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    mumi888mmm

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    ※何も修正出来ていない書きかけ状態のししさめ

    告白するつもりがなかったけど見抜かれて白状した獅子神さんの話(ししさめ) 無謀な、叶うはずのない恋だと分かっていた。
     打ち明けることさえもそもそも許されず、だから世間の恋人同士のように籍を入れたり、互いに同じデザインの指輪を身につけたりすることなど夢のまた夢だ。獅子神はこの思いを一生打ち明けずに過ごすつもりだった。告白することで村雨という男を失うなど考えたくもなく、自分がこの感情を飲み込むことで親しい友人という貴重なポジションにいられると思えば、いくらでも恋情を押し殺して他愛のない会話を重ね続けることが出来る。獅子神はそう考えていたが、甘かった。獅子神が好きになったのは村雨だ。村雨礼二、趣味は手術で人の心を容易に読み取る、そんな普通とは言い難い男。そう、相手が村雨でなければ獅子神は抱いている思いを隠し通すことが出来た。ただただ相手が悪かった。獅子神に落ち度は一つもない。
     村雨の目を欺くなど、大抵の人は出来ないことである。
     
    「獅子神。私があなたの好意に気付いていないと思っていたのか?」
     だから村雨がそう切り出した時、獅子神はどこかで安堵していた。
     獅子神が振る舞った昼食を普段と変わらず綺麗に平らげ、変わらず静かな声で向けられたと問い。けれど少しだけいつもと違ったのは、そこに確かめるような色が混ざっていたことだ。
     叶うはずがない、許されない、だから隠し通さなければ。
     そう自分に言い聞かせて言葉にせずにいることが苦しくないと言っては嘘になる。常に神経を尖らせた状態だったのだから。安堵と動揺と緊張、そして遅れて訪れたのは大きな恐怖。様々な感情が混ざり合った獅子神は何も言えず、眼鏡の奥の真っ直ぐに見据えてくる瞳から目を逸らし、最適な言葉を探るように息を大きく吐き出して、そして向き直って口を開いた。
    「……好きにならねえなんて無理だった。でも絶対に言わねえって決めてたんだよ」
     僅かに眉を下げて認めた獅子神に、村雨は何も言わない。もう誤魔化しきることなど不可能だという諦めと、やっと楽になれるという思いが獅子神の顔に浮かぶ。しかしやはり何より怖かったのは、村雨との間に距離が出来ることだ。
     もう隠さなくてもいいと安心することは、同時に今の関係が壊れることを意味する。
     獅子神にとって、村雨はかけがえのない友人だった。初対面で突っかかった時にも無視をしたりなどせず、会って間もない獅子神が正しく意図を汲むと見抜いて託し、勝利を収めた後には食事を共にした。食べ方について品の有無を問うたり、行儀良く座ってハンバーガーを両手で持って少しずつ食べていたかと思えば、デザートまで追加して腹の中に収めていた。獅子神から見れば自分よりも薄っぺらい体のどこに入っていっているのか、と首を傾げたくなったのは一度や二度ではない。どう見ても真面目な男、という風貌でありながら実のところ茶目っ気もある村雨に、獅子神が好意を持たないはずがなかった。憧れや尊敬といった感情が、熱をはらんだ恋にならないはずがなかった。
     そう、獅子神自身が口にした通り、好きにならずにいるなど土台無理なことだった。真経津を通じて知り合ったが、二人きりでも会うようになるまでそう時間はかからなかった。話す時の距離感を測りかねている獅子神の懐に、村雨はするりと入り込んできた。こんなに癖が強い性格で医者として上手くやっているのだろうか、というのは杞憂であったと理解し、他の者にももしかしてこういう振る舞いなのだろうかと少々寂しく感じたことはよく覚えている。何故なら、そう感じた時に、自分が村雨礼二に恋愛感情を抱いているとはっきりと自覚したのだから。そうして互いに軽口を叩き、獅子神の手料理を食し、時には泊まっていくようにもなった。もう獅子神の生活に村雨はすっかり馴染んでいた。馴染むほどに、得たものの存在が大切になればなるほど失う恐怖がつきまとう。それはかつて対戦した内の一人が口にしていたことと似ていた。今の獅子神には痛いほど理解出来る。
    「何をこの世の終わりのような顔をしている?」
     村雨が問う。
     村雨の荒いやり方で命を落としそうになったこともあった。けれども、今獅子神の頭に浮かぶのは良い思い出ばかりだ。一緒に料理をしてゲームに興じては、それぞれベッドとソファに寝転びながら睡魔に負けるまでとりとめのない話をする。村雨や真経津、叶との時間は友達と遊ぶという経験が少なかった獅子神の学生時代をなぞっているようで、そして村雨との二人だけの時間は、そんな無邪気な楽しさとは僅かに違う恋心を含んでいた。大人の恋愛だと言い切るには幼く、子供のような無邪気な恋愛というにはままならないことが多すぎたけれど。
    「隠し通すべきことを本人に知られて、大事なヤツがそばからいなくなるって考えりゃこんな顔にもなるだろ」
    「なるほど。あなたがそこまで鈍いというのは想定外だった」
    「何だよそれ、オレは真剣に」
     最早正当なのか場違いなのか判断が出来ぬまま、ただ感情をかき乱されているのが己ばかりであるその現状、それはすべて己のミスが招いたことである事実。つまり自分自身への怒りだと気付けずに村雨へぶつけてしまいそうになっていたが、獅子神は黙り込んだ。村雨の声は、動揺する獅子神に向けるには随分柔らかい。
     つまり、村雨は恐らく自分の想像とは違うことを言おうとしている。獅子神がそう気付いて口を噤んだ。
    「私はあなたをずっと見ていたからこそ、私に向けられるその感情に気付いた。ならば私は何故あなたを見ていたのか。……考えろ、獅子神」
     射抜くような赤色は、それでもどこか鋭さが影を潜めている。獅子神と似た感情を宿した色にも見えた。
     たった何秒かの沈黙が、数十分にも感じられた。
    「……オレと同じだからか。なあ、オレは期待していいのか、村雨」
     声が震えなかったことを褒めてほしい、と獅子神は思った。存外表情が豊かな村雨は薄い唇の両端を緩やかに上げた。獅子神は表面をなぞるだけではひどく冷めて見えるこの男の人間味のあるところを見るのが好きで、ゆえに時折見せられるこの穏やかな笑みにも惹かれたのだ。
    「それ以外の理由があると思うのか、マヌケ」
     肯定を示すには辛辣な言葉で、しかし突き放す調子など一つもないあたたかい声だった。
     村雨に伸ばそうとして動かした手を、獅子神はすぐにおろした。じゃあ両思いってことになるのか、と無邪気に喜ぶには年齢を重ねすぎてしまった。
    「……けど、オレはお前に何もしてやれねえ」
     互いに恋愛感情を向けていたと分かっても、手放しで喜ぶことは出来ない。ひどく言い辛そうに獅子神は目を伏せる。
    「たとえば?」
    「恋人だって人に紹介することも出来ねえし、結婚も出来ねえから同じ指輪だって着けられねえだろ」
     言葉にしていくにつれて、その現実が重くのしかかる。将来を期待されているであろう村雨の隣にいるべきは、村雨を支えられる家庭的な女性だろう。体のことを考えて料理を振る舞い、しっかりと睡眠を取るように促し、休みの日はゆっくり過ごせるように様々な手伝いや準備をしてやる。そんなことが出来る女性が相応しい。そこまで考えて獅子神は、いやこれ全部オレが普段してることじゃねえのか、とどこか冷静に思ったが口には出さなかった。
     獅子神が口を閉じたことを確認し、村雨が話し始める。
    「瑣末なことだな。我々はわざわざ場を設けて紹介するほど多くの人間との交流は無く、結婚は出来なくとも似た制度を利用すれば良いだろう。指輪は気になるなら違うデザインのものを買えばいい。ただまあ、私は医者だ。残念ながら仕事のある日は指にはつけられず、別の形で身につけることになるが……同じものにすれば、あなたに近付く人間への牽制になりむしろ良いかもしれないな」
    「牽制、って……お前でもそういうこと思うのかよ」
     果たして冗談か本気か。
     別の形といえば、まず思いついたのはネックレスだ。村雨の首元に、見慣れぬ銀色がかかるさまを想像する。それを見て、村雨を見ていた人はきっと思い描くだろう。気難しく見えるこの人がネックレスを着けるなど、恋人が出来たに違いない。隣に並ぶのはきっと可愛らしい女性だろう、と。間違っても金髪の大柄な男だとは思うまい。そんな状況ではないというのに獅子神はおかしくなり、つい息を吐き出すように笑った。村雨もつられたように笑む。
    「あなたは見た目が良いからな。そして私も合コンを組むから来い、と言われずに済んで一石二鳥だ」
    「村雨が合コン……」
    「医者という立場に寄ってくる人間は多い」
    「いや、オレが驚いてんのはそこじゃねえ。あの村雨礼二の口から合コンって単語が出たことに対してだよ」
    「男女が集まって中身のないくだらん会話で腹の探り合いをする集まり、とでも言えば良かったか?」
     過去にそんな場に駆り出された時の経験が余程嫌だったのか、村雨は眉を寄せる。
    「モテる立場でソレ言ったら袋叩きにされるぞ」
    「言わん。ああいう集まりが好きなら勝手にすればいい。ただ私は巻き込まれたくない、それだけだ」
    「マイペースだな……」
    「あなたも似たようなものだろう」
    「まあ否定はしねえ」
    「さて、話を元に戻すぞ。あなたが私に『してやれないこと』というのはそれだけか?」
     す、と空気が変わる。
    「それだけ、なのか」
    「ああ。他にも、あなたは恐らく私が女性と結婚すべきだなど色々考えていると思うが、私は家族から独身を貫くと思われている。そして世間はそこまで他人に関心を持っていない。持っているとすれば」
     思考をしっかりと読んでおいて尚関係の変化や世間の目を恐れぬ村雨に、獅子神が惑う。
     そこまで分かっていて、何故。いや、何故もなにも、村雨も獅子神が好きだからだ。獅子神は自分ばかりが追っていると思っているようだが、それは誤解がある。村雨が獅子神に向ける思いは、獅子神が思っているよりも大きい。
     村雨はああ言ったが、恋人という枠に落ち着いて暮らしていくのは決して容易なことではない。それを重々承知の上で、村雨は手を差し出している。獅子神敬一という一人の男と生きていこうとしている。いつどうなるか分からぬ身の、男と。
    「……村雨」
    「あの騒々しい三人だ」
     堪らずに名を呼ぶ獅子神に頷いた村雨が、表情をいくらか柔らかいものに変えた。騒々しい三人というのが真経津と叶、天堂のことを指しているのは明白だ。
    「あー……」
    「あの三人を静かにさせるのは骨が折れるぞ」
    「だろうな」
    「何か言われそうになった時は辛いものを口に突っ込んで黙らせるしかない」
    「オメーは発想が物騒なんだよ」
     まず、辛いものを食べさせたところであの三人は黙るまい。
    「冗談だ。しかし考えてみろ、獅子神。要するにあなたは世間で言う『普通』や『正しさ』に囚われているのだろう」
    「まあ、そうだけど」
    「そもそも命がけのギャンブルに参加して怪我を負い、自分の勝利によって相手を死に追い込む可能性があると知っていながらも尚そこから去ろうとしない我々は普通で正しいのか?」
    「……それは」
    「そんな顔をするな。基準や判断など人による。どうするか選ぶのは我々だ。そして私との関係を変化させるかどうかは、あなたが選ぶことだ」
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