farewell my better halfそれは突然だった。午後の暖かさとビンズの平淡な語り声にやられて落ちかけていた意識が即座に引き戻される。
ぷつりと頭の奥で音がして、なにか繋がっていたものが切れた感触。
いきなり自分が半分の重さになったような気色の悪い浮遊感。
何かがごそりと背中全体から剥がれ落ちたような感覚。
いつの間にか胸の真ん中にぽっかり穴が空いている気がする。
すぐに、ああそうかと解った。
横を見るとオミニスとその向こうの転入生はすっかり眠りの世界に旅立っていて、深い寝息まで聞こえる。彼らを起こして言うべきだろうかと逡巡したが、結局口を噤むことにした。どうせすぐに手紙が届く。彼らはそれに酷く動揺するはずで、そうなるまでは何も考えずに眠らせてやるのが良いだろう。
目を閉じて彼女を思い出す。すっかり血色が失せた痩せて骨ばった手。乾いて煌めくこともなくなった諦めた瞳。精も根も尽きて枯れ果てた抜け殻。もう会えないとわかっても、驚くほど心が静かだった。取り戻せないと諦めたときに本物の彼女はとっくに失っていた。だから今更涙は出ないのだろう。
彼女は誰かと一緒にいられたのだろうか。眠っている間に逝けたのだろうか。
ステンドグラスを仰ぎ見ても、偉大なる魔法使いたちは何も答えてくれなかった。