吉祥寺の雪「これから雪がひどくなる予報だろ? だから今夜は早じまいなんだ、ごめんね」
え、と零れた吐息は真っ白な靄となって吉祥寺の夜に消えていった。
うっすらと雪が積もり始めた東京はまだ20時にもならないというのに百貨店の明かりは落ち、雑貨店も明かりはあるものの閉店作業をはじめ、ファストフードでさえ入口に張り紙を貼ってシャッターを降ろし始めている。個人経営の居酒屋は気合で営業を続けているようだが、それも時間の問題だろう。駅には通常の五倍は人がひしめき、誰もかれもが我先にと帰路へと急ぐ。
指先ほどもある大きな牡丹雪が、止む気配もなく空から降り注ぎ、街灯の明かりすらもかすませた。
――そんな、たかがこれくらいの雪で。
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