る目厳しい公務員という立場で、厄介毎に巻き込まれるのだけは御免だ。
    勝手に憧れて勝手に惚れて勝手に外堀を埋めて、そんな思春期の暴走に振り回されて職を失った元同僚を何人か見てきた。
    だから最初は警戒した。こちらから頼んだ覚えは無いけれど、そういう目を向けてくる女生徒は多かったから。

    しかし見上げた先、二階の図書室の窓から危なげに乗り出したその姿はどう見ても学ランを着ていて、つまりはどう見ても男で、そういえばさっき聞こえた声も男のもので、そしてやっぱりありがた迷惑なことに生徒だった。

    「寝言は寝て言え」
    「えー先生モロに俺のタイプなんだけどォ」
    「言われ慣れてる」
    「イケメン腹立つぅ」

    素気無く切り捨てられても、二階の男子生徒は間延びした話し方を保ったまま愉快そうに笑っている。
    生徒からアプローチを受ける中でたまにあるパターンだが、揶揄い半分の手合いだろう。
    本気で来られるのも面倒だが、教師を玩具にしようという魂胆自体が気に入らない。
    捻じ曲がるのは毛根だけにしておきやがれ。

    「そんな場所から身を乗り出すな」
    「だーいじょうぶだよ」
    「落ちて怪我でもされたら俺らが迷惑するんだよ。教育委員会まで話上げなきゃならねぇんだぞ」
    「んん?そういうルールあんの?」
    「大人の事情っつーのがあんだよ。早く引っ込め」
    「んー、でもさぁ、先生見てよ」

    見てくれはてんで子供のくせに、話し方なんか並の高校生より馬鹿っぽいくせに、まるでジジイが縁側で酒でも煽ってるみたいな円熟した雰囲気を漂わせながら、そいつの指が窓の外を指差す。
    学校の敷地を囲うように植えられた桜の花が、先日の桜前線の予報通りに示し合わせたように一斉に蕾を綻ばせていた。
    横に大きく広がる枝の一本が、まるで腕でも差し伸ばすみたいに二階の窓に迫っていた。それに誘い出されるように、そいつは身を乗り出していたのだった。

    「こんなに綺麗なのに、近くで見ねぇのは勿体無いと思わねぇ?」
    「おい、その辺にしとけ。本当に落ちるぞ」
    「ましてその下を歩くイケメンなんて、絵になるじゃんか」
    「おい」

    うっとりと春の盛りを愛でながら危なげに空へ乗り出していた体が、ある地点を超えた辺りでふらりとバランスを崩す。
    半分以上窓枠から出てしまっていた体は重力に引かれてそのまま下へ落ちていく。
    言わんこっちゃない。

    「おい!坂田!」

    咄嗟に踏み出して落下地点に体を滑り込ませる。
    受け止めるだとか、そんなのは無理だ。せいぜいでクッション代わりになるくらいしか出来ない。
    白衣が汚れるのも度外視して腰から下を地面に擦った。
    しかし、いつまで待っても衝撃は来ない。
    当然に来ると思っていたはずのものが来ないのは不思議で、二階の窓を伺うように瞼を開く。
    眼前にあったのは白子独特の赤っぽい目で、満開の桜を背中に負いながら不思議そうにこちらを見ていた。

    「…せんせ?」
    「え、いや、お前今二階から落ちたよな」
    「あー、俺すんげぇ運動神経いいのよ。このくらい余裕」
    「いやでも頭から行ったよな」
    「猫はどういう落ち方してもちゃんと着地出来るって知ってる?」
    「そりゃ猫の話だろ」

    そうだよねぇ、と間延びした返事をして、ついでに欠伸までする天然パーマ頭を、手に持っていた教科書を丸めてぶん殴った。
    パコン!と小気味の良い音がした。

    「あいた!」
    「ヒヤヒヤさせんじゃねぇ、しかも白衣が汚れた」
    「先生結構キレっぽい…?綺麗な顔して勿体無い」
    「俺じゃなくてもキレるわ。その軽そうな頭の中身どこに落っことしてきたんだ。テメェ後で生徒指導室来い」
    「えーなんか口も悪い…イメージ違う…」

    知ったことか。
    イライラしてつい手癖で胸元の煙草を漁ろうとして、そういえばまだ勤務時間内だったと自重する。ヤニが吸えないと思うと余計に苛立ちが募った。
    俺の中の、卒業まで最大限避けるべき問題児リストに一人追加だ。名前は、

    「──ん?お前、坂田か?」

    今さっき、自分でそう呼んだ。確かに呼んだのだが、咄嗟に口をついた名前が目の前の青年のものだと何故知っているのか、自分でも記憶が曖昧だった。

    「そーですけどぉ。せんせぇすごいね、俺先生の授業受けたことないのに。みんなの名前覚えてんの」
    「…いや、まあそういう先生もいるが俺ァ別に」
    「俺教師とか絶対無理だわー、人の顔も名前もろくに覚えらんねぇもん」

    くぁ、と目尻に涙を浮かべながらもう一度大口を開ける。その呑気な横顔は、確かに若々しくて幼くはあるのだけれど、生命力だとかエネルギーだとかそういうものとは少し縁遠いような、そんな軽々しさを纏っていた。


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