おめざめ離島+ 今日のらおふ〜(微风虚)「おにく! 塩!」
肉焼き職人の朝は早い。妖精界の串焼き師範ことテンフーは、その日の気温や湿度によって、絶妙に火加減塩加減を調整している。魅惑のもふもふ虎柄が煙で汚れるのも厭わず、一心不乱に肉と向き合う。ちなみに何の肉かはとっぷしーくれっとである。
気迫迫るテンフーの姿をみて、補助役のフーシーは所謂後方彼氏面スタイルでうんうんと誇らしげに頷く。その目尻に微かに涙さえ滲んでいる気がして、アクウはとりあえず黙っていた。どんなリアクションが正解かよく分からないし。
「二人共、店をやる事を提案してくれて有難う。あんなに生き生きとしたテンフーをみる事が出来て、俺も嬉しい」
「いやいや、アンタ趣旨変わってねーっすか。別にコレやりがいの為とかじゃないから。金っすよ金。資金調達が目的でしょ」
人間の紙幣を集める為に、人間に向けて宅配専門の串焼き屋を開く事を提案したのは確かにアクウだったが、まさかこんなに本格的にやるとは思わなかった。テンフーのおかげで評判は上々、今では注文が追いつかない程だ。適当にぼったくるつもりだったのに。
「フーシーさん、サイトに使うんで写真撮らせてください」
そう言いながらスマホのカメラを向けると、フーシーははっと姿勢を直して何故かその場に直立不動になった。
「いや棒立ち無表情って、証明写真かよ。まあいいや、これくらい素人感ある方がうけるかも」
「素人感……?」
アクウの言葉に、フーシーは首を傾げる。この妖精、霊力も高くて統率力もあるのに、案外真面目っていうか天然混じってて面白い。そんなフーシーをみていると、つい揶揄ってしまいたくなるのは、自分の悪癖だと自覚しているので、コレも黙っておく。試しに一枚撮してみるけれど、勿論SNSに載せるつもりは無い。
SNSを起動させ、店のアカウントを開く。名物は頑固な料理人(写真NG)が作る串焼き。それにイエツ特製の黄金炒飯もなかなか人気だ。
業務用ガスコンロで黙々と炒飯を炒めるイエツは、ジャケットどころか何故か一張羅のタンクトップまで脱いで、半裸でムンムンとしている。尖った耳や顔を載せるのはまずいので、とりあえず中華鍋の中で黄金色に輝く米や、汗の滴るよく育った胸筋なんかを動画で撮ってリアルタイムで載せてみる。イエツみたいな筋肉をした自撮りアイコンから続々と反応がある。
「すっげ〜腹筋バキバキ〜。なあなあ、触って良い?」
「良い血管」
「こ、困ります二人とも……」
ロジュとテンフーが興味津々で炒飯(を炒めるイエツの肉体)を覗きこむと、困惑する様にイエツの胸筋がピクピクと反応する。さらにはしゃぐ二人に、イエツは助けてくれと言いたげな目線をこちらに向けてきたが、面白いので放置する。みかねたフーシーがため息をついた。
「こら、やめろ二人とも。イエツが困ってるだろう」
「はーい」
「保護者かよ……」
これから館、ヘタしたら人間相手に戦うかもしれないというのに、なんて毒気のない妖精たちだろう。面白いけど。
「シューファイ、肉が焼けたよ」
肉汁が滴る串焼きを持って、フーシーが食糧庫の方へと向かう。生肉や野菜の間で(退屈そうに)鎮座する氷の妖精の前に片膝をつき、空いた酒器に酒を注ぐ。シューファイは表情一つ変えずに、黙ったまま串焼きを受け取る。リーダーである筈のフーシーの恭しい態度に、アクウは違和感を覚える。
「……つーか、あの二人ってなんなの?」
「え? あー、シューファイは俺たちにとって兄さんみたいなものだから」
「ふ〜ん……」
ロジュはけろりとそう答えたが、いまいち腑に落ちない。
黙々と肉を食う氷の妖精を、なんとも言えない優しい表情で見つめるフーシーの横顔をみて、フーシーを揶揄うのは面白いけど、あの二人を弄るのは面倒くさそうだからまだやめておこう、ととりあえずアクウは思った。