お前の欠点まで 休日の朝。
あいにくの雨で出掛ける気になれず家のことをある程度済ませたものの、今日一日どう過ごそうかと考えながらソファでコーヒーを啜る。じっとしていられない子供ではないが、休みの日に朝からずっと家にいるというのはなんだか落ち着かない。雨が止むタイミングを見計らって外へ出ようとスマホで天気をチェックしていると、遠くからぺたぺたと響く足音と水の音が耳に入ってきて顔を上げる。
「おはよ〜ししばぁ」
顔を洗ってもまだ目が覚めきっていないのか、ほぼ目が閉じたままの南雲がリビングに現れた。
「おはよう」
それでよう歩けるな、なんて思いながらキッチンで水を飲んでいる後ろ姿を眺める。
「南雲」
「ん?なぁに?」
自分の座るソファの足元を指差すと、南雲は首を傾げながらも素直にこちらへ来て膝に腕を乗せ凭れ掛かってきた。
「どうしたの?」
「お前、見事な寝癖やけど鏡見とらんのか」
くるんと跳ねて立ち上がっている髪を指先で弄る。少し撫で付けただけでは直らないその寝癖は本人に似て頑固らしい。
(欠点まで愛しいと思える奴に出会っちまったら男は負けよ)
当時は何も理解出来なかったあの言葉が、今になってようやく解けて自分の中に溶けていくのを感じた。
──欠点。欠点かぁ…いちいち腹立つし頑固やし寝汚いし、欠点ばっかやねんこいつ。
「神々廻、なにかいいことあった?」
ぼんやりと考えていたら、南雲が大きな瞳でじっとこちらを見上げていた。
「…なんも。アホみたいな寝癖やな〜と思っただけや」
何故いいことだと思ったのかは触れないでおこう。
「さっさと頭直してこい」
膝に纏わりついて離れない妖怪と化した南雲の頭を軽く小突き、空になっていたマグをテーブルから回収して立ち上がる。ぺたぺたと遠くなっていく足音を聞きながら、俺はもう一つのマグを戸棚から取り出した。