「おはようございます。本日はよろしくお願いします」
「おはよう!よろしくな!」
便利屋の仕事を1日手伝うことになったライカは、トウヤが住んでいるという便利屋の事務所まで来ていた。
「悪いな、わざわざこっちまで来てもらって……朝早かっただろ?」
「大丈夫です」
「そうか、なら良かった!よし、じゃあ中に入ってくれ、今日の依頼を確認しよう」
「はい、失礼します」
コンクリートの壁、空気がひんやりとしていて部屋というよりは自動車を入れるガレージのような雰囲気だ。
中に入ってすぐ、(一升瓶ケースがいくつか並んでいる上にマットレスがひいてある)おそらく寝床が目に入った。
マットレスは薄く、とても寝やすいとは思えない。
「……ここで寝てるんですか?」
「ん?あぁ、はは……寝にくそうだろ?最初は固くて寝にくかったけど……もう慣れたよ」
「そうですか」
「ここで寝てたからかはわからないけど、俺夜行バスでも熟睡できるんだよ、どんな環境でも寝れるのは良いことだよな!」
「………そうですね」
自分は寝れそうにないな……と考えていると、
パチャッと下のほうから水音が聴こえた。
音がしたほうに目を向けると水槽が床に置いてあり、その中にカメがいる。
普段の生活で見ることがないのでゆっくりと動く緑色の生き物をじっと見てしまう。
「メロンパンって言うんだ、けっこうかわいいだろ?」
「………」
かわいい……かわいい?
カメに対してかわいいかどうか問われたことがなかったので、考えてしまう。
目はくりっとしていて、まるいフォルム、ゆっくりな動き……確かにかわいいといえるような……
「かわいい、ですね」
「!そうだろ?見てると癒されるんだよな」
パッとトウヤが嬉しそうに笑う。
学校以外の場所でそんな風に笑顔を向けられることがあまりないので少し動揺してしまう。
喜ばせようとして「かわいい」と言ったわけじゃないので余計に。
トウヤから今日の依頼内容を聞き、そろそろ出るかというところで、トウヤがうぅんと何か考え始めた。
「どうしたんですか?」
「いや、制服じゃないほうがいいかと思って……汚れるかもしれないしな……」
ライカは制服で来ていた。
職業体験のようなイメージだったため、制服で来たのだが、
先ほど聞いた依頼内容の中には肉体労働もあるようだったし、確かに制服でないほうがいいかもしれない。
「ジャージ……があるけどズボンだけか……上に着れるようなやつはちょうど洗濯しちゃったんだよな」
ごそごそと部屋をあさりながらトウヤがつぶやいてる。
「……あ!ダンジが置いてったやつがある、ちょっと大きいかもしれないけど……」
ダンジ……?っと反応してしまう。
トウヤやユウユ、ブラックアウトのメンバーからよく聞く名前。
そして、ミチルさんが"ダンジ"という名前をツイートしたことがあるので、ミチルさんとも知り合い……というより親しい間柄であるような印象をうけた。
渡されたTシャツは確かに大きそうだが、着れないほどではない。
TシャツはTシャツ、ダンジの、というは少し気になるが制服を汚すのは避けたいし遠慮せず借りることにした。
そして便利屋の手伝いが始まったのである。
◆◆◆
「お疲れ!これで今日の依頼は全部終わりだな!」
「…………………はい」
「居てくれて助かったよ、ありがとな」
「そう、でしょうか……」
初めての体験ばかりで戸惑うことも多く、トウヤを手伝うどころか自分のフォローをしてもらうことのほうが多かった気がする。
「よし、じゃあやるか……!」
「っ!……まだ何か仕事が……?」
慣れない労働を行ったことでかなり疲弊している。
もう解散かと思っていたのでトウヤの言葉にどきりとした。
「違うよ、やるだろ?ヴァンガード」
「!」
夕日を浴びながらトウヤがニッと笑う。
……不思議だ、つい数秒前まで疲れきってはやく帰りたいと思っていたのに。
「よろしく、お願いします」