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    kariya_h8

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    kariya_h8

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    #主明
    lordMing

    挙動不審なぺごの話「ねえ、最近のリーダーちょっとおかしくない?」
     知り合いから電話で呼び出され、ルブランの外へ消えていった蓮を見送ったあと、真が口を開いた。疑問を呈すると言うよりも確認を行うような口調だった。作戦会議も終わったことだし蓮もいなくなったしコーヒーも飲みきった。ルブランにはもう用はないと明智が立ち上がった瞬間の出来事だ。
    「真も? 私もなんか変だな~とは思ってたんだけど」
     彼女の言葉に杏が顔を上げ、
    「よかった。私だけがそう思ってたんじゃなかったのね」
    「バグかと思ってた」
     春に双葉も同意し、
    「違和感は感じていたが、やはりそうか」
    「ワガハイの勘違いかと思っていたが、間違いじゃなかったみたいだな」
    「え、なに、何の話?」
     男性陣も続いて深く頷く。ただ竜司だけが何のことか見当もつかないようできょろきょろと皆の顔を見回していた。
    「明智君は? 何か思うところとかないかしら」
     真は皆の言葉に小さく頷くと、入口からの逆光を背負って明智に水を向ける。少しばかり眦のつり上がった逃走を許さない瞳は、彼女の姉によく似ていた。
     まさか自分にも話題を振られるとは思わず、明智は少し瞠目するもすぐに柔和な笑みを湛えてみせた。
    「えっと、僕は君たちと違って学校も違うし、彼と一緒にいる時間も短いから……」
     確かに、思い返せば最近の蓮は少しばかり様子がおかしいように思えた。けれどそれは「ちょっと調子悪いのかな?」「嫌なことでもあったのかな?」程度の微細な変化だ。彼らが神妙な顔つきをするほどのことなのだろうか。
     もしかして自分が知らないだけで、彼の身になにか起きている?
     冗談ではない、これからがパレス攻略にせよ明智の計画にせよ本番だというのに、こんな所で戦線離脱などされてしまっては全てが水の泡だ。明智は奥歯を少し噛み締めるも、すぐになんてことの無いように首を傾げ、
    「君たちは彼の何が気になったんだい?」
     なんて探偵らしく聞き込みをしてみることにした。
     まずは情報収集。物事を判断しそして行動に移すには何よりも正確な情報が必要だ。明智と彼らとで蓮に対する印象が違うとすれば、そこには決定的な情報の欠落があるはずだ。
     彼らは目を合わせたあと、まず「私はね」と杏が口を開いた。
    「牛丸……あ、うちの怖い先生なんだけど、その牛丸が投げたチョーク、いつもならひょいって避けるのに、三回も彼の頭に当たったの。さすがの牛丸も授業が終わる頃には彼のこと心配しはじめてたよ」
     彼女の言葉で思い出したのか、竜司が「そういや」と続ける。
    「この間ファミレス行ったとき、カルピスにコーヒーミックスしたやつ飲ませたけど何も反応なかったな……てっきり美味いのかと思って後で自分で飲んでみたけど激まじすぎて吐いた」
     げ、とベロを出して顔を思い切り歪めて見せると、祐介が突如荒く音を立てて立ち上がった。
    「貴様! 食べ物を粗末に扱うなどなんと罰当たりな! そこに直れ! 俺がたたっ斬ってくれる!」
    「お前今刀ねーだろ! 悪かったって!! けど、ちゃんと全部飲んだんだから粗末にはしてねーよ」
     飲んだんだ……絶対不味いのに……。
     竜司の報告に満足したのか祐介は深く頷き、着席する。
    「ふむ、ならばいい。食べ物の話で思い出したが、先日雪見だいふくを腹がいっぱいだからと丸々ひとつ寄越してきたんだ。信じられるか、雪見だいふくだぞ!? どう考えてもおかしいだろう、憐れみかなんなのか知らんが、あの雪見だいふくを……ひとつ……まるまると……信じられん……俺は絶対に譲らん……」
     まあお前はそうだろうな。
     祐介が誰かに食べ物を譲ったなどとあっては、まずは頭の心配をする。その次に心だ。ぶつぶつと雪見だいふくの流線型の美しさ、バニラアイスと求肥の融合の奇跡がどうのこうの言い始めた彼を放置して、次に双葉が手を上げた。
    「こないだ夕飯一緒に食べたら、ムドオンカレーが出てきた。惣治郎が寝込むレベル。あれはやばい。ぶっちゃけホムンクルス一個使った。すまん」
     最後にぺこりと軽く頭を下げ、貴重アイテムの無断使用を報告した。あのアイテム現実世界でも使えるのか。
     双葉ちゃんが無事で何よりよ、と春が無事に胸をなでおろし「そうそう」と両手を合わせる。
    「彼ね、異世界で思いっきり自分のコートの裾踏んづけて転んでたの。それはもう見事に。すごかったの、体操選手みたいに足を伸ばしててね、一瞬の出来事だったし、そのあと何事もなく歩いてたから私の見間違いかなあって思ったんだけど……」
     今までの他のメンバーの話を聞くに残念ながら見間違えや幻覚ではなさそうだ。真も私も、と続ける。
    「異世界なら私も。ちょっと前にセーフルームで休憩しようってなったとき、カレーと点滴バッグ出し間違えてたのよね……私の方が聞き間違えてたっけって思ってたけど、間違えないわよね? カレーと点滴」
     それは明智も覚えている。皆で話し込み、体力が厳しいから点滴を使おうという結論になったのだが、ジョーカーが何かを気にするようにクロウの方をじっと見つめた後取り出したのは、雨宮蓮謹製のカレーライスだった。え? カレー? 今点滴って話してたよね、と一様に戸惑いつつもあまりにもジョーカーが自然に取り出したので、誰も突っ込めなかった。出されたものはしょうがない。とりあえずカレーを食べ、体力は各々で回復した。
     最後にモルガナが髭も耳もぺたんと寝かせた。
    「ワガハイも見間違いかと思ったし今でもそう思いたいんだが……アイツ、パレスでふらふら歩いてたと思ったら強シャドウにぶつかって謝ってたんだよな……シャドウも驚きすぎてお互い会釈してたし……結果的に戦闘回避してたけどよ……今でもあのときの相手がシャドウだったって気付いてないんじゃねえか?」
     もう誰かあいつを病院連れてけよ!!
     やべぇな、やばいね、どうするよ、と次々上がる恐ろしい報告に、仲間たちは顔をひきつらせる。
     ここまで来るともはやよく生きていたなという感想しか生まれない。ムドオンカレーで誰かを本当に殺す前に、パレスでうっかり足を踏み外して死なないうちに、一刻も早く病院へ連れていったほうがいい。たぶんどこか悪い。悪い場所が見当たらなければその医者がヤブなだけだ。そんな危機感を抱いていたからこそ、真は蓮が席を外したこの瞬間に話を振ったのだろう。
    「それで?」
     真の鋭い視線が明智を貫く。
    「えっ?」
    「明智君も何かあったんでしょう? 最初に言葉を濁していたわよね?」
    「いや……僕のは皆ほど大したことないから……」
    「大したことあるかないかはこっちで判断するから。いいから教えて」
     こういう逃げを許さないところが、冴さんっぽいんだよなぁ。
     少し目を逸らしつつ、腿の前で指を軽く組んだ。だって本当にくだらないことなんだ。少なくともムドオンカレーレベルではない。
    「ええと、僕は、その……最近毎日のようにチャット来るし、即レスしなかったら電話かかってくるし、電話に出ないと出るまで鳴らしてくるか学校か駅で待ち伏せされるし、パレスでは過剰なくらい隣を陣取って来るし、フィニッシュ決めたらドヤ顔向けられるし、何か試作品ができる度にルブラン呼ばれるし、かと思ったら落ち着きなくこちらの顔色伺ってくるのに、聞けば特に用事は無いって言うから正直訳が分からなくてうざったいな……くらいで……って皆なにその顔」
     真は額に手をやって天を仰ぎ、杏は両手で顔を覆い、双葉は細かく肩を震わせながら机に突っ伏し、春は満面の笑みを浮かべ、祐介は得心したように深く頷き、モルガナは目をまん丸にして尻尾を膨らませ、竜司だけが何のことか見当もつかないようできょろきょろと皆の顔を見回していた。
     なんなんだよ、言いたいことがあるなら言えよ。
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