葛藤兄上の言葉を疑った事はなかった。いつも私を大切にしてくれて、尊敬する相手だった。だからこその違和感に胸が痛み苦しめられる。
いくら考えても答えは出ず、兄上から言われた言葉がぐるぐると自分の中で蟠りとなって積もり続ける。
「何をしてるんですかお前」
「……何の用ですか」
「報告がされてないので、わざわざ来てあげたんですよ」
オペラ先輩の言葉は最もでもある。兄上に真意を聞いて噛みつくと決めたと言うのに、何も聞き出せず去られてしまった以上報告できることは何もなかった。
「……何も。確認したいことは何も聞けず仕舞いでしたよ」
「お前が態度で示すはずだったのでは」
「ただ敵意あっての事では無い。それだけは確認してます」
詰め寄ってきたオペラ先輩の表情は見ずとも解る。
「理由も解らないのに敵意が無いと何故解るんです」
「――んな――――が」
「何です?」
「そんなものっ私が聞きたい位ですよっ!」
抑えようと思えば思う程感情は暴れだす。
「じゃああんたはどうなんだ」
「私?」
「あんた達は何を隠してる」
言ったところで話して貰えるとは思っていない。
「イルマは何だ。あんた達は何を俺に隠してる」
「誰に何を吹き込まれたんですか。お前は」
「答える気は無いんでしょう?聞いたところで理解できるとも思えませんが」
オペラ先輩の顔色を伺う気にもなれずその場を去ろうとした腕を捕まれた。馬鹿力なんだから本気で掴むなと言いたくなる程強く。
「お前は何を信じているんです」
「解らないんですよ。今は……だから離してください」
「カルエゴくん」
ぐちゃぐちゃになるまで自分の心に自問自答を繰り返した。出ない答えにただ苦しむしか出来ない事がもどかしい。
「離して下さい。数日休みますので、あなたはそのままここに残っていて下さいよ」
「自分の職務を放棄するつもりですか」
苛立ちばかりが増す。自分の職務の事位自分が一番よく解っている。
「我々は別に――」
「黙れ。あなた方が隠していることも知らず、俺に何を守れと言うんだ」
オペラ先輩の手の力が抜けた。振り払った手は簡単に解けドアを開けた背に届いたのはどこか力の無い初めて耳にしたあの人の声。
「あっ、カルエゴくん」
「……すまない。シチロウ。もう数日休みを貰う」
「それは良いんだけど……大丈夫?」
シチロウに答える事もうまくできず悪魔学校を後にした。
一人残されていたオペラ先輩の元へ行くと、苛立った様子で眉を寄せていた。
「オペラ先輩?何があったんですか?」
「イルマ様が何かと……訊かれました」
「え?」
カルエゴくんは今までイルマくんの正体に興味も無さそうだと思っていた。確かにカルエゴくんを召喚したり、悪魔らしくない行動をする事に疑う要素は沢山ある。それでも理事長の孫だと言う事と生徒と言う事でいつもどこか大きな目で見ていた気がしていた。
だと言うのに突然イルマくんの正体を気にすると言う事は何かあったと言う証。
「なんて答えたんですか?」
「答えませんでしたよ。言える筈も無いでしょう」
「ですよね……でもどうするんですか?」
「サリバン様と相談をします」
カルエゴくんが今までイルマくんの事を知らなかった事の方が不思議だったのかもしれない。
僕もずっと隠し続けてカルエゴくんを騙していたのに変わりはない。
「僕も一緒に行って良いですか?」
「はい。お願いします」
何故かオペラ先輩が悲しんでいるように見えて、それ以上は何も言えなかった。