お題
(布団の日、お片付けの日)
「おいクサオッ!良い加減片付けやがれ!」
掃除のついでに衣替えをするだとか言い始めて気合いを入れていた馬狼に嫌な予感はしていたけれど、腰に手を当てて雷を落としてきた恋人に仕方なく重い腰を上げたのがついさっき。
リビングを掃除する馬狼から逃げるようにそそくさと寝室のベッドにダイブして、何処からやろうかな、なんてぼんやりと考えてグッと身体を逸らして伸びをする。
めんどくさー…
ごろりごろりと身体を転がして右を見たり左を見たりして確かに馬狼のものよりも散らかっている俺のものの数に辟易とする。
一緒に片付けてくれても良かったのに。
馬狼が気合いを入れて朝から始めていた掃除は天気が良いからと寝室の掃除から取り掛かっていて、布団を干したのかふかふかしたベッドからなかなか動けない。
このまま寝ちゃいたいなんて頭の片隅で思いながら欠伸をして涙でクリアになった視界で棚の上に置いてある小瓶に目がいく。
それは「身だしなみぐらいちゃんとしろ」と怒る馬狼に頼んで一緒に買い物に行った時に馬狼が選んでくれた香水の小瓶で、その横には俺が馬狼に選んであげた小瓶も並んでいるのが見える。
そう言えば残り少なかったかも…
ベッドの上をごろりと転がるように移動してそのまま床にべしゃりと落ちる。
床の冷たさでなんとか目を覚ましながら立ち上がって俺の香水の小瓶を手に取ってみれば思った通りに残り少なくてなんと無しに小刻みに振ってみる。
何度か瓶を振ってパシャパシャと中の液体を揺らしてみればそれと同時に手の中から重みが急に消えて、あ、と思った時には瓶は宙を舞っていて考えるより先に直ぐに足が出る。
足を出した瞬間に、トラップするには硬すぎるそれを見て脳内で怪我すんなよと馬狼の声が響く。
ぴたりと止まった足の先、ベッドのヘッドボードに当たった瓶が跳ねてベッドへと吸収される。
結局、ベッドへと落ちた瓶を拾えばひび割れていてそこから残りの香水が溢れ匂いが充満してしまったので一応窓を開けて換気、それから布団に広がった香水の跡を隠すようにして何事も無かったようにリビングに戻った。
掃除も片付けも衣替えもひと段落して達成感に浸りながらプリンを食べている馬狼から数口分けて貰ったのが昼の話。
「おい、クサオぉ」
目の前にはメラメラと炎を背負っているように見える馬狼が布団を握り震えながら立っていて、やば、と内心で焦る。忘れてた。
「あー、ごめんなさい?」
「てめぇ、ふざけんな!くせぇ!」
「えー?お前が良い匂いだって言ったんじゃん」
限度があんだよっ!なんて叫びながら怒り狂う馬狼が部屋を出て行こうとするから慌てて手首を掴む。
「良いじゃん、もう変えるのも面倒だし俺もう眠たいんだけど」
「っ〜」
もう22時を回っているし今から布団を交換なんてめんどくさすぎ。馬狼も寝る時間をこれ以上ずらしたく無いのか俺の言葉に少し悩む素振りを見せたかと思えば大きい舌打ちをして悪態を吐き捨てる。
「くそがっ、今度からちゃんと言え」
「だってお前怒るじゃん」
「ガキみてぇなこと言ってんじゃねぇ!」
ぷんぷんと怒りながら布団に潜り込む馬狼に続いて横になればふわりと香ってくる香水の匂いがして嗅ぎなれたそれにそう悪い気はしない。
「お前よりはガキだもん」
「チッ、くそがき」
たった数年しか違わないから普段は嫌な年下扱いも、俺の都合に合わせて使えば忌々しそうに呟かれて背中を向けられる。
そんな馬狼の背中にぴったりと体を寄せて、サラサラな髪の毛に顔を埋めればシャンプーの匂いと馬狼の匂いがしてくる。
暫く馬狼の高い体温と匂いを堪能していれば、居心地悪そうにもぞもぞと馬狼の身体が動く。
いつもなら直ぐに寝息を立てる筈なのにと不思議に思って名前を呼べば、ビクッと肩を跳ねさせる。
「珍しいね?寝れない?」
「……、ッ」
「馬狼?」
様子が変な馬狼の顔が見たくて身体を起こせば、耳まで真っ赤にしているのが見えて、もう一度名前を呼ぶ。
「っ〜、お前の匂いがして、っ、寝れねぇ」
ふざけんな、くそが、お前のせいだ。なんて続けて言われたけれどそんなのどうでも良いくらいに衝撃を受けていてきゅぅっと締め付けられる心臓がドキドキして思わず馬狼を仰向けにして上からのしかかる。
「なにそれ」
「ッ」
可愛いっていう言葉や感情はこういう時に使うんだろうか。
真っ赤になって羞恥心なのか怒りなのか体を震わせる馬狼に堪らなく興奮して顔を寄せようとすれば、馬狼の手に阻まれる。
「だぁ、っ、くそ、急に盛ってんじゃねぇ!」
「今のはお前が悪いでしょ」
「ぜってぇしねぇからな!さっさと寝ろ!」
「お前が寝れるように手伝ってあげる」
「いらねぇ!」
end.