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    iduha_dkz

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    iduha_dkz

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    円のことで冷静さを失った桃吾をなだめる綾の話
    目の前に自分よりめちゃくちゃ怒ってて突っ走りそうなやつがいたら、自分も怒ってても冷静になるだろうなぁと
    金煌が群馬と大阪にある系列校という説を取っています

    許せない誤解シニアの同期から届いたメッセージを見て、桃吾は腸が煮えくり返るどころか蒸発しかねないほど怒っていた。そして相談されたことに対して、自分の手には解決の手段がないことも苦々しく思っていた。こんなことになるならあの時の写真撮影に入っていたらと思うものの後の祭りで、その写真を撮った綾瀬川が風呂から戻ってくるのを待つしかない。
    あいつ風呂どんだけ長う入っとんねん。
    綾瀬川の入浴時間は特に長いわけではないのに、怒りと早く解決したいという焦りで一秒経つのさえひどく長く感じる桃吾は、正確な時間感覚が飛んでしまっていた。風呂場に乗り込んで話せる話題でもないため、部屋で綾瀬川が戻ってくるのをただ待つしかなく、起こってしまったことだけしか考えられなくなりより気持ちが焦っていく。
    だから、いざ綾瀬川が風呂から寮の部屋に戻ってきた時、扉が動いた瞬間に「綾瀬川!」と叫ぶように呼んで、湯上がりの綾瀬川をひどく驚かせることになった。
    「ちょ、なに」
    戻っていきなり怒りの感情がこもった声で呼ばれて、綾瀬川はとっさに再び部屋から出ていこうとするが、怒りの向き先は綾瀬川ではなく他に向いていることを感じ取り、とりあえず話を聞いてみることにする。
    「こないだの、金煌大阪との練習試合で円と撮った写真、持っとるか?」
    「え? 持ってるけど、なんで?」
    「くれ」
    綾瀬川が所属する群馬金煌と円と大和が所属する金煌大阪は系列校だ。地域は離れているが練習試合が定期的に組まれていて、先週も試合に行ってきた。
    試合前後には多少会話できる時間もあり、そういう時に綾瀬川は円のところへ行ってよく話すのだが、桃吾は約束がどうのこうのと言って絶対に着いてこない。円もそれを当然のようにしているので綾瀬川は自分が口を出すことではないのだろうなとそっとしている。
    「……いらないって言ってたのに急にどしたの?」
    そんな、いつもの遠征では円と敢えて距離をとっている桃吾が、急に写真を欲しいと言い出す理由が綾瀬川には謎だった。だからとりあえず理由を聞くと、今にもヤカンの蓋が沸騰した勢いのまま飛んでいきそうな声で、桃吾の答えが返ってくる。
    「円が炎上しとる」
    「炎上? 円が?」
    あまりにも円と縁が遠そうな言葉に、綾瀬川は理解に少し時間がかかってしまった。しっかりしていて、誰とでも上手くやれるのが綾瀬川の知る円だ。眼の前にいる暴言が軽く出るキャッチャーならいざ知らず、円が炎上するような言動をするとは思えない。
    「円はなんも悪いことしてへん! 誤解やねん」
    綾瀬川が円が炎上するようなことするわけないという反応をしたことで、桃吾の怒りは少しだけ落ち着いたらしい。引き続き沸騰はしているものの、蓋が飛ぶほどではなく蒸気が溢れるくらいにおさまっていた。
    そんな桃吾はスマホを開くと一つのSNSの投稿を綾瀬川に見せる。そこには、「写真の奥にたまたま映り込んどったけど、金煌大阪練習試合相手に暴行しとる」という投稿文と一緒に、手前に先輩達が写る写真の端に赤い丸がついているものと、その赤丸の部分を拡大したらしい解像度がボケた綾瀬川と円が写っている写真が載っていた。
    「……円が俺を殴ってるように見えなくもない、かな?」
    映り込んだ角度が悪く表情が見えないのと、右腕の上げ方がちょうど振り上げているように見えなくもなく、見ようと思えばカメラが偶然捉えた暴行シーンと捉えられなくもない。そんな写真だった。
    「先週の練習試合、遠景で撮られとったらしい。盗撮やのに、後から写真確認したら殴っとるように見えるて騒いだやつが、そいつ自身が盗撮しとったことと合わせて炎上しとる」
    写真単体なら暴行シーンとは断言できない内容なのに、撮影禁止の練習試合を部外者が勝手に撮っていたことで炎上が広がって、そのきっかけとなった写真も一緒に広まっている最中。その渦中で暴行犯にされてしまったのが円。ボケた写真でも指が欠けた左手が写っているので一人に特定されてしまう。そこまで整理して綾瀬川の心に浮かんだのは、たった一つのことだった。
    「円、運悪すぎない?」
    炎上中の写真の場所はちょうど綾瀬川と円が写真を撮っていた場所で、だから桃吾は綾瀬川なら写真を持っていると気付いたのだとは察した。「せっかくだし一緒に撮る?」と一応誘ったので、撮影時にいなくても場所は桃吾も知っていたのだ。
    「けど、あんときの写真あったら誤解は解けるやろ。やから写真くれ」
    確かにその時に撮った写真を公開すれば円への誤解は完全に解け、盗撮犯だけが叩かれる対象になるだろう。綾瀬川だって、円が不当な非難を浴びている現状は許せない。けれども。
    「うーん、桃吾には渡さない」
    「はぁ?」
    今冷静さを失って沸騰中の桃吾に写真を渡しても、事態は綺麗に収まらないと綾瀬川は判断する。睨んでくる鋭い金色の眼光を綾瀬川は片手で塞いで、固まりきっている桃吾の視界を奪った。
    「ちゃんと聞いて。これ、一応練習試合中の写真じゃん。勝手に練習試合の写真公開したらいけないってルールあるんだし、俺達までやっちゃダメでしょ」
    練習の様子や野球の話題は対戦相手への情報になる。だから部外者の撮影は禁じられているし、野球部は許可なくSNSを使えず、練習試合中の写真は勝手に公開してはいけない。それが野球部としてのルールだった。完全に忘れていてすぐにでも公開しそうな勢いの桃吾は流石に止めざるをえない。
    「やったらオレが許可取りにい」
    「いや桃吾は部屋にいて。邪魔」
    「は?」
    公開に許可が必要ということには納得して、でもだったらすぐに許可を取りに行こうと綾瀬川の手をどけて部屋を出ようとした桃吾の言葉を途中で遮って、綾瀬川は桃吾の手を掴んで引き止める。
    邪魔と言い切られたことにまた沸騰の温度が上がり始めた桃吾が絶対に直談判に行かないように握る手に力を込めると、綾瀬川は桃吾が間違えないように丁寧に話しかけた。
    「これ俺の写真だし。それに、焦ってる桃吾が隣にいたら、取れる許可も取れなくなるじゃん。いいから待ってて」
    今桃吾が関わるとまとまるものもまとまらなくなるのだと、綾瀬川は訴えかける。円の名誉が傷ついているのが許せないのは自分もだから、成功率を上げるために今は待っていて欲しい。
    そんな訴えかけは伝わったのか、桃吾の視線からは棘が取れた。
    「けど円は」
    「い、い、か、ら」
    それでもまだもごもごと自分で行く理由を訴えようとしてくる桃吾に、綾瀬川は強めに来るなと念押しした。大事なのは円の名誉が守られることで、誰が救うかではないだろう、と。綾瀬川だって、円が盗撮犯の炎上に巻き込まれて暴行をしたという誤解が広まっていることに怒っているのだ、と。そんな気持ちは、ほんの少し苛立ちとなって言葉に含まれていたかもしれない。
    「……おん」
    ようやく納得できたのか、桃吾は扉に向かおうとするのをやめてその場に座り込む。このまま放置もなんとなく良くなさそうで、何かないかと綾瀬川は明日の授業を思い浮かべた。
    「落ち着かないなら、古典の教科書でも音読しとけば。次竹取物語だっけ」
    音読していたら他のことを考えにくくなり、一周音読すればその間に沸騰もある程度は収まるだろうと考え、綾瀬川はそう言い残してから寮の部屋を出た。
    寮の部屋には少しした後に、竹取物語を読み上げる桃吾の声があがる。見つかりようのない宝が必要とされる物語を読み上げるうちに、湧き上がっていた桃吾の心はゆっくり静かに温度が下がっていった。


    「ただいまー。記念写真だし出していいって許可でたよー……ちょ、まだ読んでるの」
    「おまえが読んだら言うたんやろ」
    「いや一周したら止めてると思ってたから。ところで桃吾」
    「おん?」
    「なんで円の炎上知ったの?ひょっとして毎日エゴサしてる?」
    「ファイターズん時の仲間から炎上しとるからなんとかならんか連絡きただけや!」

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    iduha_dkz

    DONE綾と桃吾の高校での卒業式の話です。
    前半は1年時、後半は3年時。
    3年一緒に過ごすうちに色々理解して仲良くなり情も湧いたけど、それでも桃吾の一番は円なので綾の一番にはなれないことを最後に突きつける、一番のために他の大事なもの切る痛みを伴う別れが100通り見たくて書きました。
    最後の日を迎えて卒業式で久しぶりに会った二つ上の先輩は、綾瀬川と桃吾が二人で花束を持ってきたのを見て、はじめは落第点しか取れていなかった学生が百点満点を取った時の教師のような顔で微笑んだ。
    「二人一緒に来るとは思ってなかった」
    「元主将を心配させるなって、二年の先輩たちが二人で行けゆうてくれはったんです」
    「桃吾、それ言っちゃったら不安にさせるやつじゃない?」
    「大丈夫だよ綾瀬川。雛がどうしても俺に渡したかったって言えない照れ隠しなのはわかってるから」
    「主将ぉ!」
    「あ、ならよかったです」
    抗議の声を出した桃吾を綾瀬川はまったく気遣わず「ほら渡すんでしょ」と花束を差し出すように促す。長持ちすることを考慮してドライフラワーで作られた花束を二人から受け取り、鮮やかな花束に一度視線を落とした後、彼は自分より身長の高い後輩二人を見上げた。
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    iduha_dkz

    MAIKINGぜんぜんまったく書いてる途中だけれどもこの会話出すなら今じゃない?となったのでワンシーンだけ抜き出したもの
    大学から一緒の学校になった花瀬花の、4年クリスマスの日に瀬田ちゃんが花房に告白してOKもらえたその少し後のワンシーンです

    こちらのその後的なものになります
    https://poipiku.com/7684227/9696680.html
    「花房さ、オレのせいでカノジョと別れたって前言ってたじゃん。確か一年のバレンタインデー前」
    「……よく覚えてるね」
    「その後からオレに付き合っちゃわないって言うようになったら、そら覚えてるだろ」
    「そっか」
    「やっぱオレのこと好きになったからってのが、カノジョと別れた理由なん?」
    「……そう。カノジョより瀬田ちゃんと一緒にいたいって思っちゃったのに、隠して付き合えるわけないじゃん。俺から別れ切り出した」
    「え、態度に出て振られたとかじゃなく?」
    「別の人の方が大事になっときながら、振られるくらい態度に出すなんてサイアクじゃん」
    「あーまぁ、確かに?」
    「ほんとにいい子だったんだよ……俺が野球最優先でもそれが晴くんだからって受け入れてくれててさ……でもだから、カノジョより優先したい人ができたのに、前と変わらずバレンタインのチョコもらうなんてできないじゃん」
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    iduha_dkz

    MOURNING話が進んで解釈変わる度に書き直される円桃。
    枚方シニア戦が終わったら完成します。たぶん。

    5/13追記
    13話で解釈が変わったので、この流れのままで書き換えるのはここで終了です
    今後はこちらで→https://poipiku.com/7684227/8748586.html
    枚方シニア戦の夜の円桃構えたところでピタリと静止し、そこに吸い込まれるかのように、豪速球が投げ込まれる。ミットにボールが納まる音だけが繰り返されて、U12と枚方ベアーズの試合は終了した。
    格上相手を当然のことのように抑えたエースピッチャーに対し、ある人は球威の凄さに圧倒され、ある人は球種の豊富さに目を奪われ、またある人はそのコントロールの正確さに魅了されていた。
    とにかく鮮烈だったのだ。綾瀬川次郎という才能は。
    だから、綾瀬川の活躍の裏で当然のことのように行われていた異常なことに気づいたのは一握りのよく見ていた人だけで、円が気づいたのも桃吾と常日頃から組んでいて、彼のことをよく知っていたからだ。
    枚方ベアーズ戦の桃吾のリードは、これまで円に対して行われたものより、ずっと厳しい要求がなされていた。ストライクギリギリの下半分に集められる投球は、打者にも打ちづらいが投手にだって投げにくい厳しいリードだ。
    1982