ふと、思い出した。
この光景を、昔、見たことがあると。
基本的にちゃんとしているイザークが、ぽいぽいと軍服を脱ぎ捨ててインナーのままベッドに突っ伏している。
いつもはきちんとハンガーに掛けられている白い軍服が、今は床でペチャリと潰れている。
今日でひと段落した案件。
ついつい頑張り過ぎるきらいがあるイザークはここ数日まともに寝ていない。
どうしたって黒服の俺でもカバー出来ない件もあり、とにかくここまでやればイザークじゃなくても何とかなるという目処がたったので、後でちゃんと連れて帰るからとりあえず休めと、執務室に併設の仮眠室に放り込んだのだ。
情報将校の仮眠室とはいえ、一般兵のものとさして変わらない。家のベッドのようにふかふかでもなければデカくもない。
しかし、限界を超えたイザークの眠りを誘うに十分だったようで、生きてるか心配になるほどピクリとも動かず、思わず呼吸を確認したほどだ。
あぁ、あれはアカデミーに入学してしばらく経った頃だ。
珍しく別行動をしたイザークが、疲れ果てて同室の俺のベッドに寝ていたのだ。
あの頃はまだお互いに大切に思う気持ちはあれど、それがどういう感情なのかわかっていなかった。
いや、イザークとあの狭い寝台で普通に一緒に寝てた俺すげーな。今なら絶対無理。こんな美人のイザークと同衾して何もないことあるか?
環境が変わってなかなか寝付けないイザークを寝かしつけていたなんて、今思えばおかしな話だ。
でも、放って置けなくて、何かと気にかけて、傍にいた。
年齢的には成人していたとはいえ、俺たちはまだ子供だったのだ。
イザークの少し伸びた銀の髪を一房摘む。
俺の枕に乗せられた小さな丸い頭を撫でながら、起きる気配のない彼の頬にも口付けて、目元にうっすら浮かぶクマに親指を滑らせる。
相変わらず綺麗なイザーク。
あれから本当にいろんなことがあって、もう駄目だと思ったことも数知れず。
でも、今もまだ、こうして傍にいる。
「イーザ」
自分でも甘ったるい声が出たのがわかる。
仕方がない、最愛の人を呼ぶのだから。
これよりやさしい音なんてきっとこの世にない。
「ほら、起きて。もう終わったから」
「ん、ん…?」
「うちに帰ろ」
「でぃあ」
「はいはい、ディアですよ」
起こすのは可哀想だが、軍本部からお姫様抱っこでもして連れて帰るわけにもいかない。
俺は別に構わないが、イザークが許すわけないよな。
「ん、」
仰向けになったイザークが、両手を伸ばす。
なぁおまえほんと、ここ仮眠室だってわかってる??
「あーもぉ」
請われるままに抱き締めて、何とかギリギリ、キスだけで収める。
「続きは帰ってから、な」
ひしゃげた白い軍服を着せようとすると、イザークは悪戯に笑って。
「や、もういっかい」
ぺろり、濡れたくちびるを舐めて見せる。
そんな美味し過ぎる据え膳に我慢できるわけもなく、その薄いくちびるに再び噛み付いた。
最後までしなかった自分を褒めてやりたい。
余談だが、一人用の寝台に枕が二つあるのはご愛嬌だ。