Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    紫蘭(シラン)

    @shiran_wx48

    短編の格納スペースです。

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 95

    紫蘭(シラン)

    ☆quiet follow

    グルアオです。
    昨日のgr氏のトレンドトピックで出てた交際報道から、思いつきました。
    最近、性格悪いor執着心の塊みたいな激重感情ブームが、自分の中にきてます。
    べったべたの内容ですが、自分でも書きたかったので書きました!

    最果ての地で捕まえて 前編/グルアオスマホロトムを持つ手が震えた。
    信じられないし、信じたくもなかった。
    画面に表示されたネット記事のタイトルには、【絶対零度トリック 氷を溶かすほどの愛! 結婚間近か!?】と書かれていて、遠目の写真に写るグルーシャさんは誰かに対して 柔らかな笑顔を浮かべているようにも見えた。
    こんな表情、私は見たことがない。


    ずっと好きだった。
    最初は少し年上の男性に対する憧れだったと思う。
    それでも、時折見せてくれる彼の優しさが嬉しくて、突然訪ねてバトルをしてほしいという私のわがままにもなんだかんだで付き合ってくれて、会う度にいろんな感情が渦巻き いつの日か小さな恋心に変化していった。

    すぐにでも好きだと伝えたかったけれど、八歳という歳の差を前にすると あと一歩前に踏み出すことができなかった。
    どんなことでも、当たって砕けろ精神で挑んできた私であっても。

    子供と大人。もう少し私が大きくならないと、きっと彼は本気にしてくれない。
    だってグルーシャさんは真面目な人だから。
    バトルを終えては 相手の甘い部分や戦略を指摘してくれて、それらをどうすれば改善できそうか 具体的な部分は自分で考えられるよう配慮されたヒントをくれる。
    …私だけじゃなくて、挑戦者全員に対して。
    彼は本気で今後のことを考え様々な人材を育てるために、ジムリーダーとしての役割を全うしていた。

    その仕事の一環として接してくれていただけなのに、それを勝手に恋にまで昇華してしまったのは、私だから。

    だから、ちゃんと自立して彼と対等に近い立場になってから、あなたのことが好きだと伝えようと思っていた。

    だけど、…だけど。
    結婚を考えるほど愛する人が、グルーシャさんの中に存在しているのであれば、私はもう動くことはできなかった。
    …人の幸せを全て壊してまで、大好きな人を奪う勇気は 私にはない。

    だから、卒業前に進路を大きく変更した。

    「そういえば、アオイはアカデミー卒業したらどうするの?
    やっぱり前に話してた通りリーグで就職?」

    ネモからの明るい問いかけにゆっくりと首を振った。
    最初は、大好きなポケモン達とバトルに関われる仕事に就きたいと思って、ポケモンリーグでの就職を目指していた。
    …そこで頑張って、少しでもグルーシャさんの役に立ちたいという本音を隠して。

    だけど私の恋はもう叶わないのに、その距離感だと一生忘れることはできないことは明白だった。
    なんだかんだ言って、私はなかなか諦めることができない性分だから。
    今までそこが私の一番の長所だと思っていたけれど、まさかこんな形で短所に変わってしまうとは思ってもみなかった。
    だから、私は決意した。

    「んー、やっぱり他のポケモンに会ってみたいから、他の地方でも旅に出てみようかなって思ってるんだ。
    それで十分満足したら、ちゃんと働くつもり!」

    一部の本音を混ぜて話した内容は、例え大半が偽りだったとしても 相手に対してより発言の説得力が増す。
    …図書館でたまたま見つけた本に書いてあったことを、こんな感じで実践することになるなんて。
    他の地方に住むポケモン達を見たいという気持ちは 決して嘘じゃないけれど、それでも隠された真の目的を目の前の親友にも気づかれたくなくて、だから少しでも罪悪感を消すために私は口を動かした。

    ネモは卒業後リーグで働くことを目標にしていたから、少し残念そうだった。
    その顔を見て心が痛んだけれど、諦めないからこそ これから傷つくであろう将来の自分を守るためにも、作った顔でにっこり笑った。

    「たまに帰ってくるから、その時また私と一緒にバトルして!」
    「もっちろん!パルデアにはいないポケモン達と戦うの、楽しみにしてるから」

    一瞬見せた寂しさを押し殺すと、ネモは弾ける笑顔で私の手を握ってくれた。
    そして次の授業があるからと走って行ってしまった。

    風のように去ってしまった親友を見届けると、私は理事長室へ向かう。
    今日はオモダカさんに事前にアポを取っていた。
    卒業後パルデア地方を出ていくことを伝えるために。


    話の間 何度か引き止められたけれど、私の決意が固いと見ると いつかここに帰ってきてくださることを望みますと、言ってくれた。

    「あなたほどの才能を手放すことは正直痛いのですが、人が自由に生きることを 誰であっても止める権利はありませんしね…」

    いつだって凛々しいオモダカさんの眉が下がっているのを見て、本当に惜しいと思ってくれていることに、少し 嬉しかった。
    だけど、いろんな人から受けてきた期待を全て投げ出して、外の世界に旅立つのだから もう中途半端なことはできない。

    この日以降、私はグルーシャさんに自分から連絡をすることは止めた。
    すると、ぷっつり糸が切れたように 今後彼からの着信やメッセージが届くことがなくなった。

    ああ、やっぱり無理矢理繋ぎ止めようと必死だったのは、私だけだったんだな…。
    私からアクションをしなければ、こんなにも簡単に途切れてしまうなんて。


    「グルーシャさん…すき、でした。幸せになってください」


    卒業式の一週間前、泣きながら彼を通話アプリからブロックして、個人の電話番号などが記載された連絡先を全て削除した。
    今まで話した内容も全部、全部。
    もう、一切の未練を残さないために。


    *******************


    ある日を境に、アオイからの連絡が途絶えた。
    今年は卒業年だし、授業や課題だとかで忙しいのかと思っていた。
    前々からそうなると聞いていたから、彼女と話をしたい気持ちをグッと抑えて なるべく邪魔にならないようメッセージや電話を控えていたけれど…。

    卒業式が終わって三日あたりが過ぎた頃に、ぼくはもう限界だと一件のメッセージを送った。
    アオイに話したいことがあるから、今週あたりに会えないかと。

    普段であればすぐに既読になるのに、いつまで経っても送信したままの状態になっていた。
    提案日を過ぎたけれど新生活に慣れるため、忙しいのかと思った。
    だけど、一ヶ月も過ぎたのにメッセージを見た形跡がないことに対して、流石におかしいと感じた。


    アオイがチャンピオンランクになり、オモダカさんの代理で視察に訪れた時から、ぼくの心は奪われた。
    どこまでも真っ直ぐで純粋な瞳。
    それに昔のぼくを思い出したけれど、それ以上にぼくの凝り固まった価値観を全てひっくり返すほどあの子の明るさと優しさに救われた。

    アオイのそばに堂々と立てるようにと、ジムリーダーとしての仕事を頑張ったし、少しでも関わりを作りたくて 彼女からの勝負を無条件で受けていた。
    雪山に篭るジムリーダーと、パルデア中を飛び回るチャンピオン。

    ちょっとしたことですぐに切れてしまいそうな関係性を保つために、ぼくは必死だった。
    だけど八歳も離れた歳のことを考えると あどけない少女を口説くわけにもいかないし、だけど少しでもぼくのことをアオイの心の中に残したくて 彼女の願いはなんでも叶えられるように努力した。

    都合の良い妄想かもしれないけれど、次第にアオイがぼくを見る目がちょっとずつ変わっていったのはわかっていた。
    チョコレート色の瞳が、笑顔が、雰囲気が、彼女の全てが ぼくが好きだと訴えているように見えていたから。

    だから、アオイが成人してアカデミーを卒業する年に、自分の気持ちを伝えようとずっと前から考えていた。

    それなのに、急に音信不通になるなんて…。

    まさか彼女の身に何かあったのではないかと考えたぼくは、今度オモダカさんがここナッペ山ジムに視察しにやってくる時に、それとなく聞いてみることにした。


    「アオイさんは、卒業後に旅に出られましたよ」
    「は?え…どこに?」
    「おや、ご存じなかったんですか。…場所については、ただパルデア地方以外としか聞いてないですね」

    視察終了後、今回の評価を聞いた後 アオイの近状を知っているか問いかけてみた。
    それで返ってきたのは、先月には既にパルデアを出て行ったという衝撃の事実だった。

    そんな話、ぼくは聞いていないんだけど。

    「本当はパルデアの未来のために残っていただきたかったのですが、彼女の決意は固かったようで 止められず…どうされました?顔色が悪いようですけれど」

    どうしてそんな大事なことを、ぼくに教えてくれなかったんだ。
    彼女から感じていた気持ちはぼくの妄想でしかなくて、本当はこれからのことを伝えるほどの相手じゃなかったってこと?

    そんな、まさか…。でも、事実 彼女はさよならも告げずに出ていった。
    事前にわかっていたら、どんな手段を取ってでも止めたのに。

    そんな、アオイが目の前から消えるだなんてこと…。


    ぼくは到底受け入れられなかった。


    *******************


    潮風を全身に浴びながら、グッと背伸びをした。

    パルデアを出て早二年。
    私は今、カントー地方のクチバシティに来ていた。

    海沿いの街だけどマリードタウンとはまた雰囲気が異なるところで、街を見つつもまた最近はずっと歩き通しだったからしばらくここに滞在することにした。

    これまでシンオウ地方とカントー地方を旅してきたけれど、パルデアとは全然違うところが多くて面白かった。
    まずはここではそらとぶタクシーはなくて、鳥ポケモンの背中に乗って移動するらしい。
    最初はちょっと怖かったけれど、ポケモン目線で世界を見ることができてわくわくした。

    他にも見たことないポケモンにもたくさん出会えたし、釣りをして捕まえるなど全てが新鮮だった。

    最初は失恋を忘れるために出た旅だったけれど、本当に楽しくて 自分の世界を広げるためにも旅に出て良かったと心底思う。

    ゆっくり体を休めることができたら、ここからシーギャロップ号に乗ってナナシマに行ってみよう。
    自然豊かな観光スポットでもあるそうだけど、ポケモン勝負の腕試しができる島もあるって聞いたから、気が済むまで思いっきりバトルがしたい!

    そこでの滞在も満足いくまで過ごすことができれば、大体カントー地方の街も周ったし ジョウト地方にでも行ってチリちゃんの故郷を見に行こうかな。

    ざっくりと計画を立てては、楽しみだと心を躍らせた。
    シンオウ地方を最初に訪れた時、雪が降る地域でもあったから ちょっとしたことで彼のことを思い出して辛かったけれど、ここだと彼を連想させるような地域もポケモンもいないから、心が楽だった。

    だからかな。
    相変わらずあの人のことを忘れることはできなくても、だんだんあの失恋も青春時代の良い思い出の一つとして消化できそうだった。

    まだ二十歳だし、これからの出会いに期待しよう。
    初恋は実らないってよく聞くし、良かったんだ。
    うん、きっとそう。あの時諦めてしまって良かった。

    …諦めることがプラスに導くことがあることも、今回知ることができたし。
    あのままずっとパルデアにいれば、他の地方のことも知らずに一生を終えていたかもしれない。

    だから…二年前見切り発車で飛び出して良かった。

    言い訳っぽく聞こえるかもしれないけれど、本当だから。
    もう、嘘なんかついてない。


    波止場に腰掛けて、いろんなことを考えながら海に沈む夕日をじっと眺めていた。
    そろそろあたりが暗くなり始めたから、もう宿泊するホテルに帰ろうと立ち上がった時だった。


    「やっと見つけた」


    昔、聞いた声が聞こえる。
    大好きな人の声を聞きたくて、よく電話をかけたり わざわざ雪山をミライドンと一緒に登って会いに行っていた人。

    そんな、まさか。
    多分違う。
    きっと人違いだし、そもそもこんな場所で会うはずがない。
    だって、ここはパルデアから最も遠い場所だから。


    そう言い聞かせながら振り返ると、水色の長い髪を靡かせた男性が立っていた。
    記憶に残っている服装とは違うけれど、あの黄色混じりの不思議なアイスブルーの瞳は変わってない。

    違う。この人はただ似ているだけ。
    本人なわけない。

    「なんで、ぼくには何も言わずに消えたわけ?
    理由、教えてよ。…アオイ」

    怒りを宿しつつも冷ややかな目を向けられて、その場から逃げ出すために私は走った。
    それでもすぐに追いつかれて、思いっきり腕を掴まれる。

    「ねぇ、聞いているんだけど」
    「人、違い…です!私はあなたのことは知らない!」

    咄嗟に出た誤魔化しの言葉を聞いた瞬間、彼の手に更に力が込められる。
    男性の本気の力に、痛みで涙が出てくる。

    でも、ここからなんとかして逃げなきゃ。
    どうやって私の居場所を突き止めたのかも、どうしてここまで怒っているのかもわからない。
    だけど、今は理由なんてどうでもいい。
    またどこか遠くに逃げないと。


    「痛い!やめて、ください…!人を、呼びますよ」
    「好きにすればいい。またどこかに行ったとしても、ぼくが見つけ出してあげる。

    何度でも、どこに消えても 必ずアオイを探し出す」


    腕を引っ張られて、彼に力強く抱きしめられた。
    微かに香る匂いも、声も、何もかも 二年前と変わっていない。
    記憶と違うのは、あのクールな雰囲気だけ。

    怖い。また、この人のことしか考えられない状態になるのが嫌だった。
    やっと、私の中で思い出として終わらせそうだったのに。

    さっきまであったこれで良かったという、自己暗示のように繰り返してきた言葉が安っぽいメッキみたく剥がれ落ちていく。

    もう、グルーシャさんのことは過去のこととして済ませたい!
    どうしようもないこの気持ちから、解放…させてください。


    「もう、やだ…」


    泣きながら溢れ出た言葉は、目の前にいる人物によって塞がれた。


    続く
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💕💗💕💖😭🙏🌠
    Let's send reactions!
    Replies from the creator