HOTEL AFRICA①隣近所が寝静まった深夜二時にスマートフォンの着信音が鳴った。
はじめは着信などではなく、単なるSNSからくる通知だと思っていたのだが、五秒、十秒と鳴り続けるメロディーを聴いているうちに、ふと知り合いからの緊急連絡ではないかと我に返ったのである。
まだ深夜ということもあり、およそはっきりしない頭で電話マークのアイコンを横になぞってみると、普段あまり電話口で聴くことのない声が、若干上ずったトーンで耳に入ってきた、雑賀孫市だ。
「けいじー？あんさー、ちょっと迎えにきてくんねーかなあー。」
甘ったるいその口調に一瞬で眠気が吹き飛んだ俺は、目をしばたたかせながらいつも以上にセクシーで艶を帯びた孫市の姿を想像していた、おそらく話し声から察するに相当酒を飲んでいるようだが、遊び歩いている間に終電を逃して街中を彷徨った口だろう、であれば迎えに行かない理由はないのではないか。
「おう、構わないぜ、今どこにいるんだい？」
「んー？ここどこだ？可愛い子ちゃん達の店から出て、駅に向かう途中の…飲み屋街？みたいなとこ。」
「おいおい、あんまり変な所に行かないでくれよ、男に襲われたら大変だ。」
「ははっ、俺を襲う男なんてあんたくらいだろ…大丈夫大丈夫、とりあえず待ってっからー。」
と一方的に電話を切られたものの、その後身支度を整えて孫市の訪れそうな場所へ車を走らせて数分もかからぬうちにベンチに座っている彼を探し出すことに成功した。
一度車のエンジンを切ってハザードをつけた状態で孫市に近づいてみたのだが、向こうもすぐに気付いたのか、重い腰をゆっくりと持ち上げては浮足立った様子で小走りに近寄ってきたのである、このハイテンションな様子はシラフであれば絶対に見られない光景だ。
「けいじー、会いたかったぜー。」
おまけに酔っぱらった孫市は両手を広げて俺に抱きつき、何を思ったのか、つま先立ちになって人目を憚らずにキスをしてきた。
これには俺も目を丸くして驚いたが、同じように周囲の通行人を無視してキスをし返すと、唇を重ねるだけの口づけが徐々にヒートアップして舌を絡め合う濃厚な接吻に変わっていく。
「ん、うっ。」
はて、外で交わすディープキスとはこんなにも刺激的なものだっただろうか。
下手すれば後ろへ転倒してしまいそうな孫市の腰をきつく抱きながら歯列を割って侵入する舌を舐め取ってこれでもかというほど唾液を絡ませていく、そこからたまにずずっと吸い付いて、ずぶずぶという怪しい水音を奏でながら孫市の舌の形を確かめるように何度もざらつきをなぞっていくのだ。
「けい、じ…。」
「シたくなったのかい？」
こくん、と頷く孫市の瞳はすでにとろみかかっており、深夜の怪しい雰囲気も相まってどこか艶っぽい雰囲気を醸し出していた、やはりこちらの想像通りの展開である。
「抱っこして。」
「ん？」
「あんたとキスしてると足疲れるんだよ、ほら。」
言ってまたしても両手を広げる孫市だが、なるほど、俺からキスをせがむ場合は単に前かがみになれば済むが、孫市から仕掛ける際はこちらの背丈に合わせて背伸びをするため、キス中はそれを維持するのが大変なのだ、まるで昔流行った恋愛ドラマのようではないか。
「そりゃ気が付かなくて悪かった。」


つづく