デケェ男とちぃせぇ女の子守歌と赤い顔の話。そんな話。
——子守歌。
子守歌が聴こえる。
歌詞はぼんやりと。けど、ごく一般的で誰もが耳にするような、よくある子守歌だ。
……ふふ。たまに歌じゃなく適当な鼻歌になるの、なんだか少し可愛い。
ああ、この歌の主に会ってみたい。会って、顔を見て、それから——。
「——おはよう」
「……んぁ…………」
無機質な天井と微笑みかけて来る泣き黒子のイケメン君。
ぼやけた思考を瞬き数度で覚醒させる。その間に、頭の下の固い枕がロージャの太ももであったことも思い出して眼鏡も拾った。
「悪い、足疲れたでしょ」
「このくらい平気。可愛い寝顔の代金だと思えばもっと貸せるよ」
「はは……」
こんな年増女捕まえて何言ってんだか。
しかしこいつは私に対して深い愛を向けて来る男だ。推測しなくても本気で言っている。
寝ている間に固まった首回りの筋などを適度に解しつつ、ふと、夢のような音色を思い出した。
「そういや、私が寝てる時に子守歌でも歌ってた?」
「えっ」
「ぼんやりとだけど夢の中で聴こえたんだ。胸に染みこむように優しくて……包むような暖かい歌声で……」
もっと聴いていたくなるような、不思議な歌声。そう付け加えてロージャの方を見ると、珍しく白い頬を赤くして、それを誤魔化すように手で口元を覆う彼の姿が。
「ロージャ?」
「何でもないよ、うん、何でもない」
「……」
「ホントだってば」
これも珍しく落ち着かない様子。
なんだ、人のこと散々演技下手って言ってるけど、ロージャも誤魔化すのが下手の下手。
顔隠したところで肌が白いんだから、耳も首筋も私に真実を教えてくれる。
「……笑わないでよ」
「ん? 笑ってないけど」
「嘘、絶対笑ってる」
「そう? ……ふふ、確かに」
いつも翻弄してくるばかりの彼が焦っているのが楽しくて、いつの間にか、無意識に笑っていたようだ。
たかが歌を聴かれただけで随分と恥ずかしがるもんだ。とりあえず、彼のためにも誤魔化しの鼻歌が可愛かったことは黙っておくことにした。
子守歌が聴こえる。
誰もが一度は耳にするような、よくある子守歌。
穏やかで、優しくて、暖かい歌声の子守歌。
ああ、この歌の主に会ってみたい。
会って、顔を見て、それから——。
勇気を出して、キスの一つでもあげようか。