3人で付き合ってる葉流圭(智将)・葉流圭(主)・主智。① つい、さっきまで腰や尻をわしづかみにしてきた大きな手と自分の手を重ねて「デケェ〜!」としまりなく笑う。
今さら当たり前のことに底なしの笑顔で大きさ比べを実施する要へ、清峰は腕に愛しさを込めて後ろからギュッと抱きしめた。
経験は人を図太くする。
あれほど恥ずかしがっていた裸も、今じゃ全裸でバックハグを受け入れてけろりとしている。どのくらいケロッとしているかというと、清峰のベッドの上で裸のままあぐらがかけるほどには順調に図太かった。
要の、甘さが尾を引くかすれた声が熱烈だったセックスの空気を呼び起こす。
入れ替わる形で要も智将もそれぞれ清峰に抱かれたのだが、つい数分前までこのフィジカルモンスターの相手を務め上げていた智将がちょうど、要の腿の辺りに頭を置いてグッタリと横になっている。
幼馴染から激しい熱情で愛し抜かれたことに満足こそたたえているものの、いまだ熱った瞳や頬が事後の危うい色っぽさを醸していた。
裏へまわって実体のない虚像の姿だが、甘えるようにくっ付いてくる智将が可愛らしくて、要がひっそりと髪をなでる仕草でいたわる。
「葉流ちゃん、やっぱ手デッッカ!つかみ取りチャレンジの申し子なのでは…!?」
「つかみ取りチャレンジって何だ?」
「手でつかんだモン全部、自分のモンにできるヤツのこと。ゲーセンとかでよくやってんじゃん」
「…自分のモノ……」
説明をなぞるようにそう呟きながら、思い出した不安を逃したくて清峰が要の首筋へ鼻先を擦りつけ、肌に吸いつく。鍛えられた薄く細い腰にまわしている腕へさらに力が乗った。
「…圭は、俺のモノだよな」
「っん…、えっ…いきなりどしたん?そんな話じゃなくなかった?」
「…うるさい、うんこ。うんって答えろ。早く」
「なんだとぉ〜〜答え恐喝すんのやめろって言ってんだろぉ〜〜マジありえナイツ!せっかくの事後ムードぶち壊しッ!」
甘く気だるげな空気感を楽しんでいたところをぶち壊しにされ、要が苛立ちのまま身体のデカい幼馴染の顎下へ頭を入れてグリグリとのけ反る。
可愛らしい仕返しへ、清峰も要の後頭へ自分の匂いをつけるように額を擦り付けてやり返し、「…圭」と今度は塩らしく答えをねだった。
こうされてしまえば要に勝ち目はない。
お決まりの、捨てられた子犬のような瞳のウィニングショット(決め球)を刺され、はぁ〜〜とため息で負けを認めた。
「はいはい、圭ちゃんはちゃん葉流のモノですよー。てか、マジでどーした?急にそんなん聞いてきて」
「……圭はどう思ってるか気になった…それだけ…」
いつも強気で強引な清峰にしては、歯切れが悪く、語気も弱い。
話の湿度が急に上がって、清峰が今どんな顔をしているのかも気になり、要がゆっくりと振り返る。
心配して正解だった。幼馴染は、美しさに不安がかげった表情を要の背中越しに押し隠そうとしていた。
「葉流ちゃん…」
"圭は"という言い方から、清峰が言葉を選んで話していることに勘付いて、おそらくほぼ確定の原因へ視線を投げる。
原因…智将は虚像の姿で相変わらず要の腿に大人しく頭を乗せ、快感の余韻でぼんやり壁へ視線を預けたままだ。
その隙だらけな愛らしい顔にキスしたい気持ちを今はそっちじゃないと抑え込み、頬の辺りをくすぐる仕草にとどめる。
そして、虚空をくすぐる要を不思議な顔で見つめていた清峰に向かって要が唇の前で人差し指を立て、意味ありげな瞳でシーッと合図した。
さらに、自分の手のひらへ清峰の指を引っ張ってきて、そこへ書くようにうながす。
不安に智将が関係していることが何も言わなくても要に伝わって、清峰の中の"圭はすごい"武勇伝がまた分厚さを増した。間が悪く要のことを清峰へ尋ねてしまった聞き手には、期待を裏切らず拷問でしかない。
なんでも聞いてやるから、さあ来い!と目で訴えてくる要へ1つ頷いて見せると、清峰がひと回り小さな頼もしい手の平へ人差し指で語りはじめた。
ひと文字ずつ順番に、「圭」「が」「う」「な」「ず」「い」「て」「く」「れ」「な」「い」と伝わってきて、智将が清峰のモノだと頷くことはせず、付き合っている事実に匿わせてどこか線引きしているのだろうと、要はほぼ満点の推測で勘繰った。
パラドックスは言葉より感覚の方が理解しやすい。
もっとも己のことを知らないのは己であり、もっとも理解しているのもまた、己であるように。
ぼんやりとしていた智将が、急に会話の途切れた2人の様子をいぶかって腿の上で寝返りを打ちながら視線を投げてくる。それへ要が、清峰がやるみたくプクッと頬をふくらませて怒っていることをそれとなく訴えかける。
いったい何なんだ?と書いてある表情で瞳を覗き込んでくる智将に、要がむくれた顔のまま、触れない頬を片手でギュッとつかむ仕草で咎めた。
こちらへ意識こそ向いてしまったが、肝心の会話の内容はまだ智将に気づかれていない。
要は「あっ、そーだ!」と何か思いつきを得た顔で片手で口元を隠し、そのまま唇を清峰の耳元へ寄せた。いわゆる、内緒話をする体(てい)だ。当然ながら、心や頭の中に言葉を浮かべてしまわないよう細心の注意をはらう。ここでバレてしまったら台無しだ。
「…なあ。葉流ちゃんと俺でさ、智将にチーミングしよ?」
"3人で付き合っているけど、智将に対して手を組まないか"という、可愛らしい耳打ちの提案へ、清峰は首が取れてしまうんじゃないかと思うほどうなずいて応じた。
さすがにこの空気感から、2人が何か企んでいるだろうことをさとって、智将が手をつきながら半身をゆっくり起こす。
意図せず、腰をひねった上目づかいの態勢に色をあてられて、要が小さく唾液を呑み込んだ。こういうところだ。下手なAV女優のお決まり発情雌ポーズなんかより、智将の無知なやらかしの方がビックリするほど勃つ。(日頃お世話になっているももなっちは別枠扱いだ)
えっっろ!!葉流ちゃんにも見せてやりてェな〜などと思っていると、今度は智将がむくれた顔を向けてきた。
『おい、主人。何か企んでるだろ。つまらないことへ葉流火を巻き込むなよ』
(うん、そー。何かだよ。智将も知りたいの?知りたいならちゅーして)
『するわけねェだろ、アホ。葉流火に聞けば済む』
(内緒話だからしゃべってくんないってば。で、どーすんの?)
実体と虚像じゃ触れ合えないのだから無駄もいいところだ。わざわざ恥ずかしい感情を背負う必要だってない…そう、ないはずなのに、好きで大切だと思っている2人が、2人だけで秘密を共有していることがなんだか寂しくて、気づけば智将は、拗ねた顔で腰を浮かせて要へキスを贈っていた。
当然、触れ合えるわけがないのだが、手をついて腰をしならせたその態勢から、拗ねた顔でキスしてくるその表情までたっぷり味わった要は、あやすような眼差しで智将に笑いかけると頭をなでる仕草で機嫌をとった。
そして、智将の虚像が見えない清峰から「圭…?」と呼びかけられるのに応じて身を返し、今度は要から清峰へキスを贈る。
触れ合うだけのキスにとどめてすぐに唇を離し、要が智将へ思わせぶりに笑いかけた。
「智将が可愛くちゅーしてくれたから、葉流ちゃんにも分けてあげる」
「嬉しい。…もしかして、圭にも言ったのか…?」
「ん?んーん。知りたいならちゅーしてって言ったら知りたいってちゅーしてくれた。そんだけだよ」
この会話で智将は要に喰わされたことへ気がついた。確かに、知りたい?とは聞かれたが、なら教えるとは言われていない。
あの、アホ…!!
アホのくせに、こういう人心を誘導する局面では無類の強さを発揮してくる。それも無意識にだから、なおさらタチが悪い。
ただ、そうやってキスをさせられただけなことよりも、自分に話が行き届いていないことへホッと安堵を見せる幼馴染の様子の方が、見ていてどうしようもない寂しさに埋められた。
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