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    Les3lef3rei

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    Les3lef3rei

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    すごい途中、書きかけのやつ。

    💛の小説「今回の長期潜水のお遊びは習字。お題はキャプテンの名前。一番キレイに書けたやつが優勝。提出用紙は戸棚の中の黄色い箱の中」

    食堂に張り出された紙を見て、提出用の紙をいそいそとみんなが回収していく。任意参加のこの手のお遊びは潜水艦の中で健全に過ごすために有効だ。

    今回のお題はキャプテンの名前とあって、士気も高い。

    お手本の為と頼まれたのだろう。
    「TRAFALGAR LAW」とキャプテンの手で書かれた文字が隣に張り出してある。活字体のお手本みたいな字だ。眠いときにキャプテンが書くウツボがのたくったような筆記体も味があるし丁寧な人間性が透けて見えると思っているけれど、わざわざ大文字で丁寧に書かれた文字はとてもキレイだ。

    ふと、幼い頃文字を教わったことを思い出した。

    まずは自分の名前からね、と「ペンギン」と書かれた紙を渡された。シャチはおれと同じことをやりたがると分かっていたから母ちゃんはシャチにも「シャチ」と書いた紙を渡していたのを覚えている。

    シャチの父ちゃんが作ってくれたという浅い木箱に砂を張ったものを渡されて、砂遊びだ!とワクワクしていたら、今日はお勉強と言われた。

    今日は名前を書けるように練習するようにと言われたおれたちは膨れっ面だったと思う。文字というものをあんまり理解していなかった。

    「こんなのよりおれの絵の方がペンギンににてる」と記憶のシャチが不服そうに「ペンギン」という文字を睨んでいた気がする。おれも似たようなことを考えていたと思う。

    「じゃあ、逆にしましょう」
    母の声が記憶の中で鮮明に響く。

    「ペンギンはシャチくんの名前を、シャチくんはペンギンの名前を書けるように」

    と、まあおれたちは母ちゃんの策略に乗せられて互いの名前を書けるようになった。「似顔絵だって上手く書けたら嬉しいでしょう?字も同じことよ」と母に言われて、日が暮れるまでお互いの名前を練習した。自分の名前よりも互いの名前を書くほうが綺麗になってしまった。

    戸棚を開ければ黄色の箱が堂々と鎮座していた。蓋を開ければ「提出先もここ。自分の名前も書くように」というメモが裏に張り付いている。いつもと同じサイズの黄色の紙が束になって入っていた。いつもよりちょっと良い紙をペンギンは1枚取った。

    ペンギンは懐からボールペンと手帳を取り出した。キャプテンの注文で作られたベポを模したペンは全員が持っている。作られた当初はベポはこのペンを見るたびになんとも言えない顔をしていた。毎日目にしているうちに慣れたようだったけど。

    ペンギンは手帳に「Trafalger Law」と書いた。その横にPenguin、Shachi、Bepoと続けて書く。そしてWolfと1行下に書いた。並んだ名前にそっと笑みを溢す。

    「何してんの、ペンギン」
    後ろから声が降ってきた。ペンギンと同じようにシャチも紙を持っている。

    「ん?あぁ、ちょっと書いてみたら存外楽しくなったんだよ」
    隣に座ったシャチにペンギンは手帳を見せる。覗き込んだシャチはペンギンと同じように笑みを溢した。

    「懐かしいな」

    「だろ?」

    ただ名前が並んでいる。それだけだ。
    だけど、おれたちにとって忘れられないものだ。

    どれだけ望んでも手に入らないと思った生活に、すんなりと戻れたのはヴォルフのおかげだった。

    書類に名前を書くというたったそれだけのことだと理解している。だが、それはおれたちはもう隠れて住まなければいけない存在ではないという証明だった。

    ローさんやベポ、ヴォルフと並んだ名前が誇らしかったことを覚えている。

    「さて、練習するか」

    ある程度サイズごとに分けて紐を通している雑多な裏紙の束をペンギンは取り出した。数枚千切ってシャチに渡し、ペンギンも自分の分を確保した。

    その間にシャチはペンギンの分もバインダーを撮ってきてくれたらしい。

    「一番キレイに書けたヤツが優勝」というのは、この船で一番キレイな字のやつが優勝というわけではない。以前よりどれだけキレイに書けたのかの方を強く評価する。

    自分のバインダーを開けば、100枚以上の紙が挟まっている。それはシャチも同じだ。

    「前回の習字大会いつだっけ」

    一番上にあるジョリーロジャーのイラストは前回のお絵描き大会の形跡で、次のページの複雑な計算式はキャプテンの出した数学の問題だ。航海日誌のようなページはわかりやすい日誌の書き方の提案大会の跡で、その次はレシピの考案大会のものだ。ペンギンはペラペラと紙を捲る。

    「確か3ヶ月ぐらい前……お、あった」

    「習字」と小さく右上に書かれているページをペンギンは見つけた。お題はノースで有名な童謡だったらしい。同じノースの産まれで、同じ歌を書いたのにちょこちょこ違いがあって面白かったとペンギンへ思い出した。

    シャチも自分のバインダーをめくり、前回の習字のページを開いた。うっかり書き間違えていたようで、赤字で綴りのミスの指摘が1つ入っているが、字のキレイさで言えば会心の出来だ。

    「これより上手く書けるかわかんねぇな」

    「でも、キャプテンの名前だぞ」

    2人で何も言わずにペンを持つ。ひとつ、ひとつ丁寧にペンを走らせる。

    「きれいに書きたいよな」

    一生懸命字の練習をするシャチをペンギンは手を止めて眺めた。

    小さい頃は2人でいることが世界だった。

    親のことは大好きだけど、バイバイと言って別の家に別れるのが疑問だった。赤ん坊の頃からずっと隣に寝かせていたものねと母ちゃんたちは笑っていて、よくお泊まりしあったものだ。1人で寝る時も勿論あったけど、起きてご飯を食べたらすぐに片割れの元に飛んでいった。

    手を繋いでいれば、近所にいた3つぐらい年上の気の強い男の子たちに何を言われても気にならなかった。どうしても遊び場を譲りたくなければ立ち上がれたし、2人でいればどこにいても楽しいので大人しく帰ったこともある。

    そんな日々が変わったのだと、幼い頃の自分に告げればどんな顔をするだろうか。

    「ペンギン?」

    視線に気がついたシャチが顔を上げる。ペンギンはなんでもないよと笑った。

    このなんでもないことが、愛おしいのだ。

    「そういえばさ、あのときキャプテンも嬉しそうだったよな」

    おれたちとは違う理由で、キャプテンもあの紙に名前を書いたことが嬉しかったんじゃないかとシャチは呟いた。

    そういえばと、ペンギンも思い出す。名前を書いた書類をキャプテンはじっと見ていた。

    練習のために何度もキャプテンの名前だけが書かれた紙を2人は見た。

    「ねぇペンギン」

    「ああ、シャチ」

    顔を見合わせて、2人は立ち上がった。
    特別な紙でなくて良いとわかっている。でもせっかくだ。

    ちょっとだけ張り切ってもいいだろ?とイタズラ好きの笑みを2人は浮かべた。


    ずらりと机の上に並べられた自分の名前にキャプテンはなんとも言えない顔をしていた。

    それぞれが自分のバインダーの前回の習字大会のときのページを開き、その横にキャプテンの名前が書かれた黄色の紙が鎮座している。

    「キャプテンの名前がお題になるの何回目だっけ」

    「10回は超えてるよね、定番だし」

    「キャプテンのこと、大好きだからきれいに書けるようになりたいしな」

    「おれたちも最初に比べるとだいぶ字がきれいになったよな」

    こそこそとクルーたちは話し合う。どれだけ照れていても真面目に見てくれるのを知っている。それにおれたちがキャプテンの名前をきれいに書きたい理由を理解してくれている。

    「唐突で悪いんだが、次回のお題発表して良いか?」

    食堂のドアが勢いよく開かれた。

    きれいな黄色の紙束をペンギンは手にしていた。ジョリーロジャーの模様が入っている紙をペンギンとシャチが全員に配っていく。「PIRATES OF HEART」という文字とジョリーロジャーは手書きで書かれているようだ。それから鉛筆で薄く表のような線が引かれている。

    「お題は、おれたち全員の名前だ。書き損じたら言ってくれよ。予備も用意したから」

    見本はこれな、とシャチがキャプテンの名前から始まって、船に乗った順で名前が書かれた表を配る。

    「キャプテンの名前だけ並べるの、寂しいじゃん」

    「キャプテンも参加してくれる?」

    ペンギンが差し出した紙をキャプテンが受け取った瞬間、歓声が上がった。

    「せっかくだし、今みんなで書こうよ」

    ベポの提案にクルーたちは頷いた。キャプテンもそれでいい?とベポが尋ねる。キャプテンが頷くと、いそいそと筆記用具を準備して、ハートの海賊団の習字大会が始まった。

    筆記用具が走る音が小さく響く。この光景を見たものはまさか海賊だとは思わないだろう。

    ペンギンは予備の紙を1枚手に取った。小さな声で隣に座ったベポを呼ぶ。

    「ここ、名前書いてくれる?」

    よくわからない顔をしたまま、それでもペンギンが指差した場所にベポは名前を書いた。ありがとうと受け取ったペンギンはその下に名前を書く。そしてシャチに紙を回した。

    ペンギンのやりたくなったことに気がついたのだろう。シャチがその下に名前を書く。

    あっ、と小さくベポの声が漏れる。懐かしいことを思い出した。

    「全員、できたか?」

    「アイアイ、キャプテン。あとはキャプテンだけかな」

    ペンギンはベポに回していた紙を渡した。ベポが持っていってくれる?と小さな声で頼む。

    大役を承ったベポは少しだけ緊張しながら、キャプテンに紙を手渡した。

    「ここ、名前書いてくれる?」
    一番上の空いた部分をベポは指差した。

    キャプテンの丸くなった瞳にペンギンとシャチはハイタッチをした。

    「こそこそ回してたのはこれか」

    キャプテンがきれいな字で名前を書く。出来上がった紙をみんなで覗き込んだ。全員の名前が並んでいる。それだけだ。

    だけど。

    ただそれだけのことが嬉しいのだ。

    ──余談としては、この時の優勝者は決まることなく、宴に突入し、それからおれたちの習字の定番が全員の名前を書くことになったことぐらいだろうか。

    船出から1ヶ月程度の頃だ。おれたちが慣れない生活に右往左往するのがある程度治った頃、キャプテンが潜水中に窓を眺めるのが好きなのだとおれたちは気がついた。

    「ろ、……キャプテン、窓眺めるの好き?きれいだよね」

    まだキャプテンと言い慣れてなくておれたちは「ローさん」という事も多かった。ローさんはどっちでもいいだろと言っていたが、おざなりにするのはおれたちが嫌だった。

    ローさんとおれたちが呼んでいたのは、ローさんを敬愛しているからだ。そこに海賊団の部下という関係が入ったのだ。おれたちはお前が船長であるということを認めている、嬉しく思っている、愛しているということをいつだって示したい。

    無論、ローさんと呼ぶときもおれたちの敬愛は変わらないのだけど。そう伝えれば、キャプテンは照れていた。

    「ああ、おれは見ることができない景色だと思っていたからな」

    その言葉にペンギンとシャチは言葉を詰まらせた。

    3年前、ローさんが悪魔の実の能力者であると打ち明けてくれた時、おれたちは信頼された喜びと言葉にできない恐怖を感じていた。

    ローさんは泳げないのだ。
    悪魔の実の能力者は泳げないというのは、ペンギンもシャチも聞いたことがあった。それにローさん自身もそうだと頷いた。

    海が一度飲み込めば、ローさんは帰って来れないのだ。おれたちはしばらく忘れていた悪夢を見るようになった。

    あの日の夢だ。大きな波が、父ちゃんと母ちゃんたちを飲み込んでしまう夢。

    「なあ、シャチ」

    「ああ、ペンギン」

    おれたちはそっと手を握った。言葉にしなくてもわかっていた。

    ──泳ぎの練習をしよう。

    スワローは極寒の海に囲まれている。海に入るのは自殺行為の1つだと子供の頃から言い聞かされていた。とはいえ、短い夏の間に少しだけ泳ぎを教わったこともある。ペンギンもシャチも、このスワローの人間としては泳げる方かもしれない。

    でも、それだけでは足りない。

    どんなに冷たい海でも、どれだけ高い波に攫われても大切な人を取り戻せる力が欲しい。

    「まずは海に入れるようになろう」

    ペンギンとシャチは海岸に焚き火台を組み上げて、熾火の準備をした。周りは砂浜で燃えるものはない。薪は少し離れた場所に置いた。

    腰にロープを括り付け、海岸の木に結びつける。マフラーや上着など濡れて困るものを取り去り、持ってきた着替えも隣に置いた。

    シャチの手が震えていることにペンギンは気がついていた。シャチもペンギンの手が震えていることに気がついているだろう。

    ぴたりと引っ付いたまま少しずつ海に近づいていく。身体が震えているのに、おれの背中に引っ付くぐらい恐れているのに、それでも足を止めないシャチに勇気付けられる。

    シャチがおれの背中に隠れるたびに背中を押されている気がするといえば、シャチはどんな顔をするのかな──なんて関係ないことを考えて気を紛らせた。

    足が水に入った。
    冷たい、人の命を奪う存在にゆっくりと身を浸していく。

    身体が震えるのは何故だ。
    ──海の冷たさか?
    ──あの日の恐怖か?

    違う。
    おれたちはこれから先、ローさんを失う可能性に震えていた。

    「シャチ」

    おれの背中に引っ付いているシャチの名前を呼んだ。

    ゆっくりと振り返り、シャチを呼んだ。お互いの腰の高さまで海に囚われている。シャチまで失うのではないかと恐怖した。

    「ペンギン」

    悲鳴のような声で、シャチがおれを呼ぶ。

    「泳いで、帰ろう」

    そう言ったのはどちらだったのか、おれたちには記憶がない。震える手をゆっくりと引き剥がし、おれたちは顔を水に付けた。

    全身を海に任せ、教わった通りに体を動かす。

    暴れてはいけない。恐怖してはいけない。
    ──だが、油断してはいけない。

    縮こまりたくなる身体を叱咤して、背中を逸らして、両腕を伸ばした。

    ゆっくりと水を蹴り、上半身を捻り水を掻いた。息継ぎのたびに片割れの姿を目に納め、安堵の息を漏らした。

    たかだが、5mぐらいの距離をおれたちは時間をかけて戻った。

    「およげたな」

    「ああ、およげた」

    ──でも、まだ足りない。

    寒いのを忘れておれたちはぎゅうぎゅうに引っ付いた。


    おれたちの泳ぎの練習は早々にバレた。洗濯当番を引き受けまくって誤魔化していたけれど、明らかに干す服が多いというのを疑問に思われたらしい。

    「泳ぎの練習をするのはいい、だが2人きりでするな」とヴォルフとローさんに怒られた。スワローの海は極寒で落ちたら死ぬ危険があると知っているだろうと2人に詰め寄られた。ローさんは医学的に海水の温度と危険性の話をおれたちが理解するまで説明した。

    それから隠れてやる必要はなくなって、練習が増えたからかおれたちの泳ぎの腕はメキメキと上がった。

    足もつかないような深いところで、どちらががゆっくりと潜水をする。30秒待ってもう1人が追いかける。追いかけた側が身体を掴み海面まで引き揚げるという練習をするようになるまで時間は掛からなかった。

    だが、おれたちの震えは止まらなかった。

    今日の見張りは、ベポとローさんだ。おれたちが震えているのが寒さからではないと気がついているんじゃないかと怖かった。

    ヴォルフに「なぜ泳ぎの練習をするのか」と聞かれたときに「ローさんが海に落ちたら大変だろ?」と答えた声は震えていなかっただろうか。

    「そのときにおれたちは助けられるようになりたいんだ」と言った言葉は嘘ではない。そうなりたいと思っている。

    それなのに、おれたちの足は震えてしまう。
    海から上がって、ベポやローさんが用意してくれていた焚き火に当たろうとした。

    「ペンギン、シャチ」
    ローさんがおれたちを呼んだ。手の中には小さな石ころがある。

    勢いよく石が虚空に、海に向かって投擲された。

    「ROOM」

    ブゥン、と青い膜が広がっていく。おれたちはローさんが何をしようとしているのか理解して駆け寄ろうとしたけれど、ローさんの方が早い。

    おれたちはローさんに背を向けて海に向かって走り出した。

    「シャンブルズ」

    パッと位置が入れ替わる。陸から15mほど離れていたはずの石が消え、ローさんが海へと落ちる。

    悲鳴をあげている暇などなかった。そんな酸素の無駄遣いをしている時間があればもっと泳げるはずだ。

    ゆっくりと沈んでいくローさんに向かって必死になって泳ぐ。腕を掴んだものの、重たい。互いを引き上げる時とは違う。これが「海に嫌われたモノ」なんだと理解する。

    だが、奪わせるものか。

    片腕ずつ掴んで必死に海面まで連れて行く。だが、海面に着いたところで安心できるわけではない。海に浸かっている以上、気を抜けばローさんは沈むのだ。

    確実に、急いでおれたちはローさんの身体をかわりばんこに抱えて泳ぐ。たった15mだ。もうそれぐらい余裕で泳げるようになっているのに怖かった。

    やっとのことで、陸に辿り着きびしょ濡れのローさんを火に当てた。ヴォルフを呼んできたらしいベポはおれたちの姿を見てへたり込んだ。

    「ローさん!!」

    おれたちはローさんにに向かって叫ぶ。スワローの海水温度の危険性をおれたちにしたのはローさんだろう。死ぬところだったんだぞ、と怒鳴りつけようとした時だ。

    「余裕だったじゃねぇか」

    冷え切った身体で、ローさんはおれたちの頭を撫でた。

    「次も頼むぞ」

    当然のようにそう言って、服を脱いで着替え出すローさんにおれたちは怒る気が抜けた。

    「……そもそも落ちないでくれ」

    「そうだよ、気をつけて」

    号泣しながら抱きついてきたベポと一緒に転がった。濡れた体にスワローの冷たい風が吹く。けれど、抱きしめられた身体は温かくおれたちは笑った。

    「……おまえら風呂じゃ!!風邪を引く。前から言ってるじゃろう。海から上がったら火に当たりながら服を着替えて、とっとと家に帰ってこい。今日は後始末はやってやる。ほら行け」

    ヴォルフの言葉が心配であるとわかっている。だからおれたちは素直に頷いた。

    あの時おれたちは2人で誓ったのだ。
    ローさんが海に入りたいというのなら、そうしてやれるようになりたいって。


    ペンギンとシャチはゆっくりと口を開いた。ポーラータングが、ヴォルフが作りおれたちに託した船がキャプテンの望みを叶えてくれたことが嬉しい。

    でも、おれたちだってお前の夢を叶えてやりたい。

    「あのね、ローさん。おれたち昔より泳ぎが上手くなったしさ。もうどこだって泳げるんだ」

    ローさんはおれたちのいう言葉の意味がわからないのだろう。目を瞬いていた。

    「もし、生身で海の中が見たいっていうのならおれたちはいつだってローさんが潜るのを手伝うよ。力抜けるのはどうにもしてやれないけど」

    キャプテンと呼ぶのを忘れて、おれたちはローさんと呼んでいた。慌てて後から「キャプテン」と付け足す。

    キャプテンは目を丸くして笑っていた。

    「そうだな。ペンギン、シャチ頼む。ベポ、浮上の準備だ。──海の中を見せてくれるんだろ」

    キャプテンが心底楽しそうに笑った。

    「アイアイ!」
    「任しとけ!」
    「楽しみにしてくれ!」

    おれたちは勢いよく立ち上がり、準備のために駆け出した。

    海水でびしょ濡れでゴーグルをつけさせたがきっと視界は滲んでいただろうし、息も苦しかったと思うのに、すごく嬉しいそうな顔をしていた。

    船に戻った後、興奮気味に感謝を伝えてくれたキャプテンのあの時の顔はおれたちの宝物だ。








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