「みゆきくん、こんにちは。」
声をかけられたのは休日の習慣にしているランニング中、水分をとろうと足を止めた時だった。
隣にあるベンチに腰かけた自称宇宙怪盗は棒つきキャンディをどこからともなく取り出すと口にくわえる。
「ランニング?お疲れ様。はい、どーぞ」
斜め下から差し出される棒つきキャンディ。
また何もないところから出したように見えた。
「怪盗なんてやめて、マジシャンにでもなったら?」
「マジシャン?それもおもしろそうかも。でもマジシャンじゃ帰れない。オレは故郷に帰りたいから」
宇宙人だから宇宙にある故郷に帰りたい、それは以前きいたことがある。
それと"怪盗"に何の関係があるのか。
「1人は寂しいよ……それともみゆきくんがオレの友達になってくれる?」
「友達って……俺は怪盗を捕まえたいおまわりさんなの、わかってる?」
「う~~んざんねん……あ、でもねもしかしたらもうすぐ故郷に帰れるかもしれないんだ」
「?」
耳かして、と片手を口元にそえてもう片方で手招きするのでかがんで顔を寄せる。1つに束ねた髪が肩から流れた。
「ロケット」
「ロケット?」
「うん。手に入るかもしれないんだぁロケットがあれば宇宙に行けるね」
いつも機嫌が良さそうな男だがいつにもまして顔を緩めて鼻歌でも歌いだしそうな雰囲気。
「ロケットって……盗むってこと?でもロケットなんて……」
「ふふ、内緒~」
それ以上は話す気がないらしく、ロケットとは関係のない世間話をし始める。
適当に相づちをうちながら手に握ったままだったキャンディの封を切る。
ロケットねぇ…
次に会う時は孤独なただの宇宙人か、それとも巷を騒がせている怪盗か。
いつかぜったいに逮捕してやる。
キャンディをくわえるとじんわりとした甘さが口の中に広がった。