酔ったミカエラの足取りは覚束なく、キチンと付いてきているかも怪しい。しかし、手を差し出したところで呂律の回らない舌でキャンキャンと文句をつけられるのは十分わかっていたので、すぐ斜め後ろを歩く姿を確認しながら足を進めていく。
暫く歩いたところで、右手に違和感を覚える。ふと視線を落として見れば、ミカエラの左手が俺の手首を掴んでいた。あまりの珍しさにぎょっと目を丸くするが、酔っているのならやりかねないかとすぐに納得する。
特に振り払うでもなく好きにさせたまま立ち止まることもなく歩み続ければ、ミカエラは手首を握ったままついてきた。
後ろを気にする必要のなくなった俺はただ帰り道に集中していたが、ゆっくりとミカエラの手が下がっていることに気付いたときには、手袋に覆われて素肌を隠した指先が俺の手のひらを撫でていた。そのまま互いの指先を擦り合わせてから柔らかな力で絡め取られて握られる。
好きにさせようとは思ったがさすがに酔いすぎだと、やたらと淫靡な手付きに煽られて跳ねる心臓を抑え込みながら後ろを振り返った。
視線が交わると、悪戯のバレた子供のように眉尻を下げたミカエラは、それでも楽しそうに頰を緩めている。
目に入った光景に、昔見た笑顔と変わらないことに胸が締め付けられ、今では酒の力を借りてやっと見られるものなのだと僅かな寂しさを覚えた。
どうにも堪らなくなった俺は、衝動的に繋がれていた手を引いてミカエラの体を腕の中へ抱き込む。大きく育った背中へ手を回して思い切り抱き締めれば、驚いたように肩を跳ね上げたミカエラの体から徐々に力が抜けていくのが伝わる。
どれだけそうしていたか。きっと数秒にも満たない時間だ。それでも互いの体温と想いを分かち合うには十分だったと思う。
「……にいさん、」
「…うん」
俺の肩へ額を押し付けて呟かれた声は、震えを押し殺していた。しゃくり上げて小さく揺れる体は、まだ胸の中にある。
愛おしげに片手でゆっくりと頭を撫でてやればミカエラの手が縋るように俺の着物を掴むので、抱き締める腕に力が込もる。
「今夜、…今日、は…一緒に……」
「わかってる、…言わんでいい、わかってるから」
しとしとと肩の布地が濡れていく。それだけで、顔を伏せたミカエラの美しい瞳から涙が溢れているのが伝わる。
辿々しく紡がれる言葉の着地点は、きっと俺が一番聞きたい言葉だった。それでも、それは今じゃない。笑って言って欲しいんだ。
遮るように言葉を返せば、ミカエラは小さく頷いて俺の背中へ腕を回した。
密着する体温が溶け合って一つになればいいと思う。いや、ミカエラにはミカエラでいて欲しいな。俺だけのもにしたいのに、そんなのはミカエラじゃない。それでも、一言でいいから「兄さんにものになりたい」と言って欲しい。
脳内で繰り返される支離滅裂な思考も、全て腕の中の弟でいっぱいだ。どうしたって、もうこれ以上、手離すことなど出来ないのだと悟ってしまった。