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    A0_Cher1e

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    高銀にしたかった虚銀
    3Zだけど不思議世界線

    #虚銀
    #高銀
    highSilver

    坂田銀時は、いや今は坂田銀八か。生まれた時から漠然と知っていることがある。
    高杉晋助はどんな世界でも必ず左目を失う、と。
    未だ出会ったことのない男だ。高杉晋助という男がどんな見た目でどんな性格をしているのか、年齢さえ分からない。けれど自分が存在する世界のどこかに高杉晋助も必ず存在し、五体満足で生まれた筈なのにどこかで左目を零す。そしてそのことに自分は酷く恐れているのだ。坂田銀八として自我が芽生えた瞬間からそんな認識が自身の中には根付いている。
    ただでさえ銀髪に紅目という突飛な見た目で周りから忌避されやすいのに、こんな現実味のない厨二腐ったことを誰に相談できるはずもなく漠然とした恐怖を抱えながらこれまで坂田銀八として生きてきた。
    高校二年生の頃だ、坂田銀時の断片的な記憶が夢の中で自身に流れ込んできたのは。おそらく、それは最初の記憶。坂田銀時という男が高杉晋助の左目を厭に恐れるようになった最初の記憶。自分と同じ見た目、同じ年の頃の男が白装束を身にまとい、右手には真剣が握られている。眼前には跪かされた師と自分が慕う存在。後ろには何かを叫びながらも拘束されて身動きの取れない長さの異なる黒髪をもつ友が二人。友の叫びを無視しながら自分は右手を振り上げ、師の最期の言葉に微笑みながら、右手を振り下ろしたのだった。首が宙に舞っている。銀時と、自身の名を激昂しながら叫ぶ声が聞こえ、数瞬後には苦悶の声に変わっていた。振り向くと、左目を潰され仰向けで呆然としている友の姿が見えた。嗚呼、あれが高杉晋助なのだと、これが自分の恐れていたものだったのかと、夢の中ながらようやく理解したのだった。


    坂田銀時の記憶を手に入れたからといって一学生の身である自分が何かできるわけもなく、流れに身を任せるがまま今の生活を続けていた。そうしていると、同級生の坂本辰馬が教師を目指してみないかと同じ大学を進学先に誘ってきた。この男も銀時の記憶の中に友としてあった。どちらも変わらずいつも能天気で知らぬ間にこちらの心のわだかまりを取っ払ってくれるような存在だ。特に断る理由もなかったし散々提出を催促された進路票の中身にも困っていたのでありがたく提案に乗らせてもらった。受験勉強にはそれなりに苦労したものの当初の希望通りの大学に二人そろって合格できた。
    入学してからは高校までとは一変した生活に慣れるのに四苦八苦しながらも新歓コンパとやらに参加しタダ飯を存分に謳歌した。新歓にはいろいろ行ってみたが結局入部したのはオカルト研究部という部員の数も少ない、活動も滅多に行っていない、大学側から公式の称号を与えられているのがなんとも不思議なサークルのみだった。坂本には自分がそこまでオカルトに興味があるとは初耳じゃ、と言われたが自分もそこまで興味があるわけではない。部室の中には膨大な量のオカルトに関する書物が所狭しと積まれている。その書物に自分の身の不思議を紐解く何かがあったりしないだろうかという蜘蛛の糸よりも細い希望を見て気まぐれで入部しただけなのだ。



    「なんだこれ、虚…?随分中二病みてぇな名前だな。」

    入学してから一年半ほど経った。講義で出された課題も特になく、暇を持て余していた銀八はそういえば自分がオカルト研究部なるものに入っていたことを思い出し、部室で書物を読んで暇をつぶすことに決めた。足場も見当たらない程たくさんの書物が積まれている部室のドアを開けて数秒でここに来たことを半ば後悔しながらもせっかくここに来たのだからとなんとか中まで歩を進める。つまんねェモンは読む気にならないよなー、面白そうなのあるかなーなどと独り言を呟きながら本をバサバサと漁っていく。そうしていると、表紙が真っ黒でなんとも不気味な、しかし興味をそそられる本が現れた。お供はこれにしようと何とか見つけた椅子に腰をおろして読み始めたのだった。
    オカルト書物かと思ったが妙に現実世界とつながりのあるファンタジー小説だった。この世にはアルタナなる非常に有用なエネルギーが存在するとか、地球には特にアルタナの保有量が多いとか。想像力が豊かなことで、と半ば馬鹿にしながらも読み進めていくと膨大な量のアルタナをその身の内に宿し、不死の体を持つ虚と呼ばれる人間とも化け物とも呼べる存在があると記す章にまでたどり着いていた。その男は、江戸時代に大きな騒動を起こしていたり下手をすれば平安時代以前から存在しているらしい。そして、今は誰にも存在を悟られることなくひっそりと息を続けていて、しかし時折気まぐれに人の前に姿を現し何かを代償に願いをかなえてくれる、と。ファンタジー小説と思っていたがやはりオカルト書であったようだ。願いを叶えてくれるということは毎日苺牛乳飲み放題という願いには毎日家の前に苺牛乳を置いて行ってくれるのだろうか、と思いを馳せる。しかしすぐに馬鹿馬鹿しい、所詮はオカルトで現実にはありゃしない、パタンと本を閉じる。外を見るといつの間にか日は殆ど暮れて月が輝き始めていた。今日は家に作り置きしていたカレーがあるのだった。二日目だからきっと具材に味が染みて美味しい頃合いだとルンルンで帰りの支度を進める。




    「こんばんは。」

    ルンルンで帰っていたのに、謎の男に水を差された。暗がりから突然現れたので幽れ、いやいやスタンドかと思ってヒィッッ!!と情けない声を上げてしまった。その声に男が何の反応も示さずニコニコと怪しげな笑みを湛えているままなのがなんとも居た堪れない。
    落ち着いて男をよく見ると、亜麻色の長髪で前髪を後ろに持っていきオールバックにしている。どこかで見覚えがあるような気がしたが、そういえば銀時が首をはねた師にそっくりなのだと気づいた。しかし目の前の男の纏う雰囲気と師の纏う雰囲気があまりに違い過ぎて困惑が隠せず、じっと見つめたままで言葉を返すことができずにいた。その様子をどう思ったのか男はにっこりと閉じていた瞼を開いた。その目は、紅かった。師ではない、師に似たそっくりさん。やはり知らない人だと疑問に思っていると男は口を開いた。

    「こんばんは。」

    再度同じ言葉を口にした。ここで挨拶を返さないのは人としてどうかと思ったのでようやく銀八も口を開く。にへら、と敵意がないことを示すようなだらけ切った笑みを浮かべて。

    「…こんばんは。あの、僕たち初対面ですよね?何か御用です?」
    「そうですね、初対面と言えば初対面ですけど。しかしそうでもないとも言える。」

    なんだこいつ、と銀八は顔をしかめる。訳の分からないことを言ってくる怪しい男は無視するに限る、なんだったら近くの交番にでも駆け込もうと足に力を込める。しかし、次に男が口にした言葉にその力も霧散した。

    「私の名前、虚っていうんですよ。覚えはありませんか?」
    「虚…!?」
    「よかった、覚えがあるようで何よりです。」
    「え、本にあったあの虚…?」

    銀八の言葉にはじめ喜んだ様子を見せたが次の言葉を聞いた瞬間笑みは消え途端に不機嫌な様子を見せる。

    「なんですか、私の記憶はないんですね。まぁいいです。」
    「ほんとに実在したのか…。」
    「それはもう、気の狂いそうになるほど長い間ずっといますよ。一時は死を得られたと思ったんですけどね、結局この世に甦ってしまった。」
    「なんで、俺の前に現れたんだよ。」
    「本で読みませんでしたか?気まぐれですよ。長い永い生を少しでも面白おかしくするための暇つぶし。さて、あなたの願いを聞きましょうか、苺牛乳を飲み続けたいとかいうつまらないものは聞き入れませんよ。あなたの深層に眠る願いです。」

    辺りは真っ暗なのに月が虚の瞳をより紅く輝かせ、不気味さが増す。しかし何故か銀八は彼から視線を逸らすことができない。魅入られてしまったかのようだ。

    「お、れのねがい…。」

    呼吸が浅くなる。銀八が虚から目を離せないように、虚も銀八だけを見つめて瞬きさえもしない。この男とは完全に初対面のはずだ。それなのにどこか師の面影を感じてしまう。面影を感じてしまうから生まれて二十年来抱え続けてきた恐怖を顕著に思い出す。この男に願えば、高杉の左目を失わずに済むのではないか、と。何の保証もないのにそう感じずにはいられない。気が付けば、震える口は勝手に言葉を紡いでいた。

    「高杉の、左目を。…この世界で失わずに済むようにしたい。あいつには両の目のままで、いて欲しい。」
    「それが、貴方の願いですか?」

    コク、と頷くだけで返事を返す。銀八の願いを聞いた虚は先ほどまでの不機嫌はどこへ行ったのか再び機嫌が良さそうに笑みを浮かべる。

    「そうですか。そうですね、代償は高杉晋助が失うはずだった左目分の視力にでもしておきましょうか。」

    虚のその呟きが聞こえた途端、銀八は急激な眠気に襲われ視界がぐらりと揺らぐ。瞳が閉じ切る前に見えたのは勿論怪しげな笑みだった。明日には眼鏡でも作りに行った方が良いでしょうね、なんて茶化したような言葉を最後に銀八の意識は完全に闇へと落ちた。



    次の日、銀八が目を覚ましたのはなぜか自宅だった。やはりあれは夢だったのかとスマホで日付を確認する。すると、視界が妙にぼやけて表示される文字が上手く読めない。ハッと起き上がって部屋中を見るが視界に映るどれもがぼやける。
    代償。銀八の脳内によぎったのはその言葉だ。昨日のことは夢でなかった。銀八の視力を代償に、虚は願いを叶えてくれるのだろう。何をどうやって、なのかは分からないがそもそも銀八の視力を奪ったのだって何をどうやったのかは分からない。この世にはそんなオカルトじみた力が存在したんだとこの世に生まれて二十年目にして初めて実感した。
    今日の授業はオンデマンドなので大学に行く必要はない。虚の助言通り眼鏡でも作りに行こう。慣れない視界に少しだけ苦労しながら身支度を整える。眼鏡はシンプルなデザインにしよう、そんなことを考えながらいつもよりどこか穏やかな足取りで銀八は家を出たのだった。





    虚との邂逅から早いもので五、六年が経過した。教職課程をこなし怒涛の教育実習も何とか乗り越えた。実習の際の忙しさに心が折れかけたがここで諦めたら今までの努力がおじゃんだと心を震わせ、教員免許を取りきり採用試験にもストレートで合格した。勿論、そこには坂本も一緒だ。こんなことを言うのは癪だがあいつが一緒にいてくれて助かったと思っているし、同じ職場で働けていることを嬉しく思う。
    今日は入学式だった。去年まで受験生のクラスを受け持っていた銀八は当然のようにまた一年生のクラスを受け持つことになる。今年は問題児がいない平和なクラスになるといいんだが、とそんな淡い願いを抱きながら丈の合わない制服をどこか緊張した面持ちで着こなす新入生を見回す。すると、そこには紫がかった艶めく黒髪を携える生徒が目に入った。紛れもなく高杉晋助だった。他の生徒とは違って堂々たる様子だ。ふてぶてしいともいう。この学校に入学してきたのか、と思ったが次の瞬間にはそんな思考も吹き飛んでいた。
    彼の左目、そこには眼帯があった。いくら彼が厨二病だとはいえそこまで恥ずかしい真似はしない。どうかものもらいであってくれ。呆然自失としながらもそれだけを一心に願っていた。

    偶然にも彼はこのクラスだった。入学式後のホームルームを何とかいつもの調子を繕って、しかしどこか急いて終わらせた。浮足立った生徒が新しいクラスメイトと談笑したり、さっそく遊びに行こうと教室を出て行ったりする中、銀八は高杉に声をかけた。

    「なんすか。」

    記憶の中と寸分違わない心地の良い低い声だ。入学早々教師に絡まれるなんて面倒くさいと言わんばかりの表情を浮かべている。

    「それ、その眼帯。ものもらいか何かか?」
    「なんでたかが担任にんなこと聞かれなくちゃならねェんだよ。」
    「まぁまぁそんなつれないこと言うなよ。気になっちまったんだからしょうがねぇだろ。」
    「…ハァ。失明してんだよ。この目はもう何も映すことはねぇ。無いも同然なんだよ。これで満足したか?」
    「失明…。」

    どうして、代償は払ったはずなのにどうして高杉が左目を失っているのか。うまく頭が働かない。そんな様子に辟易したのか高杉はなんだアンタ、もう帰るからな、と言ってさっさと帰ってしまった。


    その日は仕事が全く手につかず同僚に揃って心配された。そんな心配を無視しながらミスだらけの業務をこなしていたらさっさと帰れとついに追い出されてしまった。心ここに非ずの状態ながらもなんとか家まではたどり着いた。
    今日だけで五歳は老けた気がする、と深いため息をつきながらリビングへと足を進めるとそこにはなぜか虚がいた。どうしてここに、そもそもどうやって入った、などと疑問は尽きないがそれよりもまず怒りが銀八を支配した。激情に身を任せて虚の真っ黒い着物の襟をつかみ上げる。

    「虚テメェ!何で高杉が左目を失ってんだ!!!願いを叶えるって言ったじゃねぇか!」

    開口一番にそう怒鳴りつけると何がおかしいのか虚はくすくすと笑い始めた。

    「願い?確かに君の願いを聞きましたけど了承の言葉は一度も口にしてませんよ?相変わらず詰めが甘い。」

    そういわれてあの時の事を思い起こすとそうですね、という相槌しか返されていなかったことに気付く。何年も前の事なのになぜか鮮明に思い出せるという疑問には蓋をして。弄ばれたことに気付いた銀八はわなわなと口を震わせる。

    「…じゃあ、なんで俺の視力を奪った!返せよ!!」
    「言ったでしょう、これは私の生を面白くするための遊びだと。前の君ならまだしも、今の君を抑えるのはひどく簡単だ。」

    そういうなり虚は銀八の襟元を掴み返し、大外刈りの要領で床に倒してマウントポジションを取った。うまく受け身が取れず体を強く打ち付けた銀八の口からはグッ、といううめき声が漏れた。虚はそのまま一つ一つゆっくりと銀八のシャツのボタンをはずしていく。

    「テメェ、何をするつもりだ。」
    「君の願いを聞いた時と同じですよ、ほんの遊びに過ぎない。」
    そういいながらすっかり開いてしまったシャツを左右にはだけさせ、右手で上半身をゆったりと撫でる。銀八が気持ち悪さに身をよじっている間に左手はその下半身のズボンへと向かっている。それに気づいた銀八はたまらず声を荒げる。

    「おいッやめろ!!!」
    「以前でさえ人を捻るなんて簡単でした、今の平穏の中に身を置く人なんて以ての外です。この意味、分かりますか?」
    「…今度は俺の身を代償にお前はアイツに手を出さないってか?」
    「察しがよくて何よりです。」
    「ふざけんな!!テメェが約束を守る保証がどこにある!」
    「けど、大人しくしている方がまだ可能性がありますよ。」

    頭に血が上りすぎて銀八はもはや言葉をうまく発することができない。こうしている間にも虚は手を動かし、銀八の苺柄のボクサーパンツが露わになってしまっている。

    「ッッ!!!」
    「前もたっぷり楽しませてもらいましたからね。今度も楽しみにしていますよ。銀時。」

    銀八しか知るはずのないもう一つの名前を呼び、虚はうっそりと笑った。
    あの時自分がとってしまった手は紛れもない悪魔の手だったのだと、今にして銀八は悟る。人魚姫が愚かしくも届かぬ望みを願ってしまったばかりに自らが泡になってしまったように。泡になれるだけましか、と人魚姫に憧れさえ抱きながら銀八はそっと瞳を閉じ、抵抗の手を降ろした。これから始まる狂乱が少しでも早く終わることを願って。
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