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    iduha_dkz

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    iduha_dkz

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    綾と桃が、円の高校入って初登板した練習試合の動画を2人で見る話です
    可視光線の理由で綾と桃が同じ高校に入って、なんだかんだうまくやってる世界線

    寮にあるバッティング練習設備に行くと、予想した通りに桃吾がいた。見つけやすい場所にいてよかったと思いながら、さっそく探してたいた理由を話す。

    「桃吾、試合の動画、また届いてた。金煌の練習試合もあるけど、見る?」
    「……おー、後で見る」

    桃吾は少しだけ動きを止めて、それからまたボールに向かおうとした。
    桃吾は配球の研究で届いた試合の動画は全部見てるけど、金煌はいつも一番最後にしている。今まではそれでもよかった。
    けれど。

    「後でいいの? 先発円だけど」
    「は!?」

    バットを落とすなんて面白いなぁと思っていると、矢継ぎ早に質問が飛んでくる。
    「円先発ぅ? 何回まで? 何球投げとる?」
    「知らないよ。俺先発円なの見て、すぐ動画止めて桃吾探してたから」
    「はぁ?」

    正直に知らないことと知らない理由を伝えると、不思議な物を見る目で見られた。そんな理解不能みたいな反応じゃなくて、わざわざ教えたんだから感謝するべきなんじゃないかなぁ。

    「早く見たいかなーと思ったんだけど、違った?」
    「……見る」
    それでも、その一言でわざわざ探した時間が報われた気がした。

    「じゃあ俺の部屋ね」
    「おん? 食堂のテレビじゃないんけ?」
    普段なら一緒に見たい人が合流して見れるよう、食堂のテレビで試合を見る。実際俺も最初少し再生した時はそうだった。けど。

    「んー、なんとなく」
    円の登板を見る桃吾の様子は、誰にも見せない方がいい気がした、という理由は言わない。というか、たぶん落ち着かないし。見てる最中他の人が関わってくるのはイヤだ。
    「そか」
    理由を言わなくても納得してくれたのは、桃吾も食堂で見るのはイヤだったんだろう。練習の片付けを二人ですませて、俺の部屋に向かう。走るギリギリの速さで歩く桃吾は、やっぱり見ていて面白かった。


    映像の中の円を、緊張した桃吾の目が追っている。一時も見逃すまいとしている様子を見ていると、なんで円と離れてこっちに来たのという、何度目かの質問をまたしたくなる。
    まぁ、聞く度に返ってくるのは、「綾瀬川は知らんでいい」という返事で、「関係ない」ではなく「知らんでいい」だと、俺には聞きだせそうにないなととっくに知るのは諦めた。

    とはいえ、きっかけについてはなんとなく想像がついている。今回の動画でもわかる円の左手の指。何を考えてるかまでは知らないけど、桃吾が円の側を離れた理由なんて、それに決まっていた。
    動画の中の円は、昔見たのと同じように必要な声をかけながら、チームの中心で点をとられないよう守っている。昔と変わらないように見えることに、円がどれだけ努力したかなんとなく伝わった。

    攻守が変わって円がマウンドから降りると、息がつまったような緊張感が桃吾から消える。
    「あのキャッチャー、ストレート使いすぎや。変化球もっと使えば今の打者アウトにできたやろ」
    そして、今度は急に賑やかになる。円の球を受けてたキャッチャーが気に入らないらしい。なんで円から離れたの、と今度は愚痴として言いそうになって、それは飲み込んだ。

    「やっと試合出るくらい復帰したんなら、まだ変化球は本調子じゃないとかあるんじゃない? 桃吾、今の円知ってるわけじゃないでしょ」
    代わりに言った言葉はちょっとキツイかなと思ったけど、桃吾には効果覿面だった。もうその後はキャッチャーへの文句も言ったりせず、ただただじーっと円の様子を見つめている。

    「あ、円交代だね」
    「……短い」
    交代が終わるまでずっと黙っていて、交代したらこれ。本当に面白い。というか、円が投げてたのそんな短くなかったと思うんだけど。
    「練習試合だし、色々試してるんじゃないの」
    なんで俺桃吾を宥めてるんだろうという気持ちになるけど、こんな風になる気がしたから食堂で見るのを止めたんだったと思い出す。
    他の人が関わることじゃない。これは、俺と円と桃吾のことだ。

    「綾瀬川」
    「ん?」
    てっきり円の登板が短いことへの文句が続くと思ったのに、真剣さがこもった声で呼ばれてびっくりした。
    「教えてくれて、ありがとうな」
    そしてお礼まで言われる。珍しい。とても、珍しい。

    「そんなに気になるなら、側を離れなきゃよかったのに」
    思わず、言う気のなかった気持ちが漏れた。どうせ理由は教えてもらえないと言うことはなくなっていたけど、やっぱり気にはなるし何よりこんな桃吾を見たら一言くらい言いたくなる。

    「うるさいわ。お前のせいじゃ」
    けれど、思わずこぼれた俺の本音への反応は、これまでとは違っていた。
    「へー、俺のせい、かぁ」
    「知らんでいい」と言われるよりは、桃吾がこっちにきた理由に近づいた気がして、やっぱり急いで知らせてよかったと思う。
    「なんで嬉しそうなん」
    また理解不能って顔で見られた。どう答えても、今度はたぶん桃吾の反応が正しい。それなら。
    「桃吾は知らなくていいよ」
    桃吾が気づくかどうかはわからないけれど、この一言だけ言って、動画の停止ボタンを押した。
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    iduha_dkz

    DONE綾と桃吾の高校での卒業式の話です。
    前半は1年時、後半は3年時。
    3年一緒に過ごすうちに色々理解して仲良くなり情も湧いたけど、それでも桃吾の一番は円なので綾の一番にはなれないことを最後に突きつける、一番のために他の大事なもの切る痛みを伴う別れが100通り見たくて書きました。
    最後の日を迎えて卒業式で久しぶりに会った二つ上の先輩は、綾瀬川と桃吾が二人で花束を持ってきたのを見て、はじめは落第点しか取れていなかった学生が百点満点を取った時の教師のような顔で微笑んだ。
    「二人一緒に来るとは思ってなかった」
    「元主将を心配させるなって、二年の先輩たちが二人で行けゆうてくれはったんです」
    「桃吾、それ言っちゃったら不安にさせるやつじゃない?」
    「大丈夫だよ綾瀬川。雛がどうしても俺に渡したかったって言えない照れ隠しなのはわかってるから」
    「主将ぉ!」
    「あ、ならよかったです」
    抗議の声を出した桃吾を綾瀬川はまったく気遣わず「ほら渡すんでしょ」と花束を差し出すように促す。長持ちすることを考慮してドライフラワーで作られた花束を二人から受け取り、鮮やかな花束に一度視線を落とした後、彼は自分より身長の高い後輩二人を見上げた。
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    iduha_dkz

    MAIKINGぜんぜんまったく書いてる途中だけれどもこの会話出すなら今じゃない?となったのでワンシーンだけ抜き出したもの
    大学から一緒の学校になった花瀬花の、4年クリスマスの日に瀬田ちゃんが花房に告白してOKもらえたその少し後のワンシーンです

    こちらのその後的なものになります
    https://poipiku.com/7684227/9696680.html
    「花房さ、オレのせいでカノジョと別れたって前言ってたじゃん。確か一年のバレンタインデー前」
    「……よく覚えてるね」
    「その後からオレに付き合っちゃわないって言うようになったら、そら覚えてるだろ」
    「そっか」
    「やっぱオレのこと好きになったからってのが、カノジョと別れた理由なん?」
    「……そう。カノジョより瀬田ちゃんと一緒にいたいって思っちゃったのに、隠して付き合えるわけないじゃん。俺から別れ切り出した」
    「え、態度に出て振られたとかじゃなく?」
    「別の人の方が大事になっときながら、振られるくらい態度に出すなんてサイアクじゃん」
    「あーまぁ、確かに?」
    「ほんとにいい子だったんだよ……俺が野球最優先でもそれが晴くんだからって受け入れてくれててさ……でもだから、カノジョより優先したい人ができたのに、前と変わらずバレンタインのチョコもらうなんてできないじゃん」
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    iduha_dkz

    MOURNING話が進んで解釈変わる度に書き直される円桃。
    枚方シニア戦が終わったら完成します。たぶん。

    5/13追記
    13話で解釈が変わったので、この流れのままで書き換えるのはここで終了です
    今後はこちらで→https://poipiku.com/7684227/8748586.html
    枚方シニア戦の夜の円桃構えたところでピタリと静止し、そこに吸い込まれるかのように、豪速球が投げ込まれる。ミットにボールが納まる音だけが繰り返されて、U12と枚方ベアーズの試合は終了した。
    格上相手を当然のことのように抑えたエースピッチャーに対し、ある人は球威の凄さに圧倒され、ある人は球種の豊富さに目を奪われ、またある人はそのコントロールの正確さに魅了されていた。
    とにかく鮮烈だったのだ。綾瀬川次郎という才能は。
    だから、綾瀬川の活躍の裏で当然のことのように行われていた異常なことに気づいたのは一握りのよく見ていた人だけで、円が気づいたのも桃吾と常日頃から組んでいて、彼のことをよく知っていたからだ。
    枚方ベアーズ戦の桃吾のリードは、これまで円に対して行われたものより、ずっと厳しい要求がなされていた。ストライクギリギリの下半分に集められる投球は、打者にも打ちづらいが投手にだって投げにくい厳しいリードだ。
    1982