蒔いた種「あの、父さん。良かったらボクと組み手しませんか?」
広げた両手の指の腹を擦り合わせながら、悟飯が言った。
朝の歯磨き真っ只中だった悟空は悟飯を見つめて、それから一旦、泡まみれだった口元をゆすぐ。「えっ?」振り向きなおし、あらためて、悟空はきょとんと悟飯を見た。すると悟飯はもう一度、今度はこちらを覗き込むようにして、一言一句違わず同じことを言う。
「〜〜、うーーん……いまか?」
半分くらいまで頷きかけた顎をピタッと止めて、一にも二にもなく了承したいのをグッと堪えた。悟飯の瞳が、小石の落ちた水面のように、とぷんと揺らぐ。
「収穫期が終わって、少し落ち着いたって母さんが言ってたので、今日どうかなって思ったんすけど……いや、やっぱりいいです。ごめんなさい」
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