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    snmgargt

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    クリスマスに一緒にケーキ食べる遥としゅとそれを眺めてるモモちゃんにたどり着くまでの話

    🐶 机の上に置かれた小さな箱を前に気がつき、遥はしばし固まった。シンプルなピンク色の包装紙に包まれ、リボンのついたそれは、昨晩までは確実に存在しなかった代物だ。鍵をかけて寝たはずだ。これは間違いない。だとすると、あの扉の鍵を勝手に開けて部屋まで侵入してきた人間がいる。誰か、など、考える必要はない。このシェアハウスで全員の部屋の鍵を当然のように手にしているのは、一人のクソガキしかいないのだから。すぐにでも捨ててやろうかと思った。しかし、厄介なことに送り主が送り主だ。速攻捨てようとするのを見据えて、自分にとって重要なものが入れられている可能性はゼロではない。なにせ堂々と人の私物を盗むような人間だ。忌々しそうに舌打ちをして、遥は雑な手つきでラッピングを外す。持ち上げた箱は随分と軽く、からりと音がする。何かと思い蓋を開けてみれば、四つ折りにされたメモ用紙だった。不審に思いながらも開いてみると、引き出しの二番目、という文字だけが書かれていた。引き出しの、二番目?恐る恐る視線を机の右下へと落とす。まさか開けたのか、ここを?勝手に?まぁそもそも人の部屋に勝手に忍び込むやつなのだから、今更な話であるけれども。いつになればプライバシーというものを覚えるんだ、あいつは。遥は苛立ちながら引き出しを開ける。やはりそこにも同じようにメモ用紙が入っていた。本棚の三番目。あぁ、馬鹿らしい。もう無視して、直接本人に聞き出した方が早い気がした。しかし簡単に口を割るような奴ではないのも明白だった。仕方なく遥は指定された箇所を巡る。おかげで次から次へと部屋の中を探索させられる羽目になった。あのクソガキ、一体どこまで人の部屋を物色してきたのか。ついに遥にとって聖域である、スターファイブのコレクションを並べてある棚にまで誘導されたときは、本気で頭が痛くなった。もうこれで最後にしてやる、あとは知らねえ。そう思い、大切に飾ってあったスターレッドのフィギュアに添えられたメモを開くと。

    「・・・・なんだよこれ」

    そのメモをしばらく眺めたあと、遥は部屋を出た。そして、リビングで掃除をしている一つ上の先輩に声をかけた。



     宇治川紫夕がサンタなどいないと知ったのは、たぶん、他の子どもたちと比べればずっと早い時期だった。誰かにネタばらしをされたわけじゃない。絵本の世界でサンタの存在を知った時、使用人に頼んで手紙を出してもらったことがあるのだ。プレゼントはいらないから、パパとママとあそびたいです。そんなふうにしたためた手紙がどこへ行ったのかは知らないけれど。朝起きて自分の部屋にどんどんと運び込まれる興味のないおもちゃやぬいぐるみを前に、幼い紫夕は悟った。サンタさんなんていないのだと。それでもよかった。あの頃の紫夕は、サンタの存在なんかよりも両親がいつ帰ってきてくれるかということの方が大切だったから。あぁサンタはいないんだ、ふうん、そっかぁ、と。ぼんやりとだが受け止めることができた。それでも。翌年も同じように運び込まれてきた、顔もよく知らない大人たちからのプレゼントの周りを、ぐるぐる走り回る純粋な愛犬を見て思ったのだ。あぁ、そうだ。ぼくがこの子のサンタになってあげなくちゃと。だってきっと、ここの大人たちは、サンタさんにはなってくれないから。僕のサンタになってくれないし、モモのサンタにも、なってくれない。それじゃあぼくが、と。それから毎年、紫夕は愛すべきモモにクリスマスのプレゼントを用意した。それは彼が中学生になった今でも変わらないことだった。

    「モーモ!久しぶり!」

    この間帰ってきたのは今月頭だから・・三週間くらい待たせちゃったかなぁ。ごめんなぁ。などと謝る紫夕に、モモは嬉しそうに戯れつく。普段の笑顔とは全く違う、心の底から嬉しそうな顔で、紫夕はそれを受け入れる。

    「モモ。今日はクリスマスやで。だからこれ、プレゼント」
    「わふっ」
    「あはは、あったかい?」

     取り出したのは大きなブランケットだった。モモはすんすんと匂いを嗅いだのち、そのままゴロゴロとはしゃぎだす。どうやら随分とお気に召したようだ。あはは、かわいいかわいい。紫夕は笑いながらスマートフォンでその愛くるしい姿を写真に収めて、自分もその上に寝転んだ。

    「モモに似合う色、探してきたんやで。きもちい?あったかい?」

    モモはしばらく尻尾を振って興奮していたけれど、だんだんと眠くなってきたのだろう。うとうととした様子で、紫夕の方をじっと見つめる。ねむいの?寝てええよ、と撫でてやればすぐにその目を閉じる。あたたかな温もりを掌で感じながら、紫夕はぼんやりと考える。世間はクリスマスに浮かれているようだったけれど、この屋敷では誰もそんなもの気にしない。現に、帰ってきた紫夕を出迎えた使用人は、食事や風呂の時間など必要最低限の会話だけをこなしてさっさと持ち場へ戻っていった。別に今更どうでもいいことだ。サンタはいない。この家に、一度もやってきたことはない。でも、モモがいる。それでいい。それだけでいい。そんなふうにゆるゆると頭を巡らせていると、だんだん眠くなってきた。ふぁ、と欠伸をして。モモに寄り添うようにして丸まった。



    「・・・相変わらずデケエな」

     大きな門の前で、ため息をつくと。呼吸が白い靄になって現れて、そうしてすぐに消えた。寒い、死ぬほど寒い。雪は降りそうだし、最悪だ。せっかくのクリスマス・・と思うほど浮かれている側の人間ではないが。少なくとも貴重な冬休みの1日を、こんな無駄なことに使ってしまうとは。遥は意を決したようにその屋敷に足を踏み入れた。二条様でしたね。いらっしゃいませ。などと、本心ではミリも思ってもいなさそうなもてなしを受け、廊下の先へと案内される。ここまで振り回されたのだ。せめてもの抗議としてノックもせずに障子を開いてやった。しかし、帰ってくる言葉は何ひとつない。なぜならば、部屋の主は眠りこけている最中だったからだ。とても呑気に、愛犬とくっつき合いながら。呆れたようにそれを見つめて、遥はポケットの中でぐしゃぐしゃに丸められている、最後のメモのことを思い出す。引き出しの何番目だとか、クローゼットのどっち側だとか、人の部屋を散々勝手に弄くり回してきたくせに。最後の紙に描かれていたのは文字ではなく。下手くそなガキの落書きだった。

    「・・・いつも思うけど、全然似てねぇんだよ」

     呆れたように小さく呟く。無理矢理起こしてやろうとも思ったが、畳の上に座ったことでなんだかどっと疲れが出てきた。そのまま一人と一匹が目覚めるまで、スマホを弄って過ごしていると。数十分経った頃、ようやく紫夕が目を覚ます。こちらをぼんやりと見つめたのちに、本当に不思議そうにこう言った。

    「は?なんでいんの?」
    「・・はぁ!?」
    「いや何怒ってんの?びっくりしたぁ、なに?怖いんやけど」
    「お前が呼んだんだろ!?あんな変なメモ残しやがって・・!」
    「メモて・・あぁあれ?おもろかった?」
    「面白くねえよ!人の部屋勝手に入るなって言ってんだろ!」
    「まぁええやろ今更。それにちゃんとプレゼント用意してあげたし」
    「は?」
    「なに?」
    「・・・プレゼントってなんだよ」
    「?あのフィギュアとか置いてある変なとこに置いてあげたやろ?新曲」
    「・・・・新曲?」
    「え?なに?気づかんかったん?ほらあの・・なに?赤い人形入ってた箱ん中」
    「・・・中?」

    変なところだの赤い人形だの、突っ込んでやりたい箇所はあったけれど。今は全ておいておくことにした。遥は頭の中で自分の聖域を思い出す。このメモが添えられていたスターレッドのフィギュアは、箱の中にしまわれた状態で置いてあった。紫夕曰く、あの中に楽譜を入れてきたという。中?中だと。そこまで見ていない。何故ならば、遥はその箱に添えられていた犬のメモを最後の一枚だと認識していたからだ。

    「中って・・いやなんで勝手に開けんだよ!?未開封のモンだったらどうすんだよ!?」
    「でも一回開けてるあとあったやん」
    「それはそうだけど・・待て、そもそもなんでそんな面倒なことしてんだお前」
    「え?なんか暇だったし、べつに普通に渡してもよかったけど。遥があたふた部屋の中探し回ってたらおもろいかなぁって」
    「面白いってお前ここに・・・は!?もしかしてまだカメラついてんのか!?外せって言ったろ!?」
    「前のは外してやったやろ。また新しいのつけただけや」
    「もっとタチ悪ィよ!ていうか・・いやまて、お前それ・・見てたのか?」
    「いや、後で見ようと思ってたし。さっきまで寝てたし。え?なになに?なんかおもろいことした?」

     紫夕は途端に目をキラキラとさせてくる。思わず墓穴を掘ったことを自覚した遥は、慌てて制止しようとする。

    「してねえし見るんじゃねえよ!今すぐ消せ!」
    「えー絶対やだ。後でみよ・・・・ん?あれ?まって?ていうか遥は結局なんでここにおるん?」

    紫夕は至極当然の疑問に立ち返ってくる。ぐ、と言葉に詰まる。どうして、だと。こっちが聞きたいくらいだ。どうしてこんな、小っ恥ずかしい勘違いをしてしまったのか。大体お前もわかりにくいことすんな。なんで犬の落書きしかないメモを箱の外側に残すんだよ。ここにあるよ、くらい気が利いたコメントは書けねえのかよ。おかげでこっちは・・。どこにどういったカメラが置かれていたのか知らないが、意味深げにあの犬の落書きを見つめていた自分が録画されていた可能性に、いっそ死にたくなってきた。紫夕にしてみればあの犬の落書きは「はいおつかれさん、ここがゴールやで〜」みたいな感覚のものだったのだ。だというのに。あれを、あの犬の絵を。この広い部屋を示唆するものだと、勝手に思い込んだだけでも最悪なのに。その間抜けな自分の姿は完璧に捉えられているらしい。

    「え?もしかしてわかんなくてわざわざ聞きにきたん?電話すればええのに、そないプレゼント欲しかったん?遥ってガキやなぁ」
    「・・・違ぇよ」

     力なく否定しながらも、もうそういうことにしたほうが早いのかもしれないという気分にすらなってきた。ちょうどその時、控えめなノックが響く。紫夕が返事をすると、先ほど出迎えた使用人がお茶を持ってきたようだった。てきぱきとした仕草でテーブルの上に温かな紅茶と、ケーキが用意される。

    「珍しい、ケーキなんかうちにあったんや」
    「えぇ、今日はクリスマスですから」
    「・・ふーん」
    「それではごゆっくり」

     支度を済ませると、さっさと去っていく。紫夕は未だに不思議そうな顔で、ケーキを見つめていた。そんなに珍しいのかと尋ねれば、紫夕は頷いた。

    「うーん・・あんまりなかったかも」
    「ふぅん、なぁこれ食っていいんだよな」
    「・・・えー、ええけど」
    「なんだよ」
    「なんか遥とクリスマスケーキ食べるって、気持ち悪いなぁ」
    「はぁ!?じゃあお前は食わなくていいだろ!?」
    「は?なんで?そもそも僕の家のもんやろ。遥のことなんか呼んでないし」
    「・・・お前な」

     紫夕はそう言って、テーブルの前へと座り直す。そうするといつのまにか目を覚ましたらしいモモがゆるゆるとした歩みでその横へと移ってきて、嬉しそうに微笑んだ。あは、モモは食べられないから後でおやつ食べよ、などと。一瞬で声のトーンを変えながら。もはや突っ込むことも億劫になり、遥は無言でケーキに手をつけた。

    (・・・・美味い)

    流石、この豪邸で出されるものなだけある。このケーキにありつけただけ、よしとしよう。などと、割り切れるほど簡単な話ではなかったけれど。少なくともここへ来たことは無意味ではなかった・・・。無理矢理にでもそう納得させるしかなかった。カメラのデータについては、食べ終わった後考えることにした。
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    snmgargt

    DONEクリスマスに一緒にケーキ食べる遥としゅとそれを眺めてるモモちゃんにたどり着くまでの話
    🐶 机の上に置かれた小さな箱を前に気がつき、遥はしばし固まった。シンプルなピンク色の包装紙に包まれ、リボンのついたそれは、昨晩までは確実に存在しなかった代物だ。鍵をかけて寝たはずだ。これは間違いない。だとすると、あの扉の鍵を勝手に開けて部屋まで侵入してきた人間がいる。誰か、など、考える必要はない。このシェアハウスで全員の部屋の鍵を当然のように手にしているのは、一人のクソガキしかいないのだから。すぐにでも捨ててやろうかと思った。しかし、厄介なことに送り主が送り主だ。速攻捨てようとするのを見据えて、自分にとって重要なものが入れられている可能性はゼロではない。なにせ堂々と人の私物を盗むような人間だ。忌々しそうに舌打ちをして、遥は雑な手つきでラッピングを外す。持ち上げた箱は随分と軽く、からりと音がする。何かと思い蓋を開けてみれば、四つ折りにされたメモ用紙だった。不審に思いながらも開いてみると、引き出しの二番目、という文字だけが書かれていた。引き出しの、二番目?恐る恐る視線を机の右下へと落とす。まさか開けたのか、ここを?勝手に?まぁそもそも人の部屋に勝手に忍び込むやつなのだから、今更な話であるけれども。いつになればプライバシーというものを覚えるんだ、あいつは。遥は苛立ちながら引き出しを開ける。やはりそこにも同じようにメモ用紙が入っていた。本棚の三番目。あぁ、馬鹿らしい。もう無視して、直接本人に聞き出した方が早い気がした。しかし簡単に口を割るような奴ではないのも明白だった。仕方なく遥は指定された箇所を巡る。おかげで次から次へと部屋の中を探索させられる羽目になった。あのクソガキ、一体どこまで人の部屋を物色してきたのか。ついに遥にとって聖域である、スターファイブのコレクションを並べてある棚にまで誘導されたときは、本気で頭が痛くなった。もうこれで最後にしてやる、あとは知らねえ。そう思い、大切に飾ってあったスターレッドのフィギュアに添えられたメモを開くと。
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