お題
(数センチ、髪)
未来捏造
同棲済み
「ねぇ、王様、それ面白い?」
ずっとテレビに向けられている馬狼の視線をこっちに向けて欲しくて、馬狼の顔を下から眺めながら話しかける。
「ああ…」なんて心ここに在らずな小さな返事にむっとしながらごろりと身体を横にして、馬狼の腹に顔を埋める。
面白くない。つまんない。
先にソファに陣取ってテレビを見ていた馬狼の太腿に頭を乗せ、そのままゲームをしようとして一悶着あり、結局諦めた馬狼の太腿を独占しているというのに馬狼の視線はテレビに独占されていてムカムカとする。
腹いせに馬狼の腹に顔をぐりぐりと擦り寄せれば、嗜めるような声で呼ばれて視線を上げる。
「おい、クサオ、擽ってぇからやめろ」
視線を上げた先、紅い瞳は変わらず前を向いていて気を引きたくてまたぐりぐりと腹に顔を擦り寄せれば、ごつんと馬狼の拳が頭に落とされる。
「いたぁ」
そんなに力の入ってなかったそれを大袈裟に痛がってみれば、ふんっと馬狼が鼻で笑うので仕方なくまた仰向けになって下から馬狼を眺める。
テレビを見る馬狼が少し動くたびにさらさらと髪の毛が動いて思わず触りたくなる。
馬狼の髪の毛に触れるかな、と何と無しに手を伸ばした先、触るには後数センチ届かなくて指先をちょいちょいと小さく動かす。
そんな俺の指の動きが目障りだったのか、頭上から大きな溜息と舌打ちが聞こえてくる。
「はぁ…、おい、クサオ、さっきから何してんだお前。大人しくしてろ」
「あ…触れた」
テレビから視線を外して俺の顔を覗き込む様に見下ろしてきた馬狼の動きに、さらりと髪の毛が動いて首元に垂れてきたそれに指先が触れる。
青い監獄にいた時よりも少し伸びたそれは見た通りのサラリとした感触をしていて、毛先をくるくると指先で遊ばせる。
「おい、遊ぶな」
「んー…、俺、王様の髪の毛好き」
「はぁ?急に何言ってんだ」
きゅっと眉を寄せた馬狼が怪訝そうに俺を見下ろしていて、それでも太腿から落としたり突き放したりしない馬狼に甘やかされてるなあーなんて思う。
「さらさらだし、良い匂いするし、えっちだし」
「あ?遂にイカれたか?」
「そーかも」
呆れたように片眉を上げた馬狼がさりげなく俺の額に手の平を当ててきて、まるで熱を測るみたいなその行動に内心で苦笑する。
見上げる先、いつもの癖できゅっと尖らせた馬狼の唇にも触れたくなって、指先に絡めた髪の毛を少しだけ引き寄せる。
少し痛かったのか声を上げた馬狼の近くなった顔に引き寄せられるように顔を寄せて、突き出された分厚い唇に自分の唇を押し当てる。
「っ、ン?!」
ちゅっと音を立てて直ぐに離れれば驚きで引き寄せられたまま固まって俺の顔を見つめてくる馬狼の後頭部から毛先に掛けてするすると髪の毛を梳く。
「っ、っ〜お前」
「馬狼も俺の髪の毛好きでしょ?」
ぴくりと米神に青筋が浮き上がりそうな反応を見ながら、馬狼の髪の毛から手を離して代わりに馬狼の手をとって俺の頭へと置く。
ずしっとした重みを感じながら、そのまま手の平に頭を擦り寄せれば、脱力した手がぴくりと動く。
そのまま撫でるのを強要するように掴んだ馬狼の手を動かせば、ゆるゆると俺の頭を撫で始める。
「は?好きじゃねぇ、勝手言ってんな」
「だっていっつも触ってくるじゃん」
低い声で凄まれても、馬狼の手は俺の頭を撫で続けていて全く怖くない。
それに好きなのはきっと図星なはずだからとぼけたように言葉を返しながら頭を撫でられる気持ち良さに目を瞑る。
「あ?ざけんな、俺がいつお前の髪の毛触ったんだよ、寝ぼけてんじゃねぇ」
「…セックスの時」
「はぁ…ッ?」
きっと目を見開いて嫌そうな顔をしているだろう馬狼の表情を思い浮かべてにやけそうになる口元を引き締めながら何ともないように言う。
「いっつも俺の髪の毛握ってるの、もしかして気付いてない?まぁ、王様その時必死だもんね」
「ッ、なっ…、っ」
流石に頭を撫でる手が止まってわなわなと震えるのが身体越しに伝わってくる。
今頃耳の先まで真っ赤になってるに違いない。
揶揄いがいのある恋人の反応に内心で笑いながら言葉を続ければぎゅっと髪の毛を強く握られて痛みが走る。
「いてて、禿げちゃう」
「ッ〜、、っ、お前が!べろべろ、べろべろ犬みたいに舐めてくるからだろうがっ!」
「お前だってキス好きな癖に」
俺の言葉に我慢出来なかったのかばっと勢いよく立ち上がった馬狼に、弾かれ体勢が耐えられずそのままソファの下にドテッと落下して身体が痛みを拾う。
「お前の髪の毛バリカンで刈り上げてやる!」
「あ、お前と一緒がいい、バッテンやってよ」
床の冷たさが気持ち良くてそのままぐでっとフローリングに身体を預ければ、馬狼が俺を冷たく見下ろしてきていて、今直ぐにでもバリカンを持って来そうな雰囲気にお揃い良いなぁなんて呑気に考えておねだりしてみる。
「ざけんな、クサオ、テメェは丸刈りに決まってんだろうが」
「え、それはやだ。普通に泣く」
癇に障ったのか、どたどたと足音を立ててリビングから出て行った馬狼に嫌な予感がして、流石に床から身体を離しソファ越しに馬狼が戻ってくるのを待ち構える。
「オラ、下民!頭差し出せ」
「横暴だあー」
「逃げんじゃねぇ!その邪魔クセェ前髪とおさらばしやがれ!」
end.