分からせチャレンジ(风虚♀ss) どうしてこんな事になったのか。疑問を呈しながらも、その過程を説明する事は(億劫なので)省略する。
巨木の樹洞を基にさらに風息が手を加えて造られたこの場所は、真昼でも薄暗く、一度入ってしまえば外の世界とは完全に遮断されてしまう。その中で虚准は、四肢を拘束された状態にあった。頭上で手首を縛る触手植物は、捕らえた獲物を歓喜する様に、粘液で濡れたその身をうごうごとくねらす。
虚准の前には、彼女にとって弟分で、最愛とも呼べる妖精が立っていた。細い逆光を背に立つ風息は、普段の穏やかな様子とは打って変わって、しんと冷たい表情で虚准を見下ろしていた。重たい前髪に隠れた紫色の瞳が、何かを決意する様にぎゅっと細くなる。低い声が洞内に響く。
「……虚准には分からせる必要がある」
「お前、木だけじゃなくてこんなシロモノまで出せたのか」
「え? ……あ、ああ。やってみたら案外出せたな」
緊張を欠いた虚准の発言に、やや出鼻をくじかれた風息だったが、咳払いをする事でなんとかその場を持ち直した。
「……虚准、俺は強くなった」
「そうだな」
「いつか、あの男よりも強くなる。身長だってすぐに追い越す」
「それはどうだろうな」
何やら盛大に誤解されているらしい、旧友の無表情な顔が脳裏によぎる。神獣よりも強くなるのには、なかなか先が長いだろう。虚准の率直な反応に、風息はムッと表情を険しくする。
「なってみせるさ! ……それに俺の方がアイツより、ずっとずっと虚准が好きだし、幸せに出来る! それを今から分からせる」
「うーん……」
真剣な風息の様子に、申し訳ないが虚准は愉快な気がしてきた。あんなにちっちゃかった毛玉が、随分と言うようになったじゃないか。
確かに風息は強い。いつかはこの森を統べる長になるだろう。しかし一方で、風息には足りないものがあると虚准は常々感じていた。実直すぎる彼は、正当方以外の、例えば相手を屈服させたり、徹底的に痛めつける様なやり方が苦手だ。これから先、強奪の能力を使わないというハンデを、別の何かで補っていく必要がある。戦いの手札は多い方が良い。これはその訓練になるだろう。
「いい、やってみせろ」
虚准の言葉を合図に、触手がゆっくりと動き出す。人肌を連想させる生温かく柔らかなそれが、服の間から素肌をなぞり粘液を擦りこむ様に全身を往復する。按摩よりまだ優しい動きに、随分ぬるいやり方をするものだ、と呆れていたら突然ピリリとした刺激が体を駆け巡った。
何かがおかしい。粘液で濡れた箇所をなぞられると、弱い電流に似た感覚が走る。
「ん……」
「どうだ、辛いだろう。この粘液には感度3000倍……否、特別な成分を調合した薬を混ぜてある」
そういえば以前、森の外にひとりで出掛けて帰ってきたかと思えば、その後丸一日岩場に隠れて姿を見せなかった日があった事を思い出す。生真面目な風息の事だ。感覚が鈍い自分とは違って、さぞ辛かっただろう。
体がじんじんと熱を持つ。手足を制限されて、体をくねらす事しか出来ないのがもどかしい。熱に似た衝動を逃がす為に、吐息を漏らす。風息が息を飲む。
「虚准、いい眺めだな」
「ふ、フーシー……」
堪える様に、虚准は目の前の触手に噛みつく。扇情的な仕草に風息が目を奪われていると。虚准はカッと口から強い冷気を放出させて、瞬時に噛んだ触手が凍りつく。氷で固まった部分がぽきりと折れて、ゴロンと大きな音をたてて地面に落下する。
「油断するな。そういう台詞を吐くのは、私の戦意を完全に削いでからにしろ」
「……よく分かったよ」
次の瞬間、肢体を這っていた触手が体を離れたかと思えば、そのまま服の中で大きく左右に広がり、服が勢いよく破れる。濡れた素肌が外気に晒され、激しい動きにあわせて両胸があられもなく揺れる。主張する様に色づいて腫れたその先端に、虚准は内心驚く。
そのままさらに体が高く宙に浮き、触手たちは風息に虚准を捧げる様に、彼の前で大きく虚准の足を広げる。
「ここからは、少し酷くするよ」
内腿を触手になぞられて、体が震える。自分の体がどうなっているか、把握出来ない事がもどかしい。己を律せない自分を、風息にみられたくない。初めて虚准は焦燥を覚えた。茹で蛸みたいな顔をして、自分よりもさらにいっぱいいっぱいな様子の風息に、たまらず懇願する。
「風息、もう……」
虚准が声をかけると、驚いたのか風息の体が大きく跳ねる。慌てた様子で顔をあげて、熱っぽい虚准の表情に息を飲む。
「し、虚准っ。どうした、どこか痛むのか?」
「もう…よく分かった、分かったからっ……離してくれ。これ以上は……怖い…」
言い終わるよりも先に、熱い体が突進する様に強く強く虚准を抱きしめていた。ごめん虚准。俺は……、と叫ぶ声が徐々に悲鳴に変わり、体を拘束していた触手がゼリーみたいに柔らかくなったかと思えば、力を失ってぷつりぷつり千切れていく。ちなみに虚准は飛行する事が出来る妖精である為、こうして突然宙に投げ出されたとしても、風息を抱えたまま難なく着地をする事が可能である。
無事着陸しても、みた事がない想い人の痴態に完全にキャパオーバー、それに感度3000倍の粘液をまともに食らった黒豹は、ぷるぷると震えるだけで動く事が出来ない様子だった。
「……惜しかったな風息」
勝った。不本意ながら。
先程までの羞恥を誤魔化す為、虚准はとりあえず咳払いする事にした。当然オチはない。