HOTEL AFRICA②ひとまず言われた通りに孫市の脇に手を入れてひょいと抱き上げてみるものの、今度はあからさまに嫌な顔をされてすぐに抱き上げるのを止めてしまう。
訊き返してみると「そうじゃない」とだけ言われて一方的に首を横に振られた訳だが、どの持ち上げ方が正しいのか分からなくてああでもない、こうでもないと押し問答が続いていた、いや、正直な所このやりとりに正解などなく、単に孫市の気分に振り回されているだけだといっていい。
「俺はあんたとくっつきたいだけなんだよ！」
挙句の果てにそう言われて結局肩を抱いて車まで歩いた訳だが、やっとの思いで助手席に乗せた途端、今度は数分も経たぬうちに居眠りを始めて背もたれやヘッドレストにぐったりと身体を預けている、これではラブホテルに車を突っ込んでも仮眠を取るだけになってしまいそうだ。
「孫市、このまま家に帰るかい？」
「――あ？何言ってんだよ、お前さっきヤるって言ってただろー、ホテルいこうぜホテルー。」
と、露骨にホテルと連呼されることもまた通常ではあり得ない展開であるため、ここは言葉に甘えて孫市の希望通りに近場のラブホテルへ車を走らせることにした。
既に深夜二時を回っていることから、周囲には通行人の姿はあっても車通りはまばらであり、同じようにラブホテルの駐車場も空いているものと思っていたが、金曜の夜ということもあってどこも満車状態であり、奥まで車を回しても結局切り返して公道へ戻るということを二、三回繰り返した。
仮にシラフの孫市であれば俺の車でホテルに入場した時点でわなわなと震えだすところだが、今夜はよほど酒が入っているのか、満車のホテルを行き来しても恥ずかしがるどころかかえって興奮が増しているように見える、確かにこれほどのカップル達が一斉に情事に及んでいると思えば言い知れぬ興奮が沸き上がってきて当然だ、と、どうやら空きのあるラブホテルが見つかったようである。
アフリカのサバンナをイメージした看板が目印の、どこか地味な印象を受けるホテルではあったが、その地味さがゆえに駐車場の空きがちらほらと目立ち、深夜二時を回った混雑時にも関わらずすんなりと入場することができた、ここまで来ると最早ホテルの内装などどうでも良くなっていて、酔っぱらった孫市の手を引いて空室になっている部屋のパネルを押すと、そのままエレベーターに乗り込んでそそくさと目的の部屋の前までやってきてしまった。
時刻はそろそろ深夜三時に差し掛かろうとしている。「けいじー、ベッドまで連れてって。」
「仕方ないねえ。」
と、またしても甘えモードに突入した孫市が両手を広げて抱っこのポーズを取っているようだが、今度は先ほどと同じように抱き上げても嫌な顔を見せず、くすくすと笑って俺の胸に飛び込んできた。
その愛らしい恋人に再度接吻をしてぼすん、と大袈裟に跳ね返るベッドへ放り投げると、そこからはもう好き放題に舐め回すだけになってしまう。
「んう、くすぐったい…。」

つづく